「アイコス」は「ニコチン依存症製造器」に改造されていた

(写真:ロイター/アフロ)

 加熱式タバコについては、依然としてその健康への悪影響がはっきりとわからない。最近のシステマティック・レビュー(Systematic Review)論文によれば、少なくとも2/3の研究がタバコ会社自身やタバコ会社からの資金提供によるものであり、アイコス(IQOS)は利用者がニコチン依存症になりやすいよう改造されていたことがわかった。

加熱式タバコの研究はまだ少ない

 先日、受動喫煙防止対策を盛り込んだ改正健康増進法が成立したが、2020年4月からの一部施行で飲食店は原則屋内禁煙となる。アイコス(IQOS)やプルーム・テック(Ploom TECH)、グロー(glo)といった加熱式タバコの扱いは健康へ及ぼす悪影響について研究を継続するとし、当面の間は飲食店(客席面積100平方メートル以上で個人経営か資本金5000万円以下の中小企業が経営する店舗)に加熱式タバコ専用の喫煙室の設置を義務づけ、その中での飲食は可能とした(20歳以下の客や従業員は喫煙室への立ち入りは禁止)。

 加熱式タバコについては、国や東京都(受動喫煙防止条例)は健康への悪影響は未解明とし、紙巻きタバコとは少し違った対応をとっている。アイコスなどの加熱式タバコを製造販売するタバコ会社は、従来の紙巻きタバコよりも健康への悪影響がかなり低減されているとしているが、行政はタバコ会社の主張を半ば認めたような形になった。

 加熱式タバコの歴史は数十年に及ぶが、機器(加熱デバイス)の技術的な進歩が追いつかず、喫煙者の支持を得られずに数多くの製品が市場から撤退を強いられてきた(※1)。だが、2014年に市場へ投入されたフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)のアイコスの登場により次第に喫煙者が従来の紙巻きタバコから加熱式タバコへ切り替えるようになった。

 タバコの害を研究してきた研究者や研究機関にとって加熱式タバコの市場認知はかなり寝耳に水で唐突なものだったのは、数十年の撤退の歴史から高をくくっていたこともある。また、ニコチンを添加した電子タバコ(日本では未認可)が欧米で市場進出し、電子タバコのほうに注目が集まっていたからでもあった。

 というわけで、加熱式タバコについての研究は、PMIなどのタバコ会社が先鞭を付け、研究資金を提供して研究成果を積み重ねている。出遅れた感のあるタバコの害を訴える側の研究者や研究機関は、アイコス登場から数年経ってようやく研究を出し始めたが(※2)、どちらもまだ数は少ない。

 システマティック・レビューという研究手法は、過去に出された複数の論文を網羅的に検索・精査抽出し、ある目的に合致し、バイアスなどが排除されたランダム化比較試験(RTC)のような質の高い論文を集め、比較分析する。これらの結果を統合・分析(メタ・アナリシス、Meta Analysis)するなどし、不確実さを排除しつつ科学的エビデンス(明白な証拠)に基づく研究成果により近づくことができるとされる。

約2/3がタバコ会社関係の論文

 最近、英国の医学雑誌『BMJ』の「Tobacco Control」オンライン版に加熱式タバコについてのシステマティック・レビューが出た(※3)。

 これは英国のキングス・カレッジ・ロンドンなどの研究グループによるもので、アイコスが出る前の2010年から2017年11月6日までの加熱式タバコに関する研究論文を検索した。検索キーワードは「Heat-not-burn」「Tobacco Heating System」「IQOS」「Ploom」「Heets」「glo」としたという。

 最初に948論文が引っかかったが、それを2名の研究者が別々に精査し、査読付き雑誌に掲載された論文を31件に絞り込んだ。論文の品質評価はEffective Public Health Practice Project(EPHPP)というツールを使い(※4)、2人が評価したそれぞれの論文は一致度の信頼性を調べるカッパ(kappa)係数(κ coefficient)によって一致度が高いとされた。また、対象となった加熱式タバコ製品は7種類(THS2.1と2.2のアイコス、グロー、プルーム・テックの前のPloom、プルーム・テック、iFuse、未発売のPMIのCHTP)だった。

 31論文のうち約2/3の20論文が、タバコ会社自身でやったか資金提供をしたものだった。その内訳は、PMIが13論文、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が5論文、インペリアル・タバコ(IT)が1論文、日本たばこ産業インターナショナル(JTI)が1論文となっている。また、PMIが2018年に発表したアイコスの人間への影響と環境汚染に関する研究は今回の検索には入っていない。

 31論文のうち、16論文が加熱式タバコから出る汚染物質について、15論文が使用者への影響評価、11論文がランダム化比較試験(時期を変えた同じ対象者のクロスオーバー試験を含む)、3論文が疫学調査、1論文が症例報告だった。

 加熱式タバコから出る汚染物質についての研究は16論文あり、10論文がタバコ会社関連のものだった。加熱式タバコから出るニコチンの量は、タバコ会社関連の論文もそうでない研究者の論文も大差ないものだったが、タバコ会社(PMI)が調べたアイコスは一酸化炭素(-98%以上)、タール(-21%以上)、タバコ由来の有害化学物質(Harmful and Potentially Harmful Constituents、HPHCs、-62%以上)といった結果になっている。

 一方、タバコ会社と無関係の研究者による汚染物質の評価は、総じてタバコ会社のものよりもタールやHPHCsの数値が高い結果になっていたという。

 気になるのが、グリセリン(Glycerol)の数値が紙巻きタバコに比べ、加熱式タバコで際立って高く、研究によっては2陪になっている点だ。グリセリンは食品添加物や医薬品にも使われる化学物質だが、加熱式タバコのような数百℃の温度で熱せられ、それが香料などの添加物やタバコ葉とどう反応してどんな物質ができるか、まだよくわかっていない。

ニコチン依存症製造器

 興味深いのは、同じタバコ会社のITの研究で、ライバル社のアイコスから副流煙(蒸気)が出ているという結論が出ていた。また、PM2.5のような微細粒子状物質の放出があるとする論文もタバコ会社のものにみられたが、一部のタバコ会社関連の論文にはこうした微細粒子状物質は出ないとするものがあり分析結果に違いがある。

 アイコスを製造販売するPMIは、開発当初のTHS2.1から機器に改造を加えてTHS2.2にした。両者の違いはニコチンを吸収した際のピーク時の濃度で、THS2.2ではより短時間で高ニコチン濃度になるようにピークを調整している。

 短期間の急激なニコチン吸収によりニコチン依存症などの中毒になるので(※5)、アイコスの製品特性は使用者の依存性に合致したものに変えられているようだ。

 このシステマティック・レビューは、加熱式タバコに関する汚染物質や使用者の血中濃度、環境汚染、疫学調査、症例報告と目的も手法もバラバラの論文を集めている。その点で特定の評価軸での比較はできていない。

 ただ、査読付き雑誌とはいえ、タバコ会社が関係した論文が掲載された雑誌は『Regul Toxicol Pharmacol』や『Nicotine & Tobacco Research』など一部に限られている。また、31論文のうち約2/3の20論文がタバコ会社に関係した研究者によるものであり、加熱式タバコに関する情報の非対称性は際立っていた。

 自社の製品についてどうしても点が甘くなるだろうし、研究資金を提供してもらえばデータの取り扱いに影響が出る可能性や疑念も生じかねない。加熱式タバコについては、まだまだ独立した第三者機関による調査研究が必要だろう。

※1:「加熱式タバコは手を換えた『ニコチン伝送システム』だ」Yahoo!ニュース:2017/11/22

※2:「『加熱式タバコ』でも上がる呼吸器の『疾患リスク』」Yahoo!ニュース:2018/09/10

※3:Erikas Simonavicius, et al., "Heat-not-burn tobacco products: a systematic literature review." Tobacco Contorol, Doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2018-054419, 2018

※4:N Evans, et al., "Appendix A: Effective Public Health Practice Project (EPHPP) Quality Assessment Tool for Quantitative Studies." A Systematic Review of Rural Development Reserch, Doi 10.1007/978-3-319-17284-2, 2015

※5:Murray E. Jarvik, et al., "Nicotine Blood Levels and Subjective Craving for Cigarettes." Pharmacology Biochemistry and Behavior, Vol.66, No.3, 553-558, 2000