「アイコス」有害性についての新研究とは~呼吸器細胞をひどく傷つける

新型アイコスを手にするPMIのカランザポラスCEO(撮影筆者)

 加熱式タバコを製造販売しているタバコ各社の間で商戦が激化している。そんな中、アイコス(IQOS)に関する新研究が出た。アイコスの呼吸器への毒性は、電子タバコや紙巻きタバコなど他のタバコ製品とそう変わらないというのだ。

アイコスで劇症の肺炎に

 コンビニエンスストアへ行けば、子どもを含む多くの客が目にする場所に各社のパンフレット棚が林立し、レジの背後には紙巻きタバコを含むタバコ製品がずらりと並ぶ。タバコ会社の競争が激しくなれば、自然に広告が増え、その結果、未成年者を含む喫煙率が上昇するが(※1)、主に女性と若年層が喫煙率を押し下げている日本での影響が懸念される。

 日本で新型タバコといえば加熱式タバコとなるが、現在、最もシェアが大きいのはフィリップ・モリス・インターナショナル(以下、PMI、日本ではPMJ)が製造販売するアイコスだ。最新の調査によれば、日本におけるマーケット・シェアはアイコス71.8%、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のグロー(glo)が20.1%、日本たばこ産業(JT)のプルーム・テック(Ploom TECH)が8.1%ということだ(※2)。

 アイコスのシェアが少し下がりつつあるようだが、やはり加熱式タバコで7割以上のシェアとなる。アイコスを吸っている喫煙者も多いと思うが、最近になってオーストラリアのタスマニア大学などの研究グループが、ヒトの細胞を、アイコスからの煙、紙巻きタバコの煙、電子タバコのエアロゾルにさらし、細胞がどのようにどれくらい傷つくのか調べたという研究成果を論文にして発表した(※3)。ちなみに、まだオーストラリアでアイコスは販売されていない。

 すでに日本では、アイコスを吸ったことで急性の好酸球性肺炎になった重症患者の症例報告もいくつか出ている(※4)。好酸球性肺炎はあまり発症例のない病気とされているが(※5)、アイコスを吸って重症の肺炎になった複数の患者が日本から報告されているわけだ。

呼吸器の細胞をひどく傷つける

 タスマニア大学の研究グループは、ヒトの気道の上皮細胞と平滑筋細胞を用い、アイコス(ニコチン1.4mgのヒートスティック)、紙巻きタバコのマールボロ、Bluという電子タバコからそれぞれ煙やエアロゾルを発生させ、細胞を入れたフラスコへ吹き込んだという。それぞれ濃度(0.1%、1.0%、5.0%、10.0%)を変化させ、MTTとLDHという細胞毒性を評価する試験を行い、細胞の周囲(細胞外マトリックス)の分析、細胞のエネルギー代謝経路(解糖、ミトコンドリアの好気呼吸)を分析するSeahorse Bioscience社製アナライザー(細胞に影響を与えずに計測できる分析機器)にかけて評価した。

 前述した症例報告にある通り、アイコスには健康懸念の危険性があるが、実際の喫煙者でこのような実験をすることは再現性の点でも倫理面でも不可能だ。疫学調査には時間がかかるため、喫煙者が吸い始めてせいぜい数年しか経っていないアイコスの呼吸器への悪影響を評価できるようにはまだなっていない。そのため、研究グループはヒトの呼吸器の細胞を使って実験したというわけだ。

 その結果、アイコスと紙巻きタバコの1.0%、5.0%、10.0%で細胞がひどく傷つくことが確認され、電子タバコの5.0%、10.0%でも同じ現象がみられた。アイコスの煙にさらされた細胞では、酸化ストレス(フリーラジカル)によってミトコンドリアの機能不全が起き、細胞の周囲に細胞が硬くなる(繊維化)現象が起きていたことがわかったという。こうした現象は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの原因になる。また、気道に悪性細菌が付着しやすくなり、呼吸器の感染症を引き起こすことが知られている(※6)。

 加熱式タバコを製造販売しているタバコ会社はどこも「紙巻きタバコと比べて」有害物質が低減されているとPRしているが、有害物質は全くゼロになっているわけではない(※7)。特にニコチンの量は、依存性を継続させるために低減できないというジレンマがある。

 タバコ会社は、新型の加熱式タバコを続々と市場へ投入している。製品群が増えれば、それだけ分析研究が複雑になり、結果が出るまでに時間がかかる。それまでの製品と同じ害の低減が新製品で実現されているかどうかも疑問だ。実際、プルーム・テックの新製品は従来品よりも有害性が高い。

 アイコスにしても同じアイコス・ブランドとして、現在の加熱システムではない新製品を用意しているようだ。紙巻きタバコはもちろんだが、有害性物質をゼロにできない以上、そもそもこうした製品を売ってはいけないのではないだろうか。

※1-1:Joe B. Tye, et al., "Tobacco Advertising and Consumption: Evidence of a Causal Relationship." Journal of Public Health Policy, Vol.8, No.4, 492-508, 1987

※1-2:吉見逸郎ら、「日本のたばこ問題に関する現状・歴史的背景・今後の見通しについて─我が国における喫煙の実態─」、日呼吸会誌、第42巻、第7号、2004

※1-3:尾崎米厚、「青少年の喫煙行動,関連要因,および対策」、保健医療科学、第54巻、第4号、284-289、2005

※2:REUTERS, "Japan Tobacco ratchets up smokeless war with new products." 2019年1月17日など。これらの記事で数字の出所として「Nomura」となっているが、確認したところこれは野村総合研究所のことではないとのことだった。

※3:Sukhwinder Singh Sohal, et al., "IQOS exposure impairs human airway cell homeostasis: direct comparison with traditional cigarette and e-cigarette." ERJ, Vol.5, Issue1, 2019

※4-1:Takahiro Kamada, et al., "Acute eosinophilic pneumonia following heat‐not‐burn cigarette smoking." Respirology Case Reports, Vol.4, Issue6, 2016

※4-2:Toshiyuki Aokage, et al., "Heat-not-burn cigarettes induce fulminant acute eosinophilic pneumonia requiring extracorporeal membrane oxygenation." Respiratory Medicine Case Reports, Vol.26, 87-90, 2019

※5:Federica De Giacomi, et al., "Acute Eosinophilic Pneumonia: Correlation of Clinical Characteristics With Underlying Cause." Chest, Vol.152, Issue2, 379-385, 2017

※6:Jonathan Grigg, et al., "Cigarette smoke and platelet-activating factor receptor dependent adhesion of Streptococcus pneumoniae to lower airway cells." BMJ Thorax, Vol.67, Issue10, 2012

※7:Erikas Simonavicius, et al., "Heat-not-burn tobacco products: a systematic literature review." Tobacco Control, doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2018-054419, 2018