世界中の「ジンベエザメ」は大家族の一員である

沖縄の美ら海水族館のジンベエザメ(写真:ロイター/アフロ)

 世界最大の魚類として知られるジンベエザメ(Rhincodon typus、英名Whale Shark)だが、テンジクザメ目(Orectolobiformes)の中でも単一種として独立した生物だ。回遊性のジンベエザメは世界中に分布するが、フカヒレ目的などの乱獲にさらされ(※1)、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧種のEN(ENDANGERED)に区分けされている。今回、ジンベエザメは、世界の海を股にかけた大家族である可能性を示唆する研究が発表された。

世界中でそう変わらないジンベエザメの遺伝子

 サメというのは不思議な生物で、顎を持つことで急速に進化した原型でもあり(※2)、脊椎動物で最も長寿だったり(※3)する。ジンベエザメはそのサメの仲間で最大になり、これまでの最大記録は体長12.65メートル、体重約21.5トンの個体だ。またその名は、身体の文様が男性用和装の甚平(じんべえ)の柄に似ているからという。

 ジンベエザメの世界最長飼育記録更新中の沖縄の美ら海水族館のHPによれば、沖縄周辺には5~6月頃に現れるそうだ。世界中の熱帯~亜熱帯海域に分布し、海水温21℃以下の海域ではまれにしか観察されない。

 これまでのジンベエザメの遺伝子を調べた研究によれば、世界中の海にいる個体の遺伝子に大きな違いがなく、これほど広範囲でも遺伝的な分化がないことがわかっている(※4)。カリフォルニア沖など太平洋の東海域からインド洋に生息するジンベエザメの集団では、その間にインドネシアの大小スンダ列島やニューギニア島、オーストラリア大陸などがあるのにも関わらず、遺伝子の変異はほとんど見られない(※5)。

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ジンベエザメの世界の分布。それぞれの海域の個体の遺伝子を調べたところ、大きな変異がみられない。Via:A L. F. Castro, et al., "Population genetic structure of Earth's largest fish, the whale shark (Rhincodon typus)." Molecular Ecology, 2007

 映画『ジョーズ(Jaws)』(1975年)で有名なホオジロザメも、南アフリカからオーストラリア西岸まで往復約2万km以上もの長距離を移動することが知られている(※6)。だが、オーストラリア周辺海域で捕獲されたホオジロザメのミトコンドリアDNA解析をした研究(※7)によれば、ホオジロザメには海域によって遺伝的な違いがあるようだ。

 また、世界中でゲームフィッシングの対象魚であるメカジキ(Xiphias gladius)でも太平洋、地中海、北大西洋、南大西洋でミトコンドリアDNAの変異があることがわかっているし(※8)、これはクジラ類だが同じように遠距離を移動し、世界中に分布するネズミイルカ(Phocoena phocoena)でも、北大西洋とイベリア半島沿岸、黒海の集団で遺伝的に大きく異なる変異のあることが知られている(※9)。

 ジンベエザメの遺伝子が世界中の個体であまり差がなく変異が少ないということは、遺伝的な多様性が低いということで環境変化や病気などへの適応力も低いということになる。多くのサメはその生態や資源量がよくわかっていない。一般的に、サメの仲間は寿命が長く性成熟に達するのに時間がかかり、いったん資源量が減ると回復させるのが難しいと言われる(※10)。ジンベエザメも約30年かけて性成熟に達し、寿命は推定70~100年のようだ。

ジンベエザメの世界最長移動を観測

 世界のジンベエザメは大家族を形成しているようなものだが、移動のための繁殖行動や交尾の観察など、その証拠はこれまであまりはっきりしていなかった。今回、米国のスミソニアン学術協会が中米パナマに置くスミソニアン熱帯研究所(Smithsonian Tropical Research Institute)などの研究者が、2011年に太平洋沖で発信器をつけた3頭のメスのジンベエザメの移動を調べたという研究結果を発表した(※11)。

 3頭につけられたのは、研究探査のために打ち上げられたARGOS(Advanced Research and Global Observation Satellite)人工衛星によって受信される発信タグで、パナマの太平洋上にあるコイバ国立公園(Coiba National Park)でつけられた。発信タグは電池切れを防ぐため、ジンベエザメが海面近くに浮上したときにだけ発信するようにプログラムされている。

 調査では、3頭のうちアン(Anne)と名付けた体長7メートルのジンベエザメの移動にフォーカスした。アンの移動が特徴的だったからとし、追尾開始後にメキシコ沖にあるフランス領クリッパートン島へ移動し、南下してコスタリカ沖のココス島からエクアドル沖のガラパゴス諸島のダーウィン島へ向かった。

 だが、アンが深く潜り過ぎたからか、266日後に信号が途絶え、その後の235日間は音信不通になってしまう。次にアンが現れたのはハワイ島の南で、9日間ハワイ沖にいたあと、マーシャル諸島を経由してグアム島に近いマリアナ海溝へ向かった。タグ付けされてからの日数は2011~2014年まで841日、移動距離は2万142キロメートルで、1995年にタグ付け調査された研究結果(※12)の約1万3000キロメートルを超えてジンベエザメの移動距離の観測では最長となる。

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メスのジンベエザメ「アン」の旅と各海域の移動の詳細。パナマ沖からガラパゴス諸島へ南下し、その後、しばらく消息不明となり、ハワイの南へ出現してからマリアナ海溝まで841日かけて移動した。赤い線は1995年に調査された個体の移動。Via:Hector M. Guzman, et al., "Longest recorded trans-Pacific migration of a whale shark (Rhincodon typus)." Marine Biodiversity Records, 2018

 研究者は、ジンベイザメの長距離移動が確認されたことで、世界中の海にいる個体が繁殖などで交流する可能性が示唆され、遺伝的な変異が少なくなっている理由の解明につながるという。パナマ沖という太平洋東岸からマリアナ海溝まで移動したアンの旅を延長すれば、フィリピンから南シナ海を経由し、インド洋へ出ることが推定される。

 平均速度時速30キロメートルで泳ぐ場合、1年に約1万キロ移動できる。2~3年の移動時期があれば、ジンベイザメは世界の仲間と交尾可能というわけだ。研究者は、こうした生態を踏まえて絶滅危惧状態にあるジンベイザメの保護に役立てていくべきだと主張している。

※1:「DNA解析で暴かれた『ジンベエザメ』市場流通の実態」Yahoo!ニュース個人:2017/08/26

※2:「『サメ』と人類は約4億4000万年前に分かれた」Yahoo!ニュース個人:2018/01/06

※3:「サメは『長寿のカギ』を握っている」Yahoo!ニュース個人:2017/09/14

※4:A L. F. Castro, et al., "Population genetic structure of Earth's largest fish, the whale shark (Rhincodon typus)." Molecular Ecology, Vol.16, Issue24, 5183-5192, 2007

※5:Jennifer V. Schmidt, et al., "Low Genetic Differentiation across Three Major Ocean Populations of the Whale Shark, Rhincodon typus." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0004988, 2009

※6:「『ホオジロザメ』の出没予想は可能なのか」Yahoo!ニュース個人:2017/11/01

※7:Dean C. Blower, et al., "Population genetics of Australian white sharks reveals fine-scale spatial structure, transoceanic dispersal events and low effective population sizes." Marine Ecology Progress Series, Vol.455, 229-244, 2012

※8:Jaime R. Alvarado Bremer, et al., "Global population structure of the swordfish (Xiphias gladius L.) as revealed by analysis of the mitochondrial DNA control region." Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, Vol.197, Issue2, 295-310, 1996

※9:Michael C Fontaine, et al., "Rise of oceanographic barriers in continuous populations of a cetacean: the genetic structure of harbour porpoises in Old World waters." BMC Biology, Vol.5, 30, 2007

※10:「なぜ『イタチザメ』は絶滅リスクが高いのか」Yahoo!ニュース個人:2018/01/22

※11:Hector M. Guzman, et al., "Longest recorded trans-Pacific migration of a whale shark (Rhincodon typus)." Marine Biodiversity Records, Vol.11:8, 2018

※12:Scott A. Eckert, et al., "Telemetry and Satellite Tracking of Whale Sharks, Rhincodon Typus, in the Sea of Cortez, Mexico, and the North Pacific Ocean." Environmental Biology of Fishes, Vol.60, Issue1-3, 299-308, 2001