海は「タバコ吸い殻」汚染で泣いている

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 海の汚染では細かく砕かれたプラスチックのゴミが問題になっているが、海水浴場の場合はタバコのフィルターのゴミが多い。タバコのフィルターをポイ捨てする人が後を絶たないのはなぜだろう。

サメの口に詰め込まれた吸い殻

 先日、オーストラリアのニューサウスウェールズ州シェルハーバー(Shellharbour)にある海難レスキューのボランティア団体Marine Rescue NSWの門に、タバコのフィルターなどのゴミが口に詰め込まれたサメの頭部がさらされていたという報道があった。

 このサメは近海で捕まえられた約70kgのアオザメ(Mako Shark)で、犯人の動機は不明だ。単なる嫌がらせと考えられているが、オーストラリアの海岸を探せばサメの口の中に詰め込めるほどの大量のタバコのフィルターが容易に見つかるということになる。

 紙巻きタバコの場合、吸い殻を構成しているのは、吸い残しの葉タバコ、フィルター、そして外装の紙、フィルター巻取紙、糊、印刷インクだ。これはアイコス(IQOS)などの加熱式タバコでも同じだが、硬化プラスチックの外装のあるプルーム・テックのタバコカプセルはむしろ紙巻きタバコより厄介な廃棄物といえる。

 タバコのフィルターは、パルプを酢酸に反応させて作られるアセテート繊維という合成樹脂プラスチックの一種で、自然環境中へ放棄されると分解されにくく長期間残存する汚染物質となる。さらに、フィルターにはタバコを吸ったときに出る濃厚な発がん性物質や有害物質が閉じ込められ、それ自体が凶悪な汚染物質といえるだろう。

吸い殻自体が凶悪な有害物質

 海辺に来て吸いたくなるのだろうが、近くに喫煙所や灰皿があってもそこへ行かず、吸い殻を砂浜へネジ込んで見えなくし、すましている喫煙者も多い。海へ来るとマナーを忘れる喫煙者もいるようだ。タバコ煙も海風に乗り、かなり遠くまで運ばれるが、喫煙者はそれも気付かない。

 タバコから出る廃棄物のことをTobacco Product Wastes(TPW)というが、吸い殻がポイ捨てされれば、こうした汚染物質が環境中へ放出されることになる。毎年世界で約4.5兆個のフィルターが捨てられていると概算され、海岸を汚染するゴミのうち最も多いのがタバコの吸い殻だ。

 日本のポイ捨てタバコからどれだけの有害物質が出るかを調べた研究(※1)によれば、ヒ素(0.041mg/1リットル)やニコチン(3.8mg/1リットル)、鉛、銅、クロム、カドミウム、発がん性物質を含む多環芳香族炭化水素が検出され、ポイ捨てされた吸い殻の周辺土壌からも無視できない数値の有害物質が検出されている。

 これは吸い殻1つの数値なので、数千数万という単位になれば悪影響が甚大であることは容易に想像できる。吸い残された葉タバコが水たまりに浸かり、水が茶色になっているのを見かけた人もいるだろう。ニコチン自体も殺虫剤に使われるほど強力な毒劇物だ。

 世界の海岸と海の清掃活動をしている国際的な非営利団体「Ocean Conservancy」による2017年の活動報告「Building A Clean Swell」(PDF:2018/07/10アクセス)の中で、日本の海岸では重さ約3.7トン、個数約11万個のゴミを回収したとする。

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ゴミの総個数は約11万個、ゴミの種類ごとの個数ではタバコのフィルターがダントツで1位だった。Via:「Ocean Conservancy」2017「Building A Clean Swell」(PDF:2018/07/10アクセス)

タバコ会社は清掃費用を負担せよ

 タバコの火が火傷させることを予防したり環境美化のため、日本にはポイ捨てを禁止したり歩きタバコを禁止する自治体が多いが、フランスのパリでは毎年350トンのタバコの吸い殻がゴミとして収集されるようだ。

 タバコ由来のゴミを清掃する費用は行政、つまり住民や国民が負担し、それは莫大な金額になる。まだ喫煙率が高かった時代だが、日本におけるポイ捨てタバコの清掃費は毎年約2000億円という試算もあった(※2)。こうした費用計算はゴミの総清掃費とゴミにおけるタバコの吸い殻の割合から出しているが、もちろんタバコ会社はこうした清掃費を一銭も払ってはいない。

 タバコは健康への害のみならず、生産性を落とし、タバコの火の不始末による火災被害も大きい。こうした費用をタバコの価格に転嫁するべきだが規制当局は動かない。たばこ事業法がある日本ではタバコ会社に製造物責任を問うことも難しいと考えられるが、少なくとも使い捨てタバコ・フィルターの製造を規制するくらいはするべきという意見もある(※3)。

 こうしたタバコ由来のゴミ、フィルターによる環境影響で深刻なのは、海岸を含めた海洋汚染だろう。タバコ・フィルターによる世界の海洋汚染は、特にバルト海、黒海、地中海、日本近海(北西太平洋)などで大きな割合を占めている(※4)。

 

 タイの海水浴場を調べた最近の研究(※5)によれば、1平方メートルあたり2.26個のタバコ・フィルターが発見されたという。豊かな海洋資源と自然環境は水産業のみならず観光産業や住民にとっても重要だが、世界各国で汚染が進みつつあり、タバコ廃棄物による悪影響が無視できないものになっているというわけだ。

海水浴場の受動喫煙をどうするか

 日本の海水浴場で最初に禁煙化をしたのは、京都府の旧網野町(現・京丹後市)の琴引浜という。琴引浜鳴き砂文化館のホームページ(2018/07/11アクセス)によれば、2001年に旧網野町が制定した「美しいふるさとづくり条例」によるものだそうだ。

 静岡県熱海市(2005年4月1日~)や和歌山県白浜町(2008年7月1日~)などの自治体や三重県の鳥羽白浜ビーチ(鳥羽市)や兵庫県の竹野浜海水浴場(豊岡市)などのように各海水浴場ごとに海水浴場の禁煙化が進められてきた。都道府県としては、県の受動喫煙防止条例を2010年4月1日から施行した神奈川県が同年5月から海水浴場での禁煙条例を施行している。

 こうした海水浴場の禁煙化は環境保全だけが目的ではなく、タバコの火による火傷被害の防止、そして受動喫煙をなくす観点からも行われている。

 神奈川県の海水浴場に関する条例では、屋外に喫煙所を設置する分煙となっているが、海の家などの建物内には適用されない。ただ、県が施行する本来の受動喫煙防止条例が適用されることもあるとする。

 国(厚生労働省)は国会に受動喫煙防止対策を盛り込んだ健康増進法の改正案を出しているが、そこには特に海水浴場に関する規定はない。100平方メートル以下の飲食店には例外規定があるが、海の家に法令が適用されるのかどうか微妙だろう。海の家の営業には都道府県(保健所)からの飲食店営業許可が必要だが、神奈川県以外の都道府県で海の家への受動喫煙防止対策について決めておくべきだ。

 各地で梅雨明けし、すでに海開きしているところも、まだのところもある。いずれにせよ、煙たい他人のタバコを吸わず、きれいな海水浴場で夏を満喫したいものだ。

※1:Hiroshi Moriwaki, et al., "Waste on the roadside, ‘poi-sute’ waste: Its distribution and elution potential of pollutants into environment." Waste Management, Vol.29, Issue3, 1192-1197, 2009

※2:後藤公彦、「環境経済学概論」、朝倉書店、1998

※3:Clifton Curtis, et al., "Tobacco industry responsibility for butts: a Model Tobacco Waste Act." Tobacco Control, Vol.26, Issue1, 2016

※4:M E. Iniguez, et al., "Marine debris occurrence and treatment: A review." Renewable and Sustainable Energy Reviews, Vol.64, 394-402, 2016

※5:Nipapun Kungskulniti, et al., "Cigarette Waste in Popular Beaches in Thailand: High Densities that Demand Environmental Action." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.15, doi:10.3390/ijerph15040630, 2018

※2018/07/11:11:06:「これはアイコス(IQOS)などの加熱式タバコでも同じだが、硬化プラスチックの外装のあるプルーム・テックのタバコカプセルはむしろ紙巻きタバコより厄介な廃棄物といえる。」のパラグラフを追加した。