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「テレビ」の見過ぎで「死亡リスク」が上昇した時代は終わるのか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 最近の先進諸国における健康問題は「座り過ぎ」だ。これは運動不足ともいえるが、座り仕事が多くなったりテレビの視聴時間が長くなったりすることで、II型糖尿病や心血管疾患にかかって死亡リスクが上がると考えられているからだ(※1)。こうした懸念は、情報の取得方法がスマホやタブレット端末に移行したことで変化するのだろうか。

座ることは健康に悪いのか

 立ち続けてテレビを見る人は少ない。そのため人間集団に対する調査研究では、座っている(Sedentary Behavior)時間の推定にテレビ視聴時間を用いることが多い(※2)。こうした研究では、けっこう運動する人であっても、テレビを長く見る場合、座っている時間が長くなるために死亡リスクが高くなることが示される。

 長い座り仕事や非活動的な生活で運動不足になり、その結果として糖尿病(II型)や心血管疾患などの生活習慣病にかかりやすくなるという研究は多く、最近では立ち仕事用のPCデスクも発売されているようだ。

 一方でテレビを視聴した時間は自己申告であったり、座っている定義が研究によって異なっていたりして、本当に座り過ぎが健康に悪影響を与えるのか疑問を呈する研究者もいる(※3)。

 自分が1日何時間テレビを見ているか、正確に答えられる人は少ないだろう。家事をしながら見ているかもしれず、必ずしも座り続けているわけでもない。

 そもそも我々ヒトにとって座ることがなぜ悪いのか、休憩とどう違うのか、運動不足による代謝の不調以外の要因はまだはっきりわかっていない(※4)。

 テレビ視聴の時間という尺度ではなく、加速度センサーを組み込んだデバイスによって調査参加者の行動を分析するという研究も増えてきた(※5)。

 こうしたウェアラブルなデバイスによる計測分析の場合、かつては不正確なものが多かったが、技術的な進歩もあって信頼性が高まっている。問題はむしろ調査参加者のフォローアップで、血糖値やコレステロール値などのデータをどう取得するのかが問題らしい。

テレビ離れできない世代

 いずれにせよ、様々な研究結果から見えてくるのは、エコノミークラス症候群の危険性もあるのでずっと座りっ放しより時々は立ち上がって歩き回るほうがいいということだ。

 スマホを片手に外へ出て「ポケモンGO(スマホゲームアプリPokemon GO以下、ポケモンGO。Pokemonの「e」にアキュート・アクセント)」や陣取りゲームの「Ingress」といった位置ゲーをやる人もいるだろう。ひと頃よりグッと減ったが、出現スポットかジムでもあるのか今でもたまにポケモンGOをやっているプレーヤーの姿を街で見かける。

 座り過ぎが健康懸念になっている状況は、スマホや位置ゲーなどの出現で変化しているのだろうか。ポケモンGOは健康にいいという研究が出されていたが(※6)、もともと運動をあまりしなかった人が外へ出て歩いたため、健康に効果のある結果になったのではないかという研究も多い(※7)。

 例えば、米国のメアリービル大学の研究グループが調べたところ、ポケモンGOのプレイヤーはそうではない散歩者よりも歩く速度が遅く、立ち止まることが多いため、有酸素運動につながっていなかったという(※8)。つまり、ポケモンGOをすれば、運動習慣のある人よりも劣るけれど、あまり運動しない人を外へ連れ出す効果があるというわけだ。

 パソコンやタブレットでネットを利用する人は増えている。こうしたテレビ離れは、特に10代20代の若い世代で進んでいるが、中高年ではそうでもない(※9)。

 テレビの前のソファに座り込んでポテトチップスを食べるような人は少なくなっているのかもしれないが、テレビ離れができていない中高年は座り過ぎに気をかけたほうがいいだろう。ただ、駅のホームなど人が多く行き交う場所での歩きスマホはやめましょう。

※1:Anders Grontved, et al., "Television Viewing and Risk of Type 2 Diabetes, Cardiovascular Disease, and All-Cause Mortality." JAMA, Vol.305, No.23, 2011

※2:Ulf Ekelund, et al., "Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women." THE LANCET, Vol.388, Issue10051, 1302-1310, 2016

※3:Emmanuel Stamatakis, et al., "Is the time right for quantitative public health guidelines on sitting? A narrative review of sedentary behaviour research paradigms and findings." British Journal of Sports Medicine, doi.org/10.1136/bjsports-2018-099131, 2018

※4-1:Sebastien F.M. Chastin, et al., "Meta‐analysis of the relationship between breaks in sedentary behavior and cardiometabolic health." Obesity, Vol.23, Issue9, 1800-1810, 2015

※4-2:Julianne D. van der Berg, et al., "Associations of total amount and patterns of sedentary behaviour with type 2 diabetes and the metabolic syndrome: The Maastricht Study." Diabetologia, Vol.59, Issue4, 709-718, 2016

※5:I-Min Lee, et al., "Using Devices to Assess Physical Activity and Sedentary Behavior in a Large Cohort Study: The Women’s Health Study.” HUMAN KINETICS JOURNALS, Vol.1, Issue2, 60-69, 2018

※6:Tim Althoff, Ryen W White, Eric Horvitz, "Influence of Pokemon Go on Physical Activity: Study and Implications." Journal of Medical Internet Research, Vol.18(12), Dec, 2016

※7:Fiona Y. Wong, "Influence of Pokemon Go on physical activity levels of university players: a cross-sectional study." International Journal of Health Geographics, 22, Feb, 2017

※8:Colby Beach, et al., "The Physical Activity Patterns of Greenway Users Playing Pokemon Go: A Natural Experiment." Games for Health Journal, doi.org/10.1089/g4h.2017.0168, 2018

※9:総務省「平成29年版 情報通信白書」より

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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