JT「新型」プルーム・テックと電子タバコ「JUUL」の関係を探る

 JT(日本たばこ産業)が、加熱式タバコのプルーム・テック(Ploom TECH)の新型を発表した。先日、フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)がアイコス(IQOS)の新型をお披露目したが、日本の加熱式タバコ市場はさらに混沌とするだろう。2019年3月までの発売という新型プルーム・テックについて、全貌はまだ明らかになっていないが、その技術的機構やJTの戦略について考えてみたい。

JUULに出資していたJT

 ニコチンは、タバコ葉を燃焼または加熱することで吸収しやすくなる。加熱式タバコの場合、燃焼ではなくタバコ葉を加熱、または加熱された蒸気をタバコ葉に通過させることで使用する。

 タバコ会社自身がいうようにタバコ葉に含まれるニコチンが入っていなければタバコではないが、日本で発売されている加熱式タバコの機構には大きく分けて2つある。

 アイコスはタバコ葉を金属ブレードで内側から加熱し、グローは周囲から加熱するが、プルーム・テックはリキッドを加熱し、そこから出た蒸気を吸い込む過程でタバコ葉を詰めたカプセルに蒸気を通過させ、タバコ葉に含まれるニコチンや添加された物質などを吸い込む。

 現在のプルーム・テックは、吸い口をくわえた使用者の吸い込みを感知してヒーターが作動し、最大2.5秒間、リキッドを加熱してベイパーという蒸気(霧化)にしている。ヒーターの温度は安定的に250℃~290℃に達するように設計されているというが、ベイパーが通過するタバコ葉部分は最高で40℃未満にしかならないが、これはもちろん熱過ぎて吸えないからだ。

 中国人が開発した現在の電子タバコが登場したのは2003年のことだったが、欧米ではニコチン添加型の電子タバコが一般に広まっている。日本では薬機法(旧薬事法)でニコチンの販売が規制されているため、ニコチン添加型の電子タバコの流通量は加熱式タバコに比べるとまだかなり少ない。

 欧米では現在、米国のサンフランシスコに拠点を置くPAX Labsという電子タバコ会社が発売するJUULが爆発的な人気を博している。USBメモリにも似た外観をしているJUULは、すでに電子タバコ市場の半分のシェアを占めているようだ。

 JUULを販売しているPAX LabsはもともとPloomという会社だった。2011年にJTが投資したが、2015年にJTI(日本たばこ産業インターナショナル)がPloomの商標などを買収した結果、旧PloomはJTIから分かれてPAX Labsになる。つまり、プルーム・テックは旧Ploom社の技術を使ったものだったのだが、おそらくJTIは現在も技術開発の面でPAX Labsとの関係が続いているのではないだろうか。

 なぜなら、今回発表された新型のプルーム・テックには、PAX Labs(旧Ploom)の創業者によるパテントや技術、デザインが反映されている可能性があるからだ。特に、低温加熱型のプルーム・テック+のほうにその特徴がよく現れている。

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2019年3月までに市場へ投入すると発表されたJTの新型プルーム・テック2機種(左端は従来のプルーム・テック)。Via:JT第3四半期IR資料(2018年10月31日)

 PAX Labs(旧Ploom)を創業したのは米国のスタンフォード大学の同窓生だった2人の男性(James Monsees、Adam Bowen)だが、彼らは2013年に電子タバコに関するパテントを取得した。「Low Temperature Electronic Vaporization Device and Methods(低温の電子蒸気デバイスと方法)」というもので現在のプルーム・テックの技術そのものだ。

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旧Ploomの創業者らによる特許製品。中央の丸いLEDスイッチのような部分など、新型プルーム・テック+とそっくりに見える。Via:James MonseesとAdam Bowenらが取得した米国特許US2013/0312742A1

たばこカプセルはどうなるか

 その後、旧Ploomの創業者は、電子タバコのエアロゾルにニコチン塩(Nicotine Salt)を含ませた方法で、従来の電子タバコにはないニコチン供給方法を開発した。この技術がJUULの大ヒットにつながるのだが、ニコチンは単に気化させて吸い込んでも紙巻きタバコのような吸い心地にはならない。塩基を加えてニコチン塩にすることで、燃焼したタバコ葉を吸うのと同じ効果を出すことに成功したというわけだ。

 従来のプルーム・テックはタバコ葉に蒸気を通過させる際の温度が低いため、アイコスやグロー(glo)のようなニコチンのキック感に乏しいとされてきた。もし、JTIが今もPAX Labsと関係し、技術開発の協力を得ているとすれば、新型プルーム・テックにもこうした知見が反映されていることも考えられる。

 さて、今回発表されたもう1つの新型がプルームSで、こちらはアイコスやグローと同じ高温加熱型だという。その技術がどのようなものか、まだはっきりとはわからないが、ひょっとすると既存の紙巻きタバコを差し込む形式になるのかもしれない。

 なぜなら、従来のプルーム・テックのたばこカプセルでは高温に耐えられず、新たなスティック型のタバコ葉の製品ではコスト的にも見合わないと考えられるからだ。また、別スティックではユーザーが混乱し、シェアの拡大につながらない可能性がある。

 その点でいえば、新型の低温加熱型のプルーム・テック+が、従来のたばこカプセルを使うのか、新たなタバコ葉カプセルを出すのか興味深い。いずれにせよ、JTにアイコスのようなITデバイスを自前の技術で研究開発できるかどうかは疑問だ。

 JTのプルーム・テックには、製品の健康への有害性に関する情報がまだ少ない。アイコスの場合はPMIからだけではない研究結果が少しずつ得られるようになってきているが、米国を除く世界の43カ国(2018/10/31現在)で発売されているアイコスに比べ、日本だけが市場のプルーム・テックについての研究はほとんどないからだ。

 だが、もしも仮に新型プルーム・テックが、JUULのプロトタイプ改良版とすれば電子タバコに関する研究が援用できるだろう。

 電子タバコの有害性にはこれまで多くの研究論文が出ており、電子タバコのリキッドに含まれているグリセリン(Glycerin)、プロピレングリコール(Propylene Glycol)などを加熱すれば、強い毒性を持つホルムアルデヒド(Formaldehyde)、アセトン(Acetone)、発がん性があるとされるアセトアルデヒド(Acetaldehyde)といったカルボニル化合物(Carbonyl Compound)が発生するという研究がある(※1)。

 また、電子タバコが発生させる蒸気により、微粒子が肺の細胞の奥深くへ到達し、免疫系に影響を与える危険性があるという研究(※2)や電子タバコのエアロゾル(ベイパー)がDNAの損傷を誘発し、DNAの修復を阻害するという研究も出ている(※3)。特に、肺の奥へ到達するリスクの高いPM0.5以下のナノサイズの超微小粒子(0.1マイクロメートル以下、Ultra-fine particles、UFP)が多く発生するようだ(※4)。

 プルーム・テックに限らず、加熱式タバコは紙巻きタバコに比べて害の低減をキャッチフレーズにしているが、もちろん害がまったくなくなっているわけではない。新しい技術による新しい物質が発生し、未確認の健康被害が出る危険性も高いといえる。

※1:Leon Kosmider, et al., "Carbonyl Compounds in Electronic Cigarette Vapors: Effects of Nicotine Solvent and Battery Output Voltage." Nicotine & Tobacco Research, Vol.16(10), 1319-1326, 2014

※2:Aaron Scott, et al., "Pro-inflammatory effects of e-cigarette vapour condensate on human alveolar macrophages." BMJ Thorax, doi.org/10.1136/thoraxjnl-2018-211663, 2018

※3:Lurdes Queimado, et al., "Electronic cigarette aerosols induce DNA damage and reduce DNA repair: Consistency across species." PNAS, doi/10.1073/pnas.1807411115, 2018

※4:Karena D. Volesky, et al., "The influence of three e-cigarette models on indoor fine and ultrafine particulate matter concentrations under real-world conditions." Environmental Pollution, doi.org/10.1016/j.envpol.2018.08.069, 2018