なぜ「アニサキスでアナフィラキシー」になるのか

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 食のブログで人気のクリエイティブ・ディレクターが、人獣共通感染症のアニサキス(Anisakis)がアレルゲンと思われるアナフィラキシー(Anaphylaxis)で入院し、アニサキスに感染している魚介類を食べられなくなってしまったそうだ。ネットでは同情の声があがっているが、アニサキスによるアナフィラキシーについて調べてみた。

欧米でも増えてきたアニサキス症

 アニサキスは寄生虫(線虫)の一種で、魚介類が中間宿主、最終宿主はイルカやクジラ、アザラシなどの海棲哺乳類となる。国立感染症研究所によれば(※1)、アニサキスによるアニサキス症は検査方法が進歩確立してから症例が多く報告されるようになった。世界でも魚食文化圏で多発し、日本では年間7000件前後と推計されている人獣共通感染症だ。

 中間宿主はサバ、アジ、イワシ、イカ、サンマなどとなっていて、酢じめした〆サバなどにもいる。加熱(60℃で1分以上)か冷凍(マイナス20℃で24時間以上)でなければ感染予防できない。生食の場合、前述の条件で完全に冷凍し解凍したものならば大丈夫のようだ。また、アニサキスは中間宿主が死ぬと内臓から筋肉へ移動することが知られているので、漁獲後にすぐ内臓を取り出すのも有効とされる。

 アニサキス症は、サバやアジなどの中間宿主を食べてから数時間後に、激しい腹痛や吐き気などを引き起こす。この場合、多くはアニサキスの第3期幼虫が胃の粘膜に穴を開けて入り込んでいる。食べたものや症状でアニサキス症が疑われたら、胃の内視鏡検査で確定後に内視鏡鉗子などで摘出する。

 最初に症例が報告された1960年以降、1995年頃まで2000件以上の症例が報告されていたのは日本だけだった(※2)。それが近年、欧米でも発症例が増えてきている。その理由について、欧米人が魚介類の生食をするようになったから、魚介類の処理の方法が確立されていないから、あるいは最終宿主であるクジラやイルカなどの海棲哺乳類の個体数が回復したから、などと考えられている。

 アニサキスは胃のほか、腸へ移動したり、消化器官から穴を開けて腹腔内へ入り込む場合もある。

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アニサキスの生活環。卵を海中へ生み出し、幼虫が孵化し、海の中を漂う第3期幼虫のうちにオキアミなどの甲殻類に寄生してサバやサケ、イカなどの中間宿主(魚介類)に寄生し、中間宿主が海棲哺乳類に食べられ、また人間にも感染してアニサキス症を発症させる。海棲哺乳類の中で成虫になり、産卵を繰り返す。Via:米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)の画像ファイル集より

 ※以下2018/07/10追加修正:この記事の読者の方からの指摘でアニサキス症とアレルギー(蕁麻疹)について追加修正する。

 冒頭のクリエイティブ・ディレクターはアニサキスがアレルゲンと考えられるアレルギー反応から血圧降下や呼吸不全、意識消失といったアナフィラキシーを引き起こした。

 アレルゲンとなっている場合、アニサキスの死骸やその破片でもアレルギーの原因となる。いわゆる「青魚を食べると蕁麻疹が出る」といったアレルギー症状やアナフィラキシーは、アニサキス・アレルギーとも複数要因とも考えられ、その因果関係はまだ完全に解明されているわけではない。

 ただ、アニサキスが消化器官に入ったことでアレルギー反応を引き起こす消化器アニサキス症というものがある。国立感染症研究所の「アニサキスアレルギーによる蕁麻疹・アナフィラキシー」(2018/07/10アクセス)によれば、アニサキス虫が抗原(Anis1~14、トロポニンC)になったり回虫など他の交差反応があるなど複雑だ。いずれにせよ、アニサキスが体内に入った場合、アニサキスのアレルゲン検査をすべきだろう(追加修正ここまで)。

 完全に調理した魚介類を食べてもアナフィラキシーを引き起こし、かなり重篤な症状となる。1997年に出された症例研究(※3)によれば、蕁麻疹やアナフィラキシーが確認され、この研究によれば貝類でもアレルゲン反応があった。アニサキスによるアレルギー症状では、好酸球性胃腸炎や腸閉塞、虫垂炎などの症状に似ているため、診断が難しいという側面もあるようだ(※4)。

死亡例もあるアナフィラキシー

 アレルギー反応によるアナフィラキシーについては、日本アレルギー学会(Japanese Society of Allergology)が世界アレルギー機構(World Allergy Organization)の策定したアナフィラキシーガイドラインをもとに日本版のガイドラインを発行している。それによれば、アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」とし、「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」をアナフィラキシーショックとしている。

 アナフィラキシーの症例は世界的に増えている。死亡率はそれほど高くはなく、米国では人口100万人あたり0.63~0.76、英国では人口10万人あたり0.047となっている(※5)。

 アナフィラキシーは乳幼児にも多いので食物アレルギーの症状をよく観察し、虫刺されなどに注意して症状が起きたらすぐに医療機関で診察・治療を受けることが重要となる。少し前になるが、小麦粉にダニが混入し、ダニ・アレルギーによるアナフィラキシー症例が多く出たことがあった(※6)。小児のアナフィラキシーでは死亡例もあるので、ダニの繁殖を防ぐなど家庭でも食品の管理には十分に注意したい。

 アニサキスもダニも人獣共通感染症を引き起こすが、エキノコックス(Echinococcus)という寄生虫によって引き起こされるエキノコックス症でもアナフィラキシーが起きることが知られている(※7)。キツネやイヌなどから人間にも感染するが、アニサキスの第3期幼虫もエキノコックスも治療薬がなく、侵襲的(外科的)に寄生虫や感染部位を取り除くしかない。

 アニサキスのような人獣共通感染症への警戒とともに、食品生産などにおけるリスク管理も重要だが、冒頭のクリエイティブ・ディレクターのように一度、アレルギーになってしまうと、そのアレルゲンを食べたりすることができなくなる可能性もある。多様な因子が複雑に影響し合うアレルギーに対し、近い将来、医薬の進歩によってアレルギーを予防したり、身体の免疫反応を正常な状態に戻すことができるようになるのだろうか。

※1:国立感染症研究所:「アニサキス症とは」(2018/05/10アクセス)

※2:N Kagei, et al., "A case of hepatic anisakiasis with a literal survey for extra-gastrointestinal anisakiasis." Japanese Journal of Parasitology, Vol.44(4), 346-351, 1995

※3:A Moreno-Ancillo, et al., "Allergic Reactions to Anisakis simplex Parasitizing Seafood." Annals of Allergy, Asthma & Immunology, Vol.79, Issue3, 246-250, 1997

※4:Alicia Alonso, et al., "Anaphylaxis with Anisakis simplex in the Gastric Mucosa." The New England Journal of Medicine, Vol.337, No.5, 350-351, 1997

※5-1:Larry Ma, et al., "Case fatality and population mortality associated with anaphylaxis in the United States." The Journal of Allergy and Clinical Immunology, Vol.133, Issue4, 1075-1083, 2014

※5-2:Paul J. Turner, et al., "Increase in anaphylaxis-related hospitalizations but no increase in fatalities: An analysis of United Kingdom national anaphylaxis data, 1992-2012." The Journal of Allergy and Clinical Immunology, Vol.135, Issue4, 956-963, 2015

※6:Kentaro Takahashi, et al., "Oral Mite Anaphylaxis Caused by Mite-Contaminated Okonomiyaki/Pancake-Mix in Japan: 8 Case Reports and a Review of 28 Reported Cases." Allergology International, Vol.63, No.1, 2014

※7:Joachim Richter, et al., "Anaphylactic shock ensuing therapeutic puncture of an echinococcal cyst." Parasitology Research, Vol.114, Issue2, 763-766, 2015

※2018/07/10:13:51:読者からの指摘により、文中の部分を追加修正した。