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「加熱式タバコ」人気はテレビ番組で火がついた

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 大阪国際がんセンターなどの研究者が、日本における加熱式タバコ(Heat-not-burn tobacco、加熱式たばこ)の使用状態を調査した論文(※1)を英国の医学雑誌『BMJ』12月16日の電子版に発表した。2013年4月から2017年3月までGoogle検索のクエリ(検索する際の言葉やフレーズ)データを分析し、また2015年の時点で15歳から69歳までの8240人を対象に個人的な加熱式タバコ使用の観点から縦断的にインターネット調査した。同時に、他人の加熱式タバコの呼気エアロゾルで何か具体的な症状(喉の痛み、目の痛み、病気など)を発症したかどうかについても聴いた、と言う。

テレビ番組で紹介されて人気が

 クエリで検索した言葉は、電子タバコ(電子たばこ、ベイパー)、プルーム(Ploom)、アイコス(IQOS)、グロー(glo)だった。アイコスはフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)、プルーム(プルーム・テックの前の製品)は日本たばこ産業(JT)、グローはブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のそれぞれ製品となる。ちなみに、日本ではニコチン添加の電子タバコ(ベイパー)は一般的に使用されていない。

 縦断的なインターネット調査では、電子タバコ、プルーム、アイコス、グローの過去30日間の使用について質問し、紙巻きタバコとのデュアルユーザーについても調べた。さらに、アイコスを紹介した2016年4月28日(木)放送のテレビバラエティ番組(テレビ朝日系の『アメトーーク!』「最新!芸人タバコ事情」)を視聴したかどうかとアイコスの使用開始の関係についても質問した、と言う。

 その結果、アイコス(IQOS)はテレビバラエティ番組で紹介されたことで、クエリの検索データが激増したことがわかった。一方、日本たばこ産業(JT)のプルーム・テック(Ploom Tech)とブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)のグロー(glo)の検索データの増加は限定的だったようだ。

 また、アイコスのユーザーは、2015年1月から2月は0.3%増、2016年1月から2月も0.6%増でしかなかったのに比べ、2017年1月から2月の増加率は3.6%になっていたが、他の2社の推定使用率は2017年まで低いままだった。この調査によれば、2016年4月の同バラエティ番組を視聴した対象者(10.3%)は視聴しなかった対象者(2.7%)よりアイコスを使い始めた可能性が高いことが推定される、と言う。

 一方、加熱式タバコの受動喫煙について、縦断的なインターネット調査によれば、回答者の12%(997人)が加熱式タバコのエアロゾルにさらされた経験があり、そのうちの37%が、不快な気分、目や喉の不快感などの症状を訴えた。

従来の紙巻きタバコとの併用も

 また、加熱式タバコや電子タバコと従来の紙巻きタバコとを併用するユーザー(72%)も目立った、と言う。一方、いわゆるハームリダクションの効果へのはっきりした証拠は出なかったようだ。ただ、日本ではニコチン添加の電子タバコ(ベイパー)の使用が限定的で、先日発表された国立がん研究センターの調査と同様、加熱式タバコと電子タバコが混在され、両者をはっきり選別できないため、正確なデータを把握しきれない可能性がある。

 研究者は、今回の調査結果から予想できる範囲で言うと、日本におけるアイコスの推定ユーザー数は約310万人いると考えられる、としている。そして、政府行政や国民の公衆衛生に携わる機関は、急増する加熱式タバコ使用やそのユーザーの増加、加熱式タバコによる受動喫煙について引き続き、監視をするべきだと結論づけている。

 加熱式タバコについては、米国の食品医薬品局(FDA)では販売承認を保留し、英国の食品基準庁(FSA)もその危険性を指摘している。また、最近ではロイター通信がその有害性について、PMIの元研究職らの証言を元に加熱式タバコが健康被害を軽減するという結論を出すのにはまだ早い、という内容も含まれる検証記事を出した。

 喫煙率などが日本と似ており、オリンピック前という事情も同じ韓国では、韓国のタバコ会社KT&Gが新しい加熱式タバコ、リル(lil)を発売し、PMI、JT、BATの戦線に参入しようとしている。また、日本でも加熱式タバコへの増税が議論されているが、韓国ではいち早く加熱式タバコの増税を決めた。その影響でPMIは韓国におけるアイコスの価格を引き上げている。

 ちなみに、日本のプルーム・テックは韓国では販売されていない。また、日本での厚労省の下部組織が、テレビなどを使って禁煙キャンペーンを大々的に行ってもいる。

 加熱式タバコは、吸う人の健康や周囲への受動喫煙など、その害がまだはっきりとわかっていない以上、国民の健康を守る公衆衛生的な立場から政府行政などは加熱式タバコを現状容認すべきではない。また、調査対象となった『アメトーーク!』は深夜枠にしては視聴率が高く、お笑い芸人をイジる内容でファンも多い。テレビ番組のアナウンス効果は絶大であり、テレビ局はその公共性から健康へ影響の懸念される特定の製品を安易に紹介すべきでないことは言うまでもない。

※1:Takahiro Tabuchi, Silvano Gallus, Tomohiro Shinozaki, Tomoki Nkaya, Naoki Kunugita, Brian Colwell, "Heat-not-burn tobacco product use in Japan: its prevalence, predictors and perceived symptoms from exposure to secondhand heat-not-burn tobacco aerosol." BMJ, tobacco control, December, 23, 2017

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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