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加熱式タバコ「タール」紙巻きタバコより多く〜韓国行政調査

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 アイコス(IQOS)などの加熱式タバコに含まれる有害物質は、タバコ会社のアナウンスだとかなり低い値になっている。第三者機関の調査研究では、その結果はまちまちだが、今回、韓国の食品医薬品安全処(Ministry of Food and Drug Safety)が3製品を調べたところ、有害物質がかなり多く含まれ、特にタールは紙巻きタバコより多かった。

韓国にも3種類の加熱式タバコが

 加熱式タバコは日本では現在、フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)のアイコス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のグロー(glo)、日本たばこ産業(JT)のプルーム・テック(Ploom Tech)の3種類が発売されている。韓国では、日本のJTにあたるKT&Gのリール(lil)があり、プルーム・テックは販売されていない。

 今回、日本の消費者庁や米国の食品医薬品局(FDA)にあたる韓国の食品医薬品安全処は、アイコス、グロー、リールの3種類の加熱式タバコの有害物質を調べた。

 加熱式タバコの有害物質に関する情報が、販売業者であるタバコ会社からのものしかなく情報の偏在があるという理由からだ。韓国食品医薬品安全処のリリースによれば、タールとニコチンの量、世界保健機関(WHO)が定めた9種類の有害物質(※1)をISO(International Organization for Standardization)法とHC(Health Canada)法の2種類の分析法によって調べたという。

 タバコ会社の分析は概してISO法のみを使用している。HC法との違いは、ISO法がタバコフィルターの吸い口から出る物質を単純に測定するのに比べ、HC法ではタバコフィルターに空けられた穴などを塞ぎ、より厳密にタバコが発生させる有害物質を測定分析する。

 よく「軽いタバコ」などというが、タバコ本体の葉タバコの成分や量に変わりはなく、フィルターに穴を開けることで吸い込むまでの間に空気を流入させているだけだ。軽いタバコを吸っている喫煙者は、フィルターの穴を指や唇で塞いだりし、より強い吸い心地を得ようとすることも多い。

 そのため、軽いタバコと表示されていても健康への害が少なくなるわけではない。つまり、ISO法は喫煙者の喫煙行動を再現したものではなく、HC法のほうがより実態に近い成分を検出できることになる。タバコ会社以外の第三者機関の研究では、ISO法とHC法の2種類で分析することが多く、韓国の食品医薬品安全処でも同様の方法を採用したというわけだ。

タールもしっかり含まれていた加熱式タバコ

 分析した結果は下記の表のようになる。驚くのは、タールの含有量だ。アイコス9.3mg、グロー4.8mg、リール9.1mgも検出されている。これはISO法でHC法だともっと多い。

 日本で売られている普通の紙巻きタバコのタール量は平均6.9mg(0〜24.8mg、※2)なので、アイコスやリールはそれよりも多いことになり、グローにしても決して少ない量ではなくHC法だと最も多くなる。

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韓国で販売されている3種類の加熱式タバコには、発がん性が疑われるホルムアルデヒドなど明らかに有害物質が含まれている。ISO法とHC法の違いもよくわかる。Via:韓国の食品医薬品安全処のリリース(筆者がハングルから日本語訳した)

 加熱式タバコのパッケージには「有害性物質○○%オフ」などという表示が印刷されているが、WHOは2018年2月にこうした表示は早計であり、消費者を誤った情報で誘導するものだと批難している。

 こうした分析結果や加熱式タバコから出る物質による健康への影響がまだわからないという実情を踏まえれば、受動喫煙防止対策で加熱式タバコを特別扱いするのは明らかに間違っている。日本の厚生労働省や消費者庁も、国民の健康や生命を守ることについてもっとよく考え、行動するべきだ。

 今後、こうした分析結果が続々と公表されてくることが予想されるが、喫煙者はもちろん国民は加熱式タバコの有害性が普通の紙巻きタバコに比べて低いものではないことをよく知っておいたほうがいい。

※1:ベンゾ(a)ピレン(Benzo[a]pyrene、発がん性物質)、N-ニトロソノルニコチン(N-Nitrosonornicotine、NNN、発がん性が強く疑われる物質)、4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン(4-(methylnitrosamino)- 1-(3-pyridyl)-1-butanone、NNK、発がんに関与する物質)、ホルムアルデヒド (Formaldehyde、毒性が強い発がん性物質)、ベンゼン(benzene、発がん性物質)、1,3-ブタジエン(1,3-Butadiene、強い発がん性が疑われる物質)、アセトアルデヒド(Acetaldehyde、発がんに強く関係した物質)、アクロレイン(Acrolein、強い毒性と酸化ストレス作用を持つ物質)、一酸化炭素(Carbon Monoxide、中毒症状を引き起こす毒性の強い物質)

※2:日本たばこ協会の資料(2017年)より

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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