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「日焼け止め」効果はなぜ期待以下になるのか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 紫外線が強く海や山などへ外出の機会も増え、UVケアの日焼け止めサンスクリーン剤が活躍する季節だ。強い紫外線にさらされると、皮膚がんや悪性黒色腫(メラノーマ)の原因ともなる。だが、日焼け止めの効果は正しく使用しないと期待以下になるという研究が出た。

紫外線防護のために

 太陽光線はビタミンDの生成に不可欠だが、一方で太陽光紫外線にさらされ過ぎると皮膚が赤くなる紅斑(日焼け)が生じ、これが繰り返されることで皮膚がんや悪性黒色腫(メラノーマ)などを引き起こすこともある。

 太陽光線に含まれる紫外線は、大気中を通過するうちに波長の長短によって減衰され、波長が短い紫外線C波はほとんど地上へ届かず、B波(UV-B、波長280〜315nm)、A波(UV-A、波長315〜400nm)の波長の長さの順に強さが変わる。この中で、人の皮膚に赤い日焼け(紅斑)を生じさせる紫外線を紅斑紫外線といい、どれくらいの紫外線で紅斑が生じるかには個人差がある。

 CIE(International Commission on Illumination、国際照明委員会)は、1987年に紫外線の人体への影響度をCIE紅斑作用スペクトルとして定義し、日焼け(紅斑)を引き起こす最小紅斑線量(Minimal Erythemal Dose、MED)によって評価した。また、WHO(世界保健機関)は、公衆衛生的な観点から紫外線対策についてガイドラインを作成しているが、紫外線の強さを太陽光紫外線インデックス(Solar UV Index、※1、UVインデックス)として示すよう推奨している。

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A波、B波など多様な紫外線による紅斑の影響を総合的に示したUVインデックスによる東京の月ごとの平均。UVインデックスは、ほぼ290〜400nmの波長の紫外線の強さによって求められる。Via:気象庁「日最大UVインデックス(解析値)の月別累年平均値グラフ」(2018/07/29アクセス)

 どうしても太陽光線に当たらなければならない場合、リスク回避のため、サンスクリーン(Sunscreen)剤、いわゆる日焼け止め化粧品(以下、日焼け止め)を皮膚に塗布することが推奨されてきた。

 日焼け止めの効果の指標は、紫外線をどれくらい防ぐかというSPF(Sun Protection Factor)やPA(Protection Grade of UVA)が用いられる(日本化粧品工業連合会)。SPFは紫外線のB波を、PAは紫外線A波をそれぞれ防ぐ強さの指標だ。

 SPF15で93%、SPF30で97%、SPF50で98%、それぞれ紫外線(UVB)をブロックする。このパーセンテージは光子(Photon、光の粒子)をどれくらい通過させるかという割合で、SPF15の場合、7/100の光子が肌へ到達するというわけだ。

 UV-Aの紫外線防護については、PAを使うがこれは日本で開発された指標だ。こちらのほうは5段階のPPD(Persistent Pigment Darkening)数値を使用し、数値なし、2〜4はPA+(効果がある)、4〜8はPA++(かなり効果がある)、8〜12はPA+++(非常に効果がある)、12〜はPA++++となる。

正しい用量を均一に塗ること

 こうした効果をうたった日焼け止めは、多種多様な製品が販売されていて海や山へレジャーで出かける際の必需品だ。だが、ユーザーはメーカーが推奨する用量や使用法を驚くほど守っていない。

 英国のロンドン大学キングス・カレッジのセント・ジョンズ病院皮膚科などの研究グループによれば、正しい用量を塗らないと紫外線から皮膚を守ることはできないという(※2)。

 この研究グループは、フォトスキンタイプ(※3)のタイプIとタイプIIの英国人ボランティア16人を2群8人ずつ(各群の3人が女性、うち1人がタイプI)に分け、1群はSPF50の日焼け止めを0.75〜2.0mgまで段階的に塗り、別の1群は何も塗らずに日に当たり、世界各地の紫外線量に合わせた実験室で5日間過ごしてもらったという。

 実験の結果、当然ながら日焼け止めを厚く塗ったほうが紫外線防護の効果が高く、塗らなかった群は紫外線で引き起こされたDNA損傷の指標であるCPD(Cyclobutane Pyrimidine Dimer、シクロブタン型ピリミジン二量体)による検査でDNAに著しい損傷がみられた。

 日焼け止めは概して少ない量を部分的に使用しがちであり、これまでの研究によればユーザーの約半数は正しく使用していないということがわかっている(※4)。この研究者によれば、SPF30以上を使用法に従って十分な量、少なくとも平方センチメートルあたり0.75mg以上塗布することが紫外線による皮膚の防護に重要だという。

 まだまだ夏が続き、紫外線にさらされる機会も増えるだろう。せっかくの日焼け止め、用量用法を正しく守って使いたいものだ。

※1:WHO, "Solar Ultraviolet Radiation", Solar UV index:time weighted average effective UV irradiance in Wm-2 multiplied by 40(Watts = joules/sec), 2006

※2:Antony R. Young, et al., "Sub-optimal Application of a High SPF Sunscreen Prevents Epidermal DNA Damage in Vivo." Acta Dermato-Venereology, Doi: 10.2340/00015555-2992, 2018

※3:フォトスキンタイプ:Skin Phototype:メラニン色素の量により紅斑のでき方が異なるが、皮膚のタイプを6段階(Phototype I〜VI)に分けた指標:I「常に赤くなり、決して皮膚色が濃くならない(Always burns, does not tan)」、II「常に赤くなり、その後少し皮膚色が濃くなる(Burns easily, tans poorly)」、III「時々赤くなり、必ず皮膚色が濃くなる(Tans after initial burn)」、IV「決して赤くならず、必ず皮膚色が濃くなる(Burns minimally, tans easily)」、V「皮膚色がとても濃い(Rarely burns, tans darkly easily)」VI「日焼けせず常に皮膚が黒い(Never burns, always tans darkly)」

※4:Uli Osterwalder, et al., "Global state of sunscreens." Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine, Vol.30, Issue2-3, 2014

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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