Yahoo!ニュース

どうする「プラスチック汚染」解決策はあるか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 先日、ビール会社大手のカールスバーグ(Carlsberg)がアルミ缶6本を束ねるプラスチック製拘束パーツを廃止し、別の方法に切り替えると発表した(2018/09/07アクセス)。強靱なプラスチック製パーツのため、はさまったまま育ってヒョウタン型になったウミガメなどのショッキングな映像に対する反応だ。我々の健康や地球環境にとってプラスチック汚染が無視できないものになりつつあり、様々な解決策が模索されている。

自然環境への影響

 カールスバーグの分析によれば、6本パックの束ね方を転換することでプラスチック廃棄物は年間で1200トン以上も削減されるという。スターバックスやマクドナルドなどが、プラスチック製ストローを止めるというニュースも大きな話題になった。

 タイの運河では約8kgものプラスチックを飲み込んで他の餌を採れず、栄養失調で餓死したゴンドウ(イルカの仲間で小型のクジラ)が発見されたが、プラスチックが環境中で砕かれ、微小な粒子になったマイクロプラスチックの汚染が世界の水道水に含まれていることを明らかにした研究もある(※1)。

 これは米国のミネソタ大学などの研究チームによるもので、世界の水道水(159サンプル)や北米五大湖沿岸で作られているビール(12ブランド)、商用の海水塩(12ブランド)のサンプルを調べたという。その結果、81%にプラスチックの粒子が混ざっていたことがわかった。

 これらのマイクロプラスチックは、0.1〜5mmの大きさの繊維状のものが大半(98.3%)だった。繊維質のプラスチックは、衣類由来などと考えられるが、微小粒子のプラスチックは野生生物だけではなく、我々の口にも日々の食事や飲料水に混ざって入り込んでいるということになる。

 ビールや塩にもプラスチック微粒子が存在していることは驚きだ。五大湖沿岸のビールでは、平均1.3〜14.3個の粒子が見つかっているが、以前の研究でもドイツのビールにプラスチックが混入していることもわかっている(※2)。

 環境中へ放棄されたプラスチックは、その多くが風雨や紫外線で細かく砕け、海水などより重いものは沈み、軽いものは水面を漂いながら拡散し、ある場所へ集積されたりするという。海洋へ流れ出たゴミの多くは、ペットボトルや漁具などのプラスチック片、タバコのフィルターなど化学物質の微粒子だ。

汚染を加速するタバコのフィルター

 海岸で拾い集められるプラスチックのゴミでは、毎年世界で約4.5兆個が捨てられていると概算されるタバコのフィルターが多い。海岸のゴミでは種類別の個数でペットボトルよりもタバコのフィルターは多く、海岸にポイ捨てする喫煙者はおそらくフィルターがプラスチックではなく自然由来のもので環境中へ還元されると勘違いしているのだろう。

 タバコのフィルターはパルプを酢酸に反応させて作るアセテート繊維という合成樹脂プラスチックの一種だ。自然環境中で分解されにくく、長期間残存する汚染物質となるが、フィルターにはタバコ由来の濃厚な発がん性物質や有害物質が閉じ込められている。

 化学的に分解されたプラスチックは、内分泌撹乱などを引き起こすとされるビスフェノールA(bisphenol A、BPA)、発がん性のあるポリ塩化ビフェニル(PCB)、ポリスチレン(polystyrene)などを発生させることが知られている。

 プラスチック製品の製造時に添加されるフタル酸エステル類が存在し、それが内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモンになるのではないかと危惧する研究者も多い。最近の調査研究によれば、海洋生態系の上位にいるイルカからフタル酸系の化合物が検出されたという(※3)。

 WHO(世界保健機関)は先日、プラスチック製品やゴム製品に共通して使用されるスチレン(Styrene)に発がん性が疑われると発表した。これは国際的な研究グループによるスチレンを使用する仕事に就いていた7万3036人を対象にした長期間の追跡調査で、スチレンの暴露によりリンパ性がんのリスクが上がることを示している(※4)。

どうすればいいのか

 プラスチック汚染への対策としては、これ以上、環境中へ汚染物質を出さないことが考えられる。まず現在、作られ使われているプラスチック製品を自然環境で分解され得る物質に換えることだ。

 植物繊維系や無害な化学合成系などこうした研究は多い。天然繊維の複合材の研究は、自動車用の部品などで開発が進められている(※5)。

 微生物利用で最近のものだと、米国のコロラド大学の研究グループが採用したコハク酸(ポリヒドロキシ酪酸(Polyhydroxybutyrate、PHB)を使う方法がある(※6)。バクテリアで作るバイオマス由来のコハク酸は、毒性もなく環境中で分解し、コスト面や生産性で有望だという。特に、格段に安い従来の化石燃料製より、コスト面で勝てるプラスチック製品の代替品ができれば可能性は高い。

 すでに環境中にあるプラスチックについては、微生物に食べさせる研究も多く出ている。中国科学院などの研究グループは、ある真菌がポリウレタンを分解することを発見し(※7)、2017年にはプラスチックを食べる昆虫の幼虫がいるという研究報告が出て話題になった(※8)。また、海に漂うマイクロプラスチックの多くは海面近くに薄い層を形成し、海流によって特定の場所に集まっていると考えられてきたが、最近の研究によればプラスチックについた微生物によって凝集され、海底へ沈降しているのではないかともいう(※9)。

 先日のG7でプラスチック汚染の削減を決めた「海洋プラスチック憲章(Ocean Plastics Charter)」に日本と米国だけが署名しなかったことが批判されているが、海洋汚染対策は待ったなしといえる。核兵器禁止条約と同様、日本独自のスタンスには説得力が全くない。

※1:Mary Kosuth, et al., "Anthropogenic contamination of tap water, beer, and sea salt." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0194970, 2018

※2:Erik R. Zettler, et al., "Life in the “Plastisphere”: Microbial Communities on Plastic Marine Debris." Environmental Science & Technology, Vol.47(13), 7137-7146, 2013

※3:Leslie B. Hart, et al., "Urinary Phthalate Metabolites in Common Bottlenose Dolphins (Tursiops truncatus) from Sarasota Bay, FL, USA." GeoHealth, doi.org/10.1029/2018GH000146, 2018

※4:Mette Skovgaard Christensen, et al., "Styrene Exposure and Risk of Lymphohematopoietic Malignancies in 73,036 Reinforced Plastics Workers." Epidemiology, Vol.29(3), 342-351, 2018

※5-1:R Zah, et al., "Curaua fibers in the automobile industry- a sustainability assessment." Journal of Cleaner Production, Vol.15, Issue11-12, 1032-1040, 2007

※5-2:Sergio Neves Monteiro, et al., "Natural-fiber polymer-matrix composites: Cheaper, tougher, and environmentally friendly." JOM, Vol.61, Issue1, 17-22, 2009

※6:Xiaoyan Tang, et al., "Chemical synthesis of perfectly isotactic and high melting bacterial poly(3-hydroxybutyrate) from bio-sourced racemic cyclic diolide." nature COMMUNICATIONS, Doi: 10.1038/s41467-018-04734-3, 2018

※7:Sehroon Khan, et al., "Biodegradation of polyester polyurethane by Aspergillus tubingensis." Environmental Pollution, Vol.225, 469-480, 2017

※8:Carina Weber, et al., "Polyethylene bio-degradation by caterpillars?." Current Biology, Vol.27, Issue15, PR744-R745, 2017

※9:Jan Michels, et al., "Rapid aggregation of biofilm-covered microplastics with marine biogenic particles." Proceedings of the Royal Society B, Vol.285, Issue1885, 2018

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事