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50歳以下でも加熱式タバコでも「喫煙者」なら「脳卒中」に要注意

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 脳卒中は日本人の死亡原因で男女とも4位にあり、年間11万1973人が亡くなっている病気だ(※1)。高齢者の脳卒中も危険だが、50歳以下の若年層でもリスクがある。その中でもタバコを吸う人は要注意だ。

タバコは脳卒中のリスクを高める

 脳に血液が流れなくなることで、脳細胞が死んでしまうなどの障害が出る病気を全般的に脳卒中という。大きく分けると、脳の血管が詰まったりすることで脳に血液が流れなくなり、脳細胞に影響が出る症状を脳梗塞、脳の血管が破れて出血した結果、脳細胞に影響が出る症状を脳出血という。このほかには一過性脳虚血発作、くも膜下出血も脳卒中に含まれる。

 脳卒中のリスク要因としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈などがあり、タバコを吸うこともリスクを高める。高血圧や糖尿病は生活習慣によって引き起こされることも多く、原因となる生活習慣を改めることで予防したり悪化を防いだりすることができ、その結果として脳卒中のリスクを下げることが可能だ。

 喫煙も自分ですぐに今からでも止めることのできる生活習慣だろう。タバコに含まれる有害物質は脳卒中を引き起こすが、50歳以下の若年層でも大きなリスクになり、本数を少なくしても減らした本数分そのリスクが低くなることはない。

 2004年に出された日本の若年層がかかる脳卒中に調べた疫学調査(※2)によれば、7245症例中、50歳以下8.9%、45歳以下4.2%、40歳以下2.2%となっており、51歳以上と50歳以下で背景因子を比較すると男性(58.9%対62.8%)、喫煙者(19.3%対27.3%)、心臓の先天性欠陥(卵円孔開存例、0.7%対1.2%)で50歳以下が多かったという。

 若年層の脳卒中では、女性で強い相関関係があることがわかっている。15〜49歳の女性の虚血性脳卒中を調べた研究(※3)では、これまでタバコを吸ったことのない人に比べて2.6倍(オッズ比、OR)もリスクが高く、1〜10本2.2倍、11〜20.本2.5倍、21〜39本4.3倍、40本以上9.1倍と1日に吸う本数が増えるほどリスクが上がった。

 男性の若年層でも2018年に新たな調査研究(※4)が出され、米国人男性15〜49歳で喫煙者615人とタバコを吸わない530人とを比較したところ、これもまた1日に吸う本数が増えるほど1.88倍(オッズ比、OR)とリスクが上がることがわかった。この研究では、年齢、人種、教育のほか、高血圧、心筋梗塞、狭心症、糖尿病といった脳卒中に関連した病気の影響を考慮してリスクを出している。

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15〜49歳の米国人男性の虚血性脳卒中(Ischemic Stroke)の事例を、現在喫煙者(Current Smokers)、これまでタバコを吸ったことのない人(Never Smokers)で比べた。この年代でも現在喫煙者のリスクは、1日1〜10本でもタバコを吸わない人に比べて高くなっていることがわかる。論文より筆者がグラフ作成した。Via:Janina Markidan, et al., "Smoking and Risk of Ischemic Stroke in Young Men." Stroke, 2018

1日1本でもリスクは減らない

 このように、タバコの本数を少なくしても、けっしてリスクがなくなるわけではない。

 害の低減をうたっている加熱式タバコにもそれは当てはまるが、タバコの害は本数依存ではないというエビデンスも2018年に出されている。1日に1〜5本の喫煙本数でどれくらい冠動脈疾患と脳卒中のリスクがあるかを調べた項目のある141の研究を比較したシステマティックレビュー論文(※5)によれば、1日1本でも脳卒中のリスクが上がることがわかった。

 英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなどの研究グループによるこのシステマティックレビュー研究では、1946〜2015年5月までに出された研究論文で1日あたり1本、5本、20本という基準でリスクを評価したものを選んで比較したという。年齢、血圧、BMI(ボディマス指数)、教育、糖尿病、運動などの生活習慣といった変数を調整した後では、冠動脈疾患は男性1.74倍(1本/1日)と2.27倍(20本/1日)、女性2.19倍(1本/1日)と3.95倍(20本/1日)、脳卒中は男性1.3倍(1本/1日)と1.56倍(20本/1日)、女性1.46倍(1本/1日)と2.24倍(20本/1日)となった。

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141の研究論文を比較し、冠動脈疾患と脳卒中のタバコ本数によるリスクの違いを評価した。本数が少なくてもリスクはあり、1日20本を1本に減らしても1/20にはならないことがわかる。論文より筆者がグラフ作成した。Via:Allan Hackshaw, et al., "Low cigarette consumption and risk of coronary heart disease and stroke: meta-analysis of 141 cohort studies in 55 study reports." BMJ, 2018

 脳卒中により脳細胞に血液が通わなくなれば、脳に障害が起き、身体のしびれや麻痺、言語障害などが引き起こされる可能性が高い。喫煙が脳卒中のリスクなのは明らかで、タバコを吸うなら50歳以下でも油断はできない。さらに、本数を減らすのはもちろん、ニコチンやタールの少ないタバコや害の少ないと喧伝されている加熱式タバコに切り替えても、害はけっしてなくなるわけではないことを肝に銘じておくべきだ。

※1:厚生労働省:「平成27年 人口動態統計(確定数)の概況」より

※2:峰松一夫ら、「若年者脳卒中診療の現状に関する共同調査研究─若年者脳卒中共同調査グループ(SASSY-JAPAN)─」、脳卒中、第26巻、第2号、2004

※3:Viveca M. Bhat, et al., "Dose-Response Relationship Between Cigarette Smoking and Risk of Ischemic Stroke in Young Women." Stroke, Vol.39, Issue9, 2008

※4:Janina Markidan, et al., "Smoking and Risk of Ischemic Stroke in Young Men." Stroke, Vol49, Issue6, 2018

※5:Allan Hackshaw, et al., "Low cigarette consumption and risk of coronary heart disease and stroke: meta-analysis of 141 cohort studies in 55 study reports." BMJ, Vol.360, j:5855, doi: 10.1136/bmj.j5855, 2018

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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