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その有害性「プルーム・テック」は大丈夫か

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
写真撮影筆者

 最近よく見かけるようになってきた加熱式タバコのプルーム・テック(Ploom TECH)だが、アイコス(IQOS)に比べ、製品の安全性に関する情報が少ない。アイコスの有害性については少しずつ研究が出てきたが、プルーム・テックはどうなのだろうか。

日本の加熱式タバコの違い

 加熱式タバコの市場がタバコ会社の競争でまさに過熱中だ。PMI(フィリップ・モリス・インターナショナル)のアイコスの独走状態が、JT(日本たばこ産業)のプルーム・テックやBAT(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)のグロー(glo)の急追を受け、差が少しずつ縮まっている。

 日本では現在、この3種類の加熱式タバコがあるが、3種類とも葉タバコを使っている。たばこ事業法のある日本で葉タバコを使った商品はこの法律の規制を受け、財務省の許可がなければ販売できないからだ。葉タバコを使う加熱式タバコは、新課税方式が適用される2018年10月まで法律上はパイプタバコに属する商品となる。

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日本の新型タバコは、葉タバコを使ってニコチンが含まれる加熱式タバコと葉タバコを使わずニコチンが含まれない電子タバコに大きく分けられる。欧米の多くの国ではニコチンをリキッドに加え、それを加熱して揮発させ、エアロゾルにして吸い込む電子タバコが売られている。図解:筆者作成

 タバコ会社自身がいっているように、依存性の薬物であるニコチンが入っていなければタバコではない。日本では劇毒物のニコチンは薬機法(旧薬事法)で管理されているはずだが、たばこ事業法という他国にはない面妖な法律があるため、葉タバコを使えばニコチンを摂取できる製品が堂々と売られることになる。

 葉タバコは燃焼することで含まれるニコチンが体内に吸収しやすくなるが、加熱式タバコは燃焼ではなく葉タバコを加熱、または加熱された蒸気を葉タバコに通過させることで使用する。プルーム・テックは後者のタイプで、アイコスやグローと構造が異なっている。

 アイコスは葉タバコを金属ブレードで中から加熱し、グローは周囲から加熱する。一方、プルーム・テックはリキッドを加熱し、そこから出た蒸気を吸い込む過程で葉タバコ(JTは「たばこ葉」という)を詰めたカプセルを通過させ、葉タバコに含まれるニコチンや添加された物質などを吸い込むというわけだ。

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同じ加熱式タバコでもそれぞれ機構が異なる。葉タバコに金属ブレードを突き刺すアイコスの方法は特許になっているが、グローのような周囲から加熱する仕組みはすでに30年以上前からある。同様にプルーム・テックのような蒸気を吸い込む方法もまた数十年前からある陳腐な技術だ。Via:総務省消防庁:2018(平成30)年7月25日の「加熱式たばこ等の安全対策検討会」に提出された各社資料

プルーム・テックは電子タバコと同じ機構

 プルーム・テックは、使用者が吸い口をくわえて吸い込んだのを感知し、ヒーターが作動して最大で2.5秒間、リキッドを加熱してベイパーという蒸気(霧化)にする。ヒーターの温度は、安定的に250℃〜290℃に達するように設計されているようだ。

 JTによれば、加熱して生じるベイパーは燃やして生じる煙ではないという。使用者が吸い込む場合、どんな成分がベイパーに含まれるか、JTによれば葉タバコに含まれるニコチンなどの成分、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチン、水、香料だそうだ。

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プルーム・テックでは、たばこカプセルという部分に葉タバコ(たばこ葉)が詰まっているが、それ以外の機構は既存の電子タバコと変わらない。ちなみに、バッテリー部分は多くのサードパーティ製の製品がネットなどで売られている。Via:JT(日本たばこ産業)のHP

 ほかの加熱式タバコと同様、JTもプルーム・テックは火を使わず、葉タバコを燃焼することはないので、従来の紙巻きタバコのような燃焼で生じる有害成分は含まれないと主張する。また、ベイパーが通過する葉タバコ部分を約20℃の周辺気温下で吸引を繰り返しても、最高で40℃未満にしかならないそうだ。

 葉タバコ自体にリキッドのような成分を含ませているのかもしれないが、アイコスやグローでは加熱されたリキッドのベイパー(蒸気)を吸い込むわけではない。まず、プルーム・テックで気になるのは、電子タバコとほぼ同じというその機構だ。

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一般的な電子タバコの構造。左が吸い口、真ん中にリキッドのタンクがあり左側に加熱機器とバッテリーが位置する。これをみるとプルーム・テックが明らかに電子タバコの技術を再利用していることがわかる。Via:Christian Giroud, et al., "E-Cigarettes: A Review of New Trends in Cannabis Use." International Journal of Environmental Research and Public Health, 2015

 ニコチンを加えた電子タバコが、欧米のユーザーに受け入れ始められたのはつい15年ほど前のことだ。現在では、米国のサンフランシスコに拠点を置くPAX Labsという電子タバコ会社が「JUUL」を2015年に発売すると、しばらくして爆発的な人気を博した。

 すでにJUULは電子タバコ市場の半分のシェアを占めているといわれるが、PAX LabsはもともとPloomという会社だった。2011年にJTが投資し、2015年にはJTI(日本たばこ産業インターナショナル)がPloomの商標を含む知財を買収した結果、旧PloomはJTIから離れてPAX Labsとなった。

 JTはプルーム・テックをT-Vaporという電子タバコ(E-Vapor)と加熱式タバコ(Heated Tobacco)との中間に位置づけているが、プルーム・テックは旧Ploom社の技術を使ったものといえ、単に電子タバコの吸い口に葉タバコを詰めたカプセルをかませているだけだ。

電子タバコの有害性

 電子タバコの機構から発生する有害物質については、これまで多くの研究論文が出ている。それだけ欧米で電子タバコが広まっており、研究者らが危惧を抱いているからだろう。

 JTは、グリセリン、プロピレングリコール、トリアセチンは液体の化合物で、香料、食品等に広く使用されているというが、グリセリンやプロピレングリコールを加熱すると強い毒性を持つホルムアルデヒド(formaldehyde)やアセトン(acetone)、発がん性があるとされるアセトアルデヒド(acetaldehyde)といったカルボニル化合物(Carbonyl Compound)が発生するという研究がある(※1)。

 電子タバコでは、金属のコイルでリキッドを加熱し、気化させたリキッドのベイパー(エアロゾル)を発生させてそれを吸う。この金属製部品から有害な有機金属が検出され、それによって健康被害が出る可能性を示唆した論文(※2)も出ている。

 最近ではベイパー式の電子タバコにより、肺の細胞の奥深くへ微小粒子が到達し、免疫系に影響を与える危険性があるという研究(※3)や電子タバコの使用で心筋梗塞のリスクが2倍に高まるという研究(※4)もある。また、電子タバコのベイパー(エアロゾル)がDNAの損傷を誘発し、DNAの修復を阻害するという研究も出た(※5)。

 受動喫煙についても電子タバコの使用で微小粒子であるPM2.5が生じ、空気中にニコチンを含んだ成分が拡散することがわかっている(※6)。特に、肺の奥へ到達するリスクの高いPM0.5以下のナノサイズの超微小粒子(0.1マイクロメートル以下、Ultra-fine particles、UFP)が多く発生するようだ(※7)。

 さらに、葉タバコに添加されるメンソールなどの香料の成分に毒性があることは長く知られ、電子タバコについても例外ではない。特に肺の疾患を引き起こす危険性があり、ニコチンを含まない電子タバコの香料も有害であり、当然ながら加熱式タバコに添加される香料類にも同じ危険性があるということになる(※8)。

 電子タバコについての研究は盛んに行われているが、いわゆる「まだマシ」なハームリダクションとして禁煙に誘導するための活用も議論の最中といえ、結論は出ていない(※9)。紙巻きタバコとのデュアルユースの問題や未成年者を本格的な喫煙へ誘い込むゲートウエイ効果など、電子タバコについて多くの問題があるのは事実だ。

 欧米では、電子タバコの専用リキッドにマリファナなどの薬物を加え、周囲にわからずステルス的に違法薬物を摂取するとして問題になっている(※10)。こうした事件は日本でも相次ぎ、濃縮した大麻や覚醒剤の成分をリキッドに入れ、市販のリキッドとわかりにくくする手口で広まりつつあるようだ。

 アイコスは40カ国で販売(2018/08/25現在)され、PMIも巨大タバコ会社で世界的にアイコスについての研究は多い。だが、プルーム・テックは日本でしか販売されておらず、発生する成分などの研究がほとんどないのが現状といえる。

 加熱式タバコは、いずれも紙巻きタバコに比べての害の低減をキャッチフレーズにしている。アイコス同様、どうしてもタバコを止められない喫煙者の健康志向に付け込むタバコ産業のタチの悪さを感じるが、プルーム・テックも害がまったくなくなっているわけではない。

 むしろ、ベイパーという微小粒子を吸い込むことで、未確認の健康被害が出る危険性も高い。受動喫煙についても同じで、少なくとも明らかに無害にならない限り紙巻きタバコと同じ扱いにすべきだ。

※1:Leon Kosmider, et al., "Carbonyl Compounds in Electronic Cigarette Vapors: Effects of Nicotine Solvent and Battery Output Voltage." Nicotine & Tobacco Research, Vol.16(10), 1319-1326, 2014

※2:Pablo Olmedo, et al., "Metal Concentrations in e-Cigarette Liquid and Aerosol Samples: The Contribution of Metallic Coils." Environmental Health Perspectives, Vol.126, Issue2, 2018

※3:Aaron Scott, et al., "Pro-inflammatory effects of e-cigarette vapour condensate on human alveolar macrophages." BMJ Thorax, doi.org/10.1136/thoraxjnl-2018-211663, 2018

※4:Talal Alzahrani, et al., "Association Between Electronic Cigarette Use and Myocardial Infarction." American Journal of Preventive Medicine, doi.org/10.1016/j.amepre.2018.05.004, 2018

※5:Lurdes Queimado, et al., "Electronic cigarette aerosols induce DNA damage and reduce DNA repair: Consistency across species." PNAS, doi/10.1073/pnas.1807411115, 2018

※6:Paul Melstrom, et al., "Measuring PM2.5, Ultrafine Particles, Nicotine Air and Wipe Samples Following the Use of Electronic Cigarettes." Nicotine & Tobacco Research, Vol.19, Issue9, 1055-1061, 2017

※7:Karena D. Volesky, et al., "The influence of three e-cigarette models on indoor fine and ultrafine particulate matter concentrations under real-world conditions." Environmental Pollution, doi.org/10.1016/j.envpol.2018.08.069, 2018

※8-1:Gurjot Kaur, et al., "Mechanisms of toxicity and biomarkers of flavoring and flavor enhancing chemicals in emerging tobacco and non-tobacco products." Toxicology Letters, Vol.288, 143-155, 2018

※8-2:Thivanka Muthumalage, et al., "Inflammatory and Oxidative Responses Induced by Exposure to Commonly Used e-Cigarette Flavoring Chemicals and Flavored e-Liquids without Nicotine." frontiers in Physiology, doi.org/10.3389/fphys.2017.01130, 2018

※8-3:Shin Ae Kim, et al., "Cariogenic potential of sweet flavors in electronic-cigarette liquids." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0203717, 2018

※9:John N. Newton, et al., "Making sense of the latest evidence on electronic cigarettes." the LANCET, Vol.391, Issue10121, 639-642, 2018

※10:Christian Giroud, et al., "E-Cigarettes: A Review of New Trends in Cannabis Use." International Journal of Environmental Research and Public Health, doi:10.3390/ijerph120809988, 2015

※2018/09/09:12:52:「※8-3:Shin Ae Kim, et al., "Cariogenic potential of sweet flavors in electronic-cigarette liquids." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0203717, 2018」を追加した。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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