加熱式タバコも「心臓と血管」に悪影響を与える

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 加熱式タバコを使用すると、紙巻きタバコとほぼ同じ量のニコチンが喫煙者の身体の中に取り入れられるが、それは喫煙者のニコチン摂取満足度を満たし、ニコチン依存という薬物中毒にするために必要な量のニコチンだからだ。このニコチンの害は、心臓や血管にとって無視できないほど大きい。

ニコチンで引き起こされる心房細動とは

 心臓は、寝ている間もずっと鼓動を打ち続け、死ぬまで働き続ける。心拍(脈拍、Heart Rate)の数は一定の時間(1分間)に心臓が血液を送り出すために収縮する回数だが、静かにしているときの男性の心拍数は60~70ほど、女性の心拍数は65~75ほどだ。心拍数は、運動したり興奮したり病気になって発熱したりすると多くなり脈拍が速くなる。

 行動や環境変化、体調などによって心拍数は上下動するが、こうした影響の結果、あるいは影響がないのに心拍数が異常に多くなったり(100以上)少なくなったり(50以下)することを不整脈という。不整脈のうち、心臓の心房(※1)の心臓を動かすための電気信号(※2)が乱れ、不規則な電気信号により心房が痙攣したように細かく速く動くことを心房細動(Atrial Fibrillation)という。

 心房細動は加齢によって生じることが多いが、高齢者でなくても生じることがあり、ほとんど自覚症状はないが動悸息切れやめまいなどの症状が出る場合もある。心房細動では、特に肺から戻ってきた血液を受け入れる左心房に新たな電気信号の発信カ所ができ、信号回路に混乱が生じて左心房だけでなく右心房にも影響が伝わって心房細動が起きることが多い。

 すると、心房から心臓のポンプである心室へうまく血液が流れなくなり、血液の固まり(血栓)ができやすくなる。心房細動でできた血栓は比較的大きくなり、心臓の壁に貼り付いた血栓が剥がれ、動脈から脳へ送られ、脳梗塞を引き起こすこともある。また、心房細動は、心臓の寿命を早め、機能を減退させるようだ。

 心房細動によって生じた血栓が脳へ飛んで起きる脳梗塞は、高血圧、糖尿病、心機能低下、75歳以上の高齢者、過去に脳梗塞をした人、僧帽弁(※3)狭窄症といったリスク因子のある人に起きることが多い。ただ現在では有効な治療法が少しずつ考えられ始め、心房細動に効果があるとする薬も開発されているようだ(※4)。

 いずれにせよ、心房細動を生じさせないよう予防に気をつけるのは大切だが、高齢者以外の心房細動は肥満や過労ストレスで起きやすいことが知られている(※5)。また、喫煙も心房細動のリスク因子であり、タバコに含まれるニコチンが心臓のカリウム・イオンチャネルに影響を与え、電気信号を乱すことで心房細動が引き起こされるのではないかと考えられてきた(※6)。

ニコチンは血管にも悪影響を与える

 疫学的にも多くのコホート(集団)調査研究で喫煙による心房細動のリスクが1.08倍から2.05倍(修正ハザード比)あることが示唆(※7)されている。ただ、民族や人種で影響が異なるという研究もある(※8)。

 日本人を対象にして心房細動の出現の早さを喫煙者で調査した研究(※9)によると、追跡期間中(2004~2012年)、喫煙者で9人、タバコを吸わない人で5人(1000人/年)の違いがあり、喫煙者のほうが1.47倍(ハザード比)新たに心房細動が出現する割合が高かった。また、1日に吸う本数は出現の早さとは関係なかったというが、いずれにせよタバコが心房細動と関係していることは明らかだった。

 ニコチンはタバコを吸うと短時間(数秒~約10秒)で脳へ到達するが、身体全体の血管から各臓器にも吸収される。ニコチンの刺激により、血管が収縮して血圧が上昇し、心拍数が増える。手足などの末梢の血管が収縮すると、血流が減って体温が下がるなどの悪影響を及ぼす。

 こうしたニコチンによる血管への作用は血管にダメージを与え、血管の内側の壁が損傷するなどし、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が取り込まれやすくなるなどの悪影響もある。

 前述したように、ニコチンは心臓の電気信号を乱し、心房細動を引き起こす可能性がある。さらに、心拍数に影響を与え、心房の筋肉組織の繊維化を早め、心臓に様々な悪影響を及ぼすと考えられている。

 加熱式タバコを販売するタバコ会社は、加熱式タバコの害の軽減をうたっているが、ニコチンの量は紙巻きタバコと大差ない。そうしなければ、喫煙者を満足させられないからだが、ニコチン依存症という薬物中毒患者(つまりは喫煙者)の中毒症状を緩和させないためでもある。

 ニコチンも心臓や血管に悪影響を与え、心房細動のリスクが高まる。その結果、脳梗塞になるリスクも高まるというわけだ。喫煙者はニコチン依存から早めに離脱したほうがいい。

※1:心房:心臓上部に左右2つあり、酸素が少なくなった使用済み血液を静脈から受け入れる部分を右心房(右心房から右心室を経て肺へ血液が送られ、酸素を受け取る、心臓の左右名称は逆)、肺から酸素を受け取った血液が入ってくる部分を左心房(左心房から左心室へ送られた血液が大動脈を通って全身へ)という

※2:心臓を動かすのは、右心房にある洞結節(どうけっせつ、Sinoatrial Node、洞房結節、Keith-Flack Node)という、一種のペースメーカーのように規則正しく自律的に電気信号を発する細胞からの刺激信号による

※3:僧帽弁(そうぼうべん、Mitral Valve):心臓の左心房と左心室の間にある弁で、肺から左心房へ戻ってきた血液をポンプである左心室へ送る

※4:国立循環器病研究センター:循環器病情報サービスのホームページ「心房細動といわれたら─その原因と最新の治療法─」より(2018/06/05アクセス)

※5-1:Andrew J. Foy, et al., "Relation of Obesity to New-Onset Atrial Fibrillation and Atrial Flutter in Adults." The American journal of cardiology. Vol.121(9), 1072-1075, 2018

※5-2:Eleonor I. Fransson, et al., "Job strain and atrial fibrillation- Results from the Swedish Longitudinal Occupational Survey of Health and meta-analysis of three studies." European Journal of Preventive Cardiology, doi: 10.1177/2047487318777387, 2018

※6-1:Huizhen Wang, et al., "Nicotine Is a Potent Blocker of the Cardiac A-Type K+ Channels." Circulation, Vol.102, 1165-1171, 2000

※6-2:ニコチンが脳内で作用するアセチルコリン受容体に似た感受性のカリウム・イオンチャネルが心臓(心房)にもある

※7:Xin Du, et al., "Is Atrial Fibrillation a Preventable Disease?." JACC, Vol.69, No.15, 1968-1982, 2017

※8:Muhammad I. Ahmad, et al., "Smoking and risk of atrial fibrillation in the Reasons for Geographic And Racial Differences in Stroke (REGARDS) study." Journal of Cardiology, Vol.71, Issue2, 113-117, 2018

※2018/06/07:10:24:「※5-2:Eleonor I. Fransson, et al., "Job strain and atrial fibrillation- Results from the Swedish Longitudinal Occupational Survey of Health and meta-analysis of three studies." European Journal of Preventive Cardiology, doi: 10.1177/2047487318777387, 2018」を追加した。