加熱式タバコは手を換えた「ニコチン伝送システム」だ

写真:撮影筆者

 先日、JT(日本たばこ産業)が新社長人事を発表した。米国のITGブランズ(※1)も新社長になっている。

 JTが1999年に米国ナビスコのタバコ部門(Winston、CAMELなど)を、2007年に英国ギャラハー社(英国第3位、BENSON&HEDGES、SILK CUTなど)を、さらに今年に入ってフィリピンのマイティー社(フィリピン第2位)をM&Aにより吸収するなど、タバコ会社はこれまで合従連衡を繰り返し、世界規模の競争を激化させてきた。同時に、経営トップの世代交代も進んでいる。

タバコ会社ほど美味しい商売はない

 タバコはざっと100年の間ずっと粗利の大きな旨みのある商品だった。紙巻きタバコは「作るのに1セントしかかからないのに売るときには100倍の1ドルになる。おまけにユーザーは病みつきになるわ、好みのブランドに対するロイヤリティは驚くほど高いわ」(ウォーレン・バフェット)笑いが止まらない商品でもあった。タバコ会社はこれまで、タバコという商品により大儲けし続けてきた、というわけだ。

 日本のタバコ会社はJTの独占だが、海外では複数の企業が競合している。また、日本国内にも海外のブランドが輸入され、JTのシェアは60%ちょっとのようだ。旧専売公社時代からの一社独占販売が継続している点で米国などの事情と違うのかもしれないが、JTがブリティッシュ・アメリカン・タバコの子会社であるR.J.レイノルズ・タバコ・カンパニー(ピアニッシモ、セーラムなど、以下RJR)の米国以外の各地で製造販売をしているように、競合しているとはいえ、反タバコ勢力に対しては一緒になって抵抗する、という姿勢は同じだろう。

 米国で映画『インサイダー(The Insider)』が製作されたのは1999年のことだ。後にブリティッシュ・アメリカン・タバコの子会社なるブラウン&ウィリアムソン(Brown & Williamson Tobacco Inc)がニコチンの中毒性を高めるためにタバコにアンモニアやクマリン(cumarin)といった添加物を加えている、と同社の研究開発担当副社長が内部告発した事件をテーマにした映画だ。

 当時、タバコ会社は、タバコの健康への害やニコチンの中毒性を知っていたが公的に認めてはいなかった。また、マスメディアや広告代理店は、タバコ会社からの広告料のため、タバコ無害キャンペーンの片棒を担いできた。だが、その副社長は守秘義務違反を犯してテレビ局へ内部告発し、その後、米国内の46州がタバコ会社を相手取った健康損害訴訟を起こすなど大きな社会問題になる。

 政治家が選挙公約で禁煙に言及したり、主権者が投票行動でタバコ対策を理由にすることは少ない。また、財務省や経産省などは税収などに鑑みてタバコに対して寛容だが、厚生労働省や文科省などは批判を強め、省庁間の利害対立は複雑だ。もちろん政治行政は多面的多元的であり、国庫の健全化や効率化などと相反するように捉えられがちな国民の健康や福祉にも目を配らなければならない。

 医学的・科学的に論争の余地なくタバコの健康への悪影響が自明のこととなり、世界的に健康志向が高まり、タバコ離れが急速に進み、受動喫煙への批判も高まっている。一方、1970年代の終わり頃からの世界的な禁煙の潮流の中、各タバコ会社は一致団結して政治的なロビー活動を展開するようになってきた。タバコと喫煙者は今や完全に悪名高き「スティグマ」となり、ユーザーや家族の健康と引き替えに大儲けしてきたタバコ会社にとっても今が大きな転換期にあるのは確かだ。

加熱式タバコは新しい製品ではない

 ここ最近になって人気の加熱式タバコ(加熱式電気タバコ、電子タバコ)だが、いずれも簡単な機構のため、それほど先進的な技術を使っているわけではない。例えば、RJRは約30年前の1988年に「Premier(プレミア)」という加熱式タバコを米国で発売している。これは紙巻きタバコ1本の中にカーボンの加熱棒を入れ、その周囲をタバコ葉やフレーバー粒などで巻いたものだ。

 RJRは、健康志向でタバコを止めた禁煙者をPremierによって再喫煙させようと試みた。そのキャッチコピーは、タバコと同じ外観だが、タバコを燃やさずフレーバーを楽しめ、ニコチンもタールもほとんど含まない、というもので、今のアイコス(フィリップ・モリス・インターナショナル、以下PMI)やプルーム・テック(JT)などの加熱式タバコと同じような宣伝文句だ。

 だが、喫煙者にまったく受け入れられなかったPremierは1年で市場から撤退する。RJRは懲りずに1994年にも「Eclipse(イクリプス)」というPremierを進化させた加熱式タバコを発売した。これは紙巻きタバコ状の先端にカーボンの加熱部分があり、そこから熱を吸い込んで途中のタバコ葉とグリセリンを混淆させた部分を通過させる、という機構になっている。Eclipseは2014年に販売を中止し、再度「Revo(レボ)」という名前でしつこく市場に出したが今では売られていない。

 一方、PMIも負けてはいない。1998年に「Accord(アコード)」というクルマのような名前の加熱式タバコを発売する。これは東京でも試験販売されたから、記憶している読者もいるかもしれない。Accordは加熱式ガジェットに専用の紙巻きタバコを突き刺し、加熱するだけで燃やさずに吸う仕組みになっている。だが、これも喫煙者に受け入れられず、2006年までに市場から撤退した。

画像

イラスト素材:いらすとや

 米国FDA(食品医薬品局)は、すでに1994年にこれら加熱式タバコ製品に関する立場を表明している。加熱式タバコ製品はFDAの管轄であり、公衆衛生の観点からこれら製品を規制する、というものだ。米国がん学会、予防医学会、心臓協会、全国教育委員会などの医学会や各種団体は、FDAに対し、新たな「ニコチン伝送システム」であるEclipseやAccordを規制するよう要望書を出している。こうした経緯もあり、PMIのアイコスは現在、米国で販売申請の許可待ちの状態だ。

日本のプルーム・テックを考える

 このように、米国では加熱式タバコの製品開発が繰り返されてきた。当然、周辺特許も多く、この市場へ新規参入するには新たな技術によって権利関係を回避せざるを得ない。

 JTのプルーム・テックは、開発者の発言(同社HP)によると「煙の出ないたばこ」の研究開発が背景にあり、液体を加熱して発生した蒸気を吸う「電子タバコ」の発想がもとになって生まれた。2016年から販売が始まり、先行するPMIのアイコスを急追している。プルーム・テックにおける電子タバコの技術は、2014年に買収した英国の電子タバコ会社「E-Lites社」や2015年に買収した米国の電子タバコ会社「Logic Technology社」のものを使っているのではないか、と筆者は推測する。

 プルーム・テックの機構は、バッテリーによる熱源を発生させる本体に液体が入ったカートリッジ1本を装着し、その先端にタバコ葉が入ったカプセル(販売5個入り)をつけ、熱せられた液体による蒸気をカプセルに通過させ、その気体を吸い込む、というものになっている。

 RJRのEclipseに似た機構だが、JTによれば「煙」と「タバコの香味」は異なるとし、プルーム・テックは「たばこを燃やさないため、燃焼に伴う煙は発生しません。プルーム・テックの使用にあたって生じるたばこベイパーは、たばこを燃焼させることによって発生する『燃焼による煙』とは異な」る、とのことだ。また、この蒸気を「たばこベイパー」と呼ぶことで、電子タバコの概念が入っていることがわかる。

 プルーム・テックの蒸気(たばこベイパー)には「ニコチンなどのたばこ葉由来の成分のほか、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、水、香料が含まれ」るらしく、また「グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチンは液体の化合物で、香料、食品等に広く使用されて」いる、とのことだ。やはり、プルーム・テックの吸気にもニコチンが含まれている。

 この「タバコの香味」だが、JTによると「嗜好品ですので明確に定められた基準はございませんが、たばこ製品の使用時に発生する燃焼に伴う煙に対して、嗅覚から感じるものを『臭い(ニオイ)』と表現しております。嗅覚だけではなく、口内含めて感じるものを『味・香り』と表現して」いる、というわけで、これは喫煙者が持っている強いこだわりに対するアピールだろう。

 JTのプルーム・テックは、特許回避などを考慮し、既存の研究や英国や米国の電子タバコ会社の買収によって得られた技術を利用して開発された製品と言える。だが、基本的な機構は従来の加熱式タバコと大きく変わることはない。ニコチンには強い中毒作用がある。紙巻きタバコ市場が大きく減退する中、世界のタバコ会社は次のニコチン伝送システムとして加熱タバコを新たなラインナップに置いていると言えるだろう。

※1:ブリティッシュ・アメリカン・タバコの英国部門であるインペリアル・ブランズの米国企業。ブリティッシュ・アメリカン・タバコは、英国のインペリアル・ブランズと米国のアメリカン・タバコ・カンパニーの合弁企業。日本法人はブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン合同会社。ITGブランズの主力銘柄は「Kool」や「Salum」など。