「加熱式タバコ」に警鐘~米国で多発する電子タバコによる健康被害

(写真:ロイター/アフロ)

 米国の若い世代が、電子タバコの喫煙によると思われる重篤な呼吸器障害で続々と入院している。日本でも加熱式タバコのアイコス(IQOS)を吸って重い肺炎になるケースが報告され、これら新型タバコによる健康への害が次第に明らかになってきた。

電子タバコによる健康被害か

 世界保健機関(WHO)は最新のタバコ対策報告書で加熱式タバコや電子タバコについて、従来の紙巻きタバコと同じ規制をするべきと注意を喚起した。これら新型タバコに関する科学的な研究の多くがタバコ産業側から出てきていることもあり、利益相反の観点からそのエビデンスに疑問が残ると指摘。2009年12月から2017年11月6日までに出版された研究31を調べた論文によれば、そのうち20にタバコ産業の関与があったことがわかっている(※1)。

 電子タバコの流行は多くの国々で深刻な社会問題になっている。米国では下院議会や食品医薬品局(FDA)、米国疾病予防管理センター(CDC)などが、10代の電子タバコ使用について警告し続けてきた。電子タバコが喫煙習慣や違法薬物のゲートウェイになるという指摘がある通り、米国の高校生の約27%はなんらかのタバコ製品に手を出すようになっている(※2)。

 一方、新型タバコによる健康被害も出始めている。ミネソタ州、ウィスコンシン州、イリノイ州など米国各地では、電子タバコを使用した喫煙者が続々と入院しているのだ。

 つい最近も米国イリノイ州の公衆衛生当局(IDPH)が、6人の若者が電子タバコの使用後に急性肺疾患などの呼吸器障害を起こして救急入院したことを報じ、電子タバコの使用に関して警告を発した(※3)。同時に医療関係者へは、胸の痛みを訴えたり呼吸器に問題が起きている患者には電子タバコの使用を疑うよう要請している。

日本でもアイコスで

 日本でも加熱式タバコで重篤な呼吸器障害を引き起こし、一時は生命の危機に陥った患者の症例報告が出ている(※4)。これはアイコスを吸った後、急性好酸球性肺炎になった患者だ。好酸球は白血球の一種でアレルギー反応を制御するが、アイコスに含まれる物質が劇症のアレルギー反応と好酸球の活性化を引き起こしたのではないかと考えられている。

 アイコスからは、アイコスを製造販売しているフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)自身が米国FDAに提出した資料により、FDAが定める有害物質(Harmful and Potentially Harmful Constituents、HPHCs)の全ての調査結果を意図的に出さず、また未知の有害物質が多く検出されていることもわかっている(※5)。未知というのは、FDAが定めるHPHCsリスト以外という意味だ。

 そもそもタバコ製品から出る物質は7000種類以上であり、その全てについて分析と健康影響が明らかにされているわけではない。FDAが策定したHPHCsリストは、発がん性など特に悪影響が出ることがわかっているものだが、PMIはリストにある93物質のうち53物質の結果を報告していない。

 53物質のうち50物質は、呼吸器や粘膜に対して毒性を持つエチルベンゼン(Ethylbenzene)、呼吸器や神経への悪影響と発がん性の疑いがあるフラン(Furan)、急性毒性と発がん性、環境への悪影響のある2,6-ジメチルアニリン(2,6-Dimethylaniline)が含まれている。さらに、FDAに報告されなかったHPHCs以外の56物質は、従来の紙巻きタバコよりアイコスから多く出ていた。

 これら56物質には、生体への影響が不明のシクロアルケン(Cycloalkene)類、急性毒性と皮膚刺激性がある無水性リナロールオキシド(Dehydro Linalool Oxide)、皮膚炎や神経障害を引き起こす危険性があるシクロヘキサン(Cyclohexane)、DNA損傷を引き起こすことが疑われる2(5H)フラノン(2(5H)-Furanone)、皮膚や喉など粘膜へ刺激を与え、神経系に影響を及ぼす2-フランメタノール(2-Furanmethanol)などが含まれている。

 こうした物質の中には食品添加物などに使われているものもあるが、試験管レベル(in vitro)で細胞への悪影響や腫瘍の発生が確認されている物質も多い。また、これらの物質を、アイコスなどの加熱式タバコで呼吸器から肺の奥深くまで吸い込んだ場合の毒性について詳しいことはわかっていない。

 さらに問題なのは、タバコ葉の加熱温度によって発生する物質が変化することだ。

未知の物質による影響は

 アイコスなどの加熱式タバコの多くはタバコ葉を電気的に直接加熱するデバイスだが、有害物質の量はタバコ会社が加熱温度を適正にコントロールした状態で測定されている。タバコ会社が有害性の低減をPRするのは、こうした数値が根拠になっている。だが、外気温、使用や清掃の頻度、サードパーティ製デバイスの使用といった環境の違いで、タバコ葉を加熱する温度が変化し、そこから発生した物質が有毒性を帯びる危険性があるのだ。

 一方、欧米で人気の電子タバコは、グリセロール(Glycerol)やプロピレングリコール(Propyleneglycol)といった溶剤を揮発させ、ニコチンを摂取するシステムだ。こうした物質が加熱されることで、発がん性のあるホルムアルデヒド(Formaldehyde)やアセトアルデヒド(Acetaldehyde)、アクロレイン(Acrolein)といった物質に変化することが知られている(※6)。

 電子タバコと同じシステムの日本の加熱式タバコにはプルーム・テック(Ploom TECH)とプルーム・テック・プラス(Ploom TECH+)がある。当然ながら、同じようにグリセロールとプロピレングリコールが多く出ている。米国の若い世代に続出している呼吸器疾患が電子タバコによるものだとすれば、プルーム・テック・シリーズにも注意が必要だろう。

 以上をまとめれば、新型タバコには紙巻きタバコからはあまり検出されない物質が出ているが、肺の奥深くまでこうした物質を吸い込んだ場合、健康にどのような悪影響が出るかわかっていない。しかし、米国や日本では徐々に新型タバコの使用によって重篤な症状が引き起こされると疑われる症例が出始めている。

 タバコ製品の特徴は、それに含まれるニコチンの依存性により、ユーザーに対して数年から何十年という長期的な使用を強いるところにある。仮に有害物質がごく少量だとしても、朝起きてから寝るまで断続的かつ長期の喫煙により摂取されれば、そうした有害物質が少しずつ蓄積し、喫煙者の健康を確実に蝕んでいくのだ。

※1:Erikas Simonavicius, et al., "Heat-not-burn tobacco products: a systematic literature review." Tobacco Control, doi: 10.1136/tobaccocontrol-2018-054419, 2018

※2:CDC, "Progress Erased: Youth Tobacco Use Increased During 2017-2018." February 11, 2019

※3:IDPH, "Number of Hospitalizations Potentially Tied to Vaping Increases." August 9, 2019

※4-1:Takahiro Kamada, et al., "Acute eosinophilic pneumonia following heat‐not‐burn cigarette smoking." Respirology Case Reports, Vol.4, Issue6, 2016

※4-2:Toshiyuki Aokage, et al., "Heat-not-burn cigarettes induce fulminant acute eosinophilic pneumonia requiring extracorporeal membrane oxygenation." Respiratory Medicine Case Reports, Vol.26, 87-90, 2019

※5:Gideon St.Helen, et al., "IQOS: examination of Philip Morris International’s claim of reduced exposure." Tobacco Control, Vol.27, s30-s36, 2018

※6:Leon Kosmider, et al., "Carbonyl Compounds in Electronic Cigarette Vapors: Effects of Nicotine Solvent and Battery Output Voltage." Nicotine & Tobacco Research, Vol.16(10), 1319-1326, 2014