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Twitterから「物質依存」を探る

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

 日本と同様、米国でも若い世代の約90%がソーシャルメディアのアクティブユーザーになっている。今年2017年の米国における18歳から34歳までのユーザーのモバイルアプリの使用調査(Comscore社)によれば、最もダウンロードされているアプリはAmazonアプリで約35%、次いでGmailアプリ、Facebookアプリ、FacebookのMessengerアプリ、YouTubeアプリ、Google Mapsアプリなどと続いている。

 残念ながら、Twitterアプリはトップ10には入っていない。米国の事情は日本とはかなり異なり、もちろんLINEは入っていないし、18歳から24歳までの若い世代でもInstagramは10位に入るかどうかだ。逆に、日本ではほとんど使われていないWhatsAppが米国では比較的よく使われている。

 ただ、トランプ米大統領が活用するなどし、Twitterは米国でも少しずつ巻き返している。日本の若い世代は毎日のニュースなどをTwitterやLINEで見るほど使っており、神奈川県座間市で起きた死体遺棄事件でTwitterが使われるなど、その影響力の大きさが問題視されてもいる。

物質についてのツブヤキを分析

 日米でTwitterの使用状況などはかなり異なるが、ちょっと気になる論文(※1)が米国の科学雑誌『PLOS ONE』電子版に出ていたので紹介したい。米国ユタ大学の研究者は2015年4月から2016年3月にかけ、郵便番号(zip code)をもとに米国48州でTwitter上のアルコールやタバコ、マリファナやコカインなどのドラッグといった「物質」143種類についてのツブヤキを感情表現(happyとnot happyの0-1)と同時に調べ、若い世代に共通する「binge(どんちゃん騒ぎ)」や「prom(ダンスパーティ)」といった言葉でフィルタリングし、未成年者を含む若い世代を分離して分析した。

 若い世代を中心に、米国でもTwitterが広く使われ始めていることがこの研究の背景にあるようだ。短い言葉を効果的に使う傾向にあるTwitterは、端的な感情表現も含まれ、多数のユーザーの調査に適している。また、Twitter上の言葉を統計分析すれば、どんな言葉が広く一般に使われ、それらがどんな意味を持つのかがわかってくるだろう。

 この論文では、合計7984万8992のツブヤキが集められ、その中の68万8757が上記物質に関するものだった、と言う。アルコールには「ビール」や「テキーラ」、「booze(酒)」といった酒の種類、「drunk」など飲み方などの言葉が、タバコには「タバコ」や「葉巻」などの言葉が、ドラッグには「ヘロイン」や「shrooms(マジックマッシュルーム)」、「smoke weed(ハッパをヤル)」や「got high(飛ぶ)」といった吸い方などの言葉が、それぞれの世代ごとに特有のスラングなどと同時に分析された。

 その結果、ツブヤキで最も多かったのはアルコール、次いでドラッグ、タバコの順になった。その中で肯定的(happy)なツブヤキが多かったのは、アルコール(35.5%)、タバコ(26.4%)、ドラッグ(12.3%)で、やはりドラッグについてネガティブなツブヤキが多いことがわかる。

 若年層のツブヤキで多かったのがdrunk(34%)で次いでbeer、alcohol、prom+weed(ダンスパーティとハッパ)、get drunk(酔っ払い)などとなっている。全米の若い世代でみれば、アルコールに関するツブヤキがほとんどだ。また、都市など人口の多い地域で相対的に全ての物質と若年層の関係が低くなっているが、これは未成年者がアルコールやタバコ、ドラッグなどにまだ手を出していないからだろう。

 ただ、カリフォルニア州やネバダ州、マサチューセッツ州など米国の一部の州ではマリファナ(医療用大麻と娯楽用大麻)が合法化されている。人口100万人以上の都市部でドラッグの使用が多くなるという研究がある一方、農村部でオピオイドの処方が増えているという報告もある。ドラッグの使用が都市部と農村部でどう異なるか、まだはっきりした研究はないようだ。

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各州ごと、アルコール、タバコ、ドラッグの肯定的(happy)なツブヤキの違い。アルコールが東部で、タバコが中西部で、ドラッグは特にサウス・ダコタ州やモンタナ州などで肯定的だ。宗教的な理由からか、ユタ州はどの物質も肯定的なツブヤキは少ない。Via:Hsien-Wen Meng, et al., "National substance use patterns on Twitter." PLOS ONE, 2017

Twitter社が「自殺や自傷行為」表記ルール変更

 一方、全体的に、失業率の高い地域と平均所得の低い地域では、アルコールのツブヤキは少なく、ドラッグのツブヤキが多くなる傾向にある。アルコールやドラッグのツブヤキについては、このように都市部と経済活動の関係が示唆されるようだ。例えば、コンビニエンスストアが多い地域ではアルコールに関するツブヤキが多くなる傾向にある。また、ビールとタバコの言葉が同時に使われることも多いことで飲酒と喫煙の関係もわかった。

 1年のどの月にツブヤキが多いのかを調べたところ、アルコール、タバコ、ドラッグのどの物質も4月がとりわけて多いことがわかった。どれも最もツブヤキが少ない直前の3月と4月を比べると、アルコールでは約10倍、タバコでは約6倍、ドラッグでは約20倍以上多い割合に増えている。ただ4月の極端な違いは、調査期間が4月から3月の1年ということに関係があるのかもしれない。

 この研究は米国のTwitterについて調べたものだが、ソーシャルメディアの社会的な影響力は世界中で増すばかりだ。日本のTwitter社は先日、書き込みについて「自殺や自傷行為:自殺や自傷行為の助長や扇動を禁じます」とルール表記を変更した。ネット上の表現の自由と絡み、ソーシャルメディアという便利なツールを今後どう使っていくのか、悩ましいところだ。

※1:Hsien-Wen Meng, Suraj Kath, Dapeng Li, Quynh C. Nguyen, "National substance use patterns on Twitter." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0187691, 2017

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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