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英国でも「加熱式タバコ」のリスクが指摘される

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 日本の厚生労働省が、受動喫煙防止条例案の中に加熱式タバコも規制対象に盛り込む方向で固まった、と各メディアが報じている。加熱式タバコ(加熱式たばこ)に関しては、例えば日本呼吸器学会の見解はかなり否定的だ。一方、喫煙者のかなり多くが加熱式タバコへ移行しつつある、とされているが、従来の紙巻きタバコとの混在率などはわかっていない。

 ところで、英国の食品基準庁(Food Standards Agency、FSA)は、日本で言えば食品安全委員会(内閣府)であり、米国では食品医薬品局(FDA)に当たる組織だ。英国政府の機関で本部はロンドンにある。

そのリスクを否定できない

 その英国食品基準庁が12月11日、加熱式タバコ(Novel Heat not Burn Tobacco)には健康へのリスクがあるという声明を発表した。米国ではまだFDAの販売許可が下りていないが、英国ではすでに加熱式タバコが発売されている。フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)のアイコス(IQOS)とブリティッシュ・アメリカン・タバコのグロー(glo)の2種類だ。

 英国では、ニコチン添加のリキッド蒸気式の電子タバコも認可されており、既存の紙巻きタバコ(手巻きユーザーも多い)と電子タバコ、そして加熱式タバコの激戦国となっている。タバコ会社の加熱式タバコ販売戦略は、英国でもかなり進められているから、英国食品基準庁も早めのアナウンスを表明した、というわけだ。

 この声明によれば、加熱式タバコから出る有害物質(HPHc、the harmful and potentially harmful compounds)は紙巻きタバコより少ないとは言え、有害物質が全く含まれていないわけではないのだから健康へのリスクを排除できない、としている。有害物質の割合が50%から90%まで軽減されているのは確かだが、タバコ葉を使っている以上、加熱式タバコはニコチン添加の電子タバコより有害と考える、という立場だ。

 また、上記のタバコ会社2社から提出された加熱式タバコに関するデータは、有害物質以外のデータを含まない不完全なもので、健康リスクに関しては評価に値しないとし、疫学的な知見を得るためにはまだかなり時間がかかるため、リスクを否定することはできない、とした。

 さらに、妊婦への影響や受動喫煙、そしてこれらのニコチン供給デバイスが若年層などの非喫煙者をニコチン依存の喫煙者に誘導するゲートウェイになるという懸念も示し、タバコを止めて禁煙するのが最もいい方法である、とまとめている。これは基本的にニコチン中毒自体も公衆衛生的な見知から認めることはできない、という立場だ。

 ちなみに、英国の医学会や公衆衛生行政からの見解は、妊娠中の喫煙は母体にも胎児にも悪影響をおよぼすので認められない、としつつ、どうしてもタバコを止められない場合、いわゆるハームリダクション(被害軽減)の観点から、紙巻きタバコよりニコチン添加された電子タバコのほうがずっとまし、という立場をとっている。だが、そのリスクがわからない加熱式タバコについて、同じような認識にはいたっていないことがこの声明にうたわれている。

 米国では加熱式タバコについて、食品医薬品局(FDA)の販売承認がまだ取れていない。アイコスの販売申請をしているPMIがFDAに出したデータが都合のいいものだった、という指摘(※1)もあり、またFDAが委託した研究によればアイコスのエアロゾルに血管機能を低下させる可能性がある、とする結果も出ている(※2)。加熱式タバコへのネガティブな意見が少しずつ出始めているのだ。

 英国食品基準庁の声明に書かれている内容は、国民の生命健康や公衆衛生を預かる行政の立場からは当然過ぎるものだ。日本の厚生労働省や食品安全委員会は、加熱式タバコの健康への影響に関して沈黙し続けているが、早急に同じような見解を出すべきだろう。

※1:Stanton A. Glantz, "PMI’s Own Data on Biomarkers of Potential Harm in Americans Show that IQOS is Not Detectably Different from Conventional Cigarettes, so FDA Must Deny PMI’s Modified Risk Claims." Docket Number: FDA-2017-D-3001

※2:Matthew Springer, Ph.D., professor, cardiology, University of California, San Francisco School of Medicine; Nieca Goldberg, M.D., cardiologist and medical director, NYU Langone Joan H. Tisch Center for Women's Health, New York City; Nov. 14, 2017, presentation, American Heart Association annual meeting, Annaheim, Calif.

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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