マダガスカルは「ペスト」を制圧できるか

ペスト終焉に感謝するため、1681年に建てられたスロベニアの記念碑(写真:アフロ)

 中世のヨーロッパで「黒死病」として恐れられたペストだが、今年2017年の夏からアフリカのマダガスカルで流行している。WHO(世界保健機関)によれば、8月~10月下旬にかけ、1800人以上に罹患の疑いがあり、これまで確認されているだけで127人が死亡している。

 ペストには、腺ペスト、肺ペスト、敗血症型のペストがあり、腺ペストはネズミなどの齧歯類のノミにより媒介する感染症で、肺ペストは腺ペストや敗血症型ペストにかかった患者から別の人間へ感染するヒト・ヒト感染だ。大流行した14世紀のヨーロッパでは5000万人以上がペストで死んだとされる。

 日本では明治から大正期に流行したものの、ペスト菌の発見者である北里柴三郎らが主導した政府の対策により制圧されている。一方、冒頭のマダガスカルのように世界にはまだ多くの発生地域が残っている。さらに、ほかの人獣共通感染症のように、従来の齧歯類のノミだけでなく、ネコやイヌなどの家畜やペットのノミを介した感染例も報告されているようだ。

ペスト流行をリアルタイム分析

 WHOによると、現代のペストは正確な予防知識も広まり、感染初期なら抗生物質による治療が可能な感染症になっている。ただ、予防防護措置が十分でなかったり、感染者が知らぬ間に広く移動するなど、フェールセーフが破られた場合、地域限定的なアウトブレイクからパンデミックへ移行する危険性はまだ高い。

 今回のマダガスカルのペスト流行は、ここ半世紀では最も患者数の多い事例になりそうだが、WHOは、マダガスカル国内における広がりの可能性はあるものの、国外やグローバルへ感染するリスクは低い、と評価している。マダガスカルでの流行を受け、同国からの出国検疫の強化と同時に、コモロ、モーリシャス、モザンビーク、セイシェル、南アフリカなどの近隣諸国はすでにペスト対策の態勢を敷き、感染疑いの旅行者への検診など、十分な警戒に入っているようだ。

 北海道大学などの研究チームは11月17日、マダガスカルの肺ペスト流行が国際的に広がるリスクについて「極めて限定的」ということを証明した(※1)、と発表した。同大のプレスリリースによれば、一人あたりの感染者が生み出す2次感染者数の平均値「基本再生産数」を1.73と推定し、この数値は肺ペストのマダガスカル国外への輸出リスクが約3ヵ月間(2017年8月1日からの92日間)、他のすべての国で0.1人未満程度という推定と同じ意味だという。

 この推定値は、パスツール研究所マダガスカル支部が公開している腺ペストの感染者数(確定と疑い)、死亡者数に関する報告をもとに分析し、リアルタイム予測をしたものだ。こうした報告では、発病から報告されるまでの間に時間的な遅れが生じるが、日々、推定結果を更新するリアルタイム予測をするためには報告の遅れなどを入れつつ、分析をしなければならない。

感染のピークを探る

 感染症では流行のピーク時期を判断することも重要になるが、最新週の感染者数を前の週と比べ、増加しているかどうかをみる。感染者数が前週よりも減少していればピークを過ぎたのではないか、という予測ができるが、報告の遅れにより感染者数が実際とは違うことがよくあるようだ。今回の研究成果では、この点にも注意して分析モデルを構築した、と言う。

 マダガスカルでのペスト流行は、現地での対策が奏功したのか、これまでのところは死亡者数も低く抑えられている。一部報道には流行終息に向かう、といったものもあるが、肺ペストの高い死亡リスクを考えればまだまだ警戒が必要だろう。今回の研究グループも「現時点でもマダガスカルにおける肺ペスト患者数は増加傾向にあり」今後もリアルタイム予測を継続していく、としている。

※1:都築慎也ら、「2017年8月から10月のマダガスカルにおける肺ペストの疫学動態」、Eurosurveillance、ストックホルム時間2017年11月16 日、オンライン公開

※1:基本再生産数:一人の新規患者が平均して何人の2次感染者を発生させるかという指標で、数字が大きいほど流行が拡大しやすく、1を下回って数字が小さいほど流行が終息に向かう可能性が高いと評価できる。麻疹(はしか)の場合は10~20、風疹は5~8で、今回の推定値1.73はこれらよりも小さい。

※参考:国立感染症研究所「ペストとは」