なぜ農村部のほうが「寿命が短い」のか

ロシアの医療列車(写真:ロイター/アフロ)

 この100年間で世界は交通や通信の発達のために「狭く」なったとよくいわれる。政治や行政、社会制度、医療福祉、教育などのインフラも整備され、100年前に比べると人類が格段に健康長寿になっているのは間違いない。

 ただ、国連(UN)は、貧困や飢餓、医療福祉、教育、差別、環境など17項目で持続可能な世界を作ることに向けて活動(※1)しているが、世界には依然としてこうした社会的インフラが整備されず、情報や医療などへのアクセスが遅れている国や地域がたくさんある。また、国や地域の中でも都市と地方とで同じような格差があり、インフラや情報、アクセスに取り残された多くの人たちがいるのも事実だ。

世界の交通インフラ地図

 先日、英国の科学雑誌『nature』に世界の大都市へのアクセス度を濃淡で表現した地図(2015年度版)が出た。この交通インフラ地図は、英国のオックスフォード大学ナフィールド医学部(Nuffield Department of Medicine)や米国、イタリアなどの研究者による論文(※2)に掲載されている。また、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などからの資金で運営され、マラリアのリスク軽減を目指すオックスフォード大学の「The Malaria Atlas Project」のHPでも閲覧することが可能だ。

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色が薄いほど交通利便なエリアになっている。世界地図でみると米国の中西部は色がわりに濃くインドは色が薄い。当然だが山岳地帯やツンドラ、砂漠など人があまりいない地域の色は濃くなっている。『nature』の論文から地図を掲載した「The Malaria Atlas Project」のHPより

 この地図は、GoogleのGoogle Earthの検索機能と移動可能な道路の距離情報を使い、世界のある地点から最寄りの大都市へ行くのにかかる時間を分析し、それを地図上の濃淡で表している。世界的に社会インフラの多くは都市に集中しているため、都市部以外に住んでいる人にとっては都市へのアクセスのしやすさ、距離、時間などが重要だ。

 研究者によれば、同様の地図は2008年にも作られたが、この7年間で世界の道路面積は約5倍になったという。ちなみに、国土交通省の資料(※3)によれば米国のニューヨーク・マンハッタンの道路率(面積に占める道路面積の割合)は約38%、東京都建設局のHPによると東京都の道路面積は約187.05平方キロメートルで、都の道路率は島しょ部を含めて約8.5%(区部16.4%)になっている。

 一概に道路といっても、舗装度、有料か無料か、車線の数などによって異なる。日本は複雑な地形のわりに薄く広く道路が敷設されているほうだが、人口密度とインフラ投資の比率も問題になるだろう。

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世界の人口密度を表したNASAの地図。前述で紹介した交通インフラ地図と比較すると、やはり人口密度が高い地域のアクセス度が高く、インドの色の薄さも理解できる。Via:NASA EARTH OBSERVATIONS: POPULATION DENSITY

都市部より農村部のほうが寿命が短い

 人があまり住んでいない地域に多額の経費をかけて道路を作ることに対し、否定的な意見も出るかもしれないが、交通インフラが医療や教育など多種多様な社会インフラやそれぞれのアクセスと関係がある、という考え方もできるのは確かだ。このあたりの意識は、国や地域、時代の変遷などによってかなり違うのだと思う。

 1969年から2009年にかけ、米国の都市部(urban)と農村部(rural)とで平均余命(収入や人種、性別などの調整後)を調べた研究(※4)によれば、2005年から大きな変動があったという。1969~1971年までの2年間、都市部(70.9歳)と農村部(70.5歳)の平均余命の差は0.4歳に過ぎなかったが、2005~2009年の4年間の平均余命は、都市部79.1歳、地方都市76.9歳、農村部76.7歳となり、都市部平均(78.8歳)と都市部以外の平均(76.8歳)で2歳もの開きになった。

 農村部では都市部に比べ白人以外の貧困層が多く、貧しい黒人層などが平均余命を引き下げている可能性が示唆されたという。また、心血管疾患や不慮の事故、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、高血圧、自殺、糖尿病など、農村部での割合が高い因子も多い。さらに、国土の広い米国では、医療インフラへのアクセスも都市部と農村部とで違う。

 比較する期間が2年間と4年間で異なるが、仮に2005~2009年の2歳を半分にしても0.4歳と1歳で2倍以上の開きになる。この間、米国ではレーガノミックスやリーマンショックなど大きな経済的な変動が起きているが、経済格差は健康格差と関係があり、地方の疲弊や過疎化も問題になっている日本で同じような傾向があるのだろうか。

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米国の都市部と地方都市、農村部を比較した男女と全体の平均余命(2005~2009年)。貧困層の多い地域ごとの比較では、都市部の平均余命は77.7歳で都市部以外の平均余命より3.3歳も長くなるようだ。Via:Gopal K. Singh, et al., "Widening Rural-Urban Disparities in Life Expectancy, U.S., 1969-2009." American Journal of Preventive Medecine, 2014

 健康格差でいえば日本の場合、日本の臨床医師の数はOECD加盟国の平均(加重平均2.8人)を下回っている(2.3人、厚生労働省のHP資料、※5)。医師不足には医学部入学定員の増員などが、また地域(離島や僻地を含む)偏在への対策なども実施されてきた。だが、依然として「西高東低」といわれるように専攻医を含めた医師の偏在は解消されていない。

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都道府県(従業地)別にみた医療施設に従事する人口10万対医師数(2016年12月31日現在)。平均は240.1人、徳島県315.9人、京都府314.9人、高知県306.0人の順で多く、埼玉県160.1人、茨城県180.4人、千葉県189.9人の順で少ない。Via:厚生労働省「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」より

 交通インフラでいえば、高齢化と過疎化が進む農村部では鉄道やバス路線が統廃合され、医療機関などへ行く手段が少なくなっている。比較的、道路率が高い日本だが、地域的な偏在は医療インフラだけではない。

※1:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、SDGs)

※2:Daniel J. Weiss, et al., "A global map of travel time to cities to assess inequalities in accessibility in 2015." nature, doi:10.1038/nature25181, 2018

※3:2001.07.05、国交省、社会資本整備審議会・都市計画分科会「都市の現状と課題」

※4:Gopal K. Singh, et al., "Widening Rural-Urban Disparities in Life Expectancy, U.S., 1969-2009." American Journal of Preventive Medecine, Vol.46, Issue2, e19-e29, 2014

※5:2016.11.15、第3回「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」参考資料1、「『今後の検討の全体構造』と関連する現状・施策について」(PDF)。加重平均とは、OECD加盟国の全医師数をその加盟国の全人口(各国における医師数掲載年と同一年の人口)で除した数に1,000を乗じた値。