「遺伝子」は出身大学と「生涯年収」にどう関係するか

(写真:アフロ)

 生まれと育ちというわけで、両親や祖父母から受け継いだ遺伝子と生活環境は車の両輪のように個々人の性格や能力、思考に関係する。ヒトの性格や能力などに遺伝的な違いがどのくらい影響するか、長く議論が続き、これについての研究も多い。今回、大学進学や志望大学、大学における成績などと遺伝的な影響の関係を探る研究が出された。

文系と理系の所得の違い

 国や地域により教育制度が異なるが、日本の場合、短期大学を含めた大学進学率は男女共に50%を超える。教育程度と所得や給料には密接な関係があり、当然だが単に大学へ進学したからといって高収入が保証されるわけではない。読み書きそろばん以外、ものごとを理解したり的確に判断できるリテラシー(能力)にしても、一朝一夕に身につくものではないだろう。

 受けた教育が、その人間の人生に大きな影響を与えるのも事実だ。教育格差といわれるように、給料などの所得の面では学歴や出身校によって差が生じる。日本における高等教育制度では、いわゆる文系と理系に分けられ、どちらが経済的に有利なのかが研究対象にもなってきた。

 これについて、文系のほうが有利とする研究(※1)もあれば、理系のほうが経済的な所得は上という研究(※2)もある。この違いについて学部ごとに比較した研究(※3)によれば、文系有利は国立大学など上位校の出身者の調査に偏っていたからではないかとし、後者の理系有利については医学部を含む収入が高い保健衛生分野の学部を除外すれば文系理系の違いはそれほどないという。

 残念ながら日本では、女性よりも男性のほうが所得が高い傾向があるので、理系学部に女性の割合が少ないことも文系理系の所得の違いに影響しているようだ。もちろん年齢や職能、経験などにより違いが出てくるが、女性は理系でも総じて所得が男性より低く、いわゆる理系女子を増やすためには所得格差をなくすしかないのではないかと研究者は述べている。

本の多い家庭で育つということ

 文系理系を問わず読み書きそろばんの能力は重要だが、こうした能力はどういった影響によって違ってくるのだろうか。オーストラリア国立大学などの研究グループによる論文(※4)によれば、16歳の時に生活した家にどれくらいの本があったかどうかで読み書きそろばん(Literacy、Numeracy)とICT(情報通信技術)テスト能力に違いが出てくるという。

 この研究グループは、2011~2015年にかけて行われた31の国や地域の16万人以上の成人を対象にした国際調査をもとに、本棚のサイズ1メートルを約40冊と換算し、調査対象者が16歳の頃に自宅にどれくらいの蔵書があったか調べた。

 その結果、自宅にほとんど本がなかった調査対象者の識字率と数学の能力が平均を下回っていた反面、中等教育レベルで終えた調査対象者で家庭に本がたくさんあった場合は大学教育を受けたのと同程度のリテラシーが備わっている傾向がみえた。

 また、ICTといったデジタル的なリテラシーでも、思春期により多くの本に囲まれて育った人間のほうが能力が高く、電子書籍の普及などのデジタル化が今後どのようにICTコンピテンシー(Competency、高業績者の行動パターン)へ影響していくかわからず、注視していく必要があるという。

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16歳の頃に自宅にどれくらいの本があったかを主な国で比較した。日本は左端の赤いバーで65冊との回答が最も多い。ドイツと英国の家庭に本が多い傾向がうかがえる。Via:Joanna Sikora, et al., "Scholarly culture: How books in adolescence enhance adult literacy, numeracy and technology skills in 31 societies." Social Science Research, 2018のデータを抽出して筆者がグラフ作成

 つまり、本の少ない環境で育った高学歴の人間は、中学で学業を終えた人間に読み書きそろばんの能力で劣る可能性もあるということだが、生まれ育った環境は通常の場合、その人間の両親や祖父母を含む家族によるものだ。文化や風俗習慣などの情報が時代を超えて伝えられるミーム(Meme)という概念があるが、本がたくさんある環境も一種の遺伝ともいえるのかもしれない。

遺伝的要因は半分ちょっと

 小中学校までの学業成績の違いでは、その40~60%は遺伝的要因によるものといわれているが(※5)、英国のキングス・カレッジ・ロンドンなどの研究グループが遺伝子が同じ一卵性双生児と通常の姉妹兄弟と同じ程度の遺伝子である二卵性双生児で比較した研究(※6)では、難易度による大学入試の程度の57%が、志望大学の選択の51%が、また入学した大学のレベルの57%が、遺伝的な要因によるものであることが示唆されたという。

 養子縁組が盛んで生後すぐに全く異なった環境で生育される双子の多い英国や米国などで、遺伝子と環境の影響について双子を使った研究は多い。生後すぐに親元から離れて育った一卵性双生児の一方は、遺伝子はほぼ同じでも例えば家庭の蔵書の数などの環境が違うこともあり、遺伝的要因がどれくらいかわかる。

 義務教育までの児童の遺伝的な影響の研究はこれまでもあったが、こうした傾向が入学した大学のレベルや志望大学を選ぶ時点でも続いているということになる。とはいえ、遺伝的な要因の影響は50%ちょっとで環境や教育などの影響とほぼ半々であり、この割合をどう考えるかということだろう。

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日本の全世帯の所得の分布(%、青いバー)と東京大学の学生(東大生)の家計支持者の年収額分布(赤いバー)の違い。調査の金額が異なっているのでズレがあるが、日本の全世帯では年収400万円未満の世帯が45%もある一方、東大生の豊かな経済状態がうかがえる。Via:2017年の国民生活基礎調査、2017年の東京大学の学生生活実態調査

 日本の男性で高卒と大卒院卒の生涯年収の違いは約6000万円ほどになるというが、一部上場企業に就職するような場合(おそらく難関大学卒)は生涯年収がさらに高卒より約1億円ほど高くなるようだ(※7)。遺伝的要因が半分、環境や教育などの影響が半分ということだが、経済格差につながる教育格差を小さくし、格差の固定化を防ぐことはできるのだろうか。

※1:大谷剛ら、「卒業生の所得とキャリアに関する学部間比較」、OSIPP(大阪大学大学院国際公共政策研究科)ディスカッションペーパー、DP-2003-J-007、2003

※2:浦坂純子ら、「パネルデータに基づく理系出身者と文系出身者の年収比較」、Journal of Quality Education, Vol.4, 2012

※3:山本耕平ら、「理系の誰が高収入なのか? ─SSM2005データにもとづく文系・理系の年収比較─」、京都社会学年報、第23号、2015

※4:Joanna Sikora, et al., "Scholarly culture: How books in adolescence enhance adult literacy, numeracy and technology skills in 31 societies." Social Science Research, doi.org/10.1016/j.ssresearch.2018.10.003, 2018

※5-1:Y Kovas, et al., "The genetic and environmental origins of learning abilities and disabilities in the early school years." Monographes of the Society for Research in Child Development, Vol.72(3), 2007

※5-2:M Bartels, et al., "Heritability of educational achievement in 12-year-olds and the overlap with cognitive ability." Twin Research, Vol.5(6), 544-553, 2002

※5-3:Amelia R. Branigan, et al., "Variation in the Heritability of Educational Attainment: An International Meta-Analysis." Social Forces, Vol.92, Issue1, 109-140, 2013

※6:Emily Smith-Woolley, et al., "The genetics of university success." SCIENTIFIC REPORTS, 8, Article number:14579, 2018

※7:独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2017─労働統計加工指標集─ 生涯賃金など生涯に関する指標」