Yahoo!ニュース

南太平洋に沈没した大陸「ジーランディア」の謎に迫る

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
PHOTO:IODP / JSRO / Tim Fulton

 地球上には現在、6つの大陸(※1)があるが、オーストラリアの東方、現在のニュージーランドを含む海域にかつて「ジーランディア(Zealandia)」という大陸があった。いわゆる「失われた大陸」であり「沈没した大陸」である。

海底に沈んだ大陸

 地球の大陸はプレートの上に乗っている、というプレートテクトニクス論では、かつて地球の大陸は一つ(ゴンドワナ)だったが、プレートが分割されて引き裂かれ、現在の大陸の配置になった、ということになっている。南極大陸とくっついていたオーストラリアとジーランディアも約1億3000万年前から引き離され、やがてオーストラリアとジーランディアに分かれた(※2)。

 それぞれのプレートは複雑に乗り上げたり潜り込んだりしているが、ジーランディアを乗せていたプレートは少しずつ沈みはじめ、約2300万年前に現在のニュージーランドなどを除く約94%が海中に没した。その理由は謎である。

画像

海底に沈んだジーランディアと現在のニュージーランド。大陸の面積は約350万平方キロメートルで、グリーンランドの約1.6倍、オーストラリア大陸(約900万平方キロメートル)の2/5程度か。Via:National Oceanic and Atmospheric Administration、NOAA

火山説かプレート説か

 ジーランディアはなぜ海底に没してしまったのだろうか。その仮説は大きく分けて二つある。

 

 その一つは、プレートの下からマントルプリュームという、ドロドロに溶けたマグマの塊が浮上し、ちょうどふくらんだパイ生地から空気が抜けてペチャンコになるように、プレートが沈み込んだのではないか、という説だ(※3)。実際、ジーランディアの地殻の厚みは約20キロメートルほどしかなく(※4)、約6000万年前の白亜紀後期からジーランディアで火山活動が活発化した形跡があるようだ(※5)。

 もう一つは、プレートの沈み込みが原因だったのではないか、というものだ(※6)。ジーランディアはオーストラリア・プレートと太平洋プレートがぶつかり合う場所になる。ニュージーランドの北島と南島の分かれ目付近だ。ただ、この地域のプレートの衝突を調べた結果、それほど強い圧力がかかってはいない、という説もある。

 ジーランディアが沈んでしまった理由の解明は、プレートテクトニクス論を大きく飛躍させ、地震学や火山学に寄与する。そのため、現在では国際的な学術協力により大規模な探査が始まっている。

国際探査掘削船が帰還した

 その一つが国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program、IODP)だ(※7)。この計画には、米国の探査掘削船「ジョイデス・レゾリューション(JOIDES Resolution)」も参加しているが、先日、2ヶ月の調査航海からオーストラリアのタスマニアの港へ帰ってきた。

 12ヶ国、32人の科学者を乗せた同船は、海底の地下を掘削し、堆積物や岩石を採取、ジーランディア沈没の謎を探査してきたのだ。米国国立科学財団のHPによれば謎の解明にかなり近くまで迫る成果を持ち帰ってきたらしい。

画像

探査掘削船ジョイデス・レゾリューションの航路(点線と矢印、星印)。ジーランディアの北部、火山の多いオーストラリア・プレートを探査した。黒い実線がプレートの境界。ニュージーランドのあたりでプレートがズレ合っているのがわかる。Via:IODP

 火山活動や気候変動の変化の記録を調べるため、水深1250メートル以上の6つのポイントで掘削し、述べ2500メートル分の堆積物のサンプルを採取してきた。この資料には8000以上の化石標本も含まれ、すでに数百種の化石が同定された。また、40万年から50万年前に環太平洋火山帯の活発な火山活動が起き、ジーランディアが沈んでいる海底にそれが大きな影響を与えたことも新たにわかった、という。

画像

停泊する探査掘削船ジョイデス・レゾリューション。進水は1978年で老朽船だが、2009年に大規模な改修を行っている。船名の由来は18世紀の探検家、ジェームズ・クック船長が乗った帆船(第二回、第三回の航海。初めて南極圏へ突入した)から。PHOTO:IODP

恐竜絶滅の謎も

 前述した二つの仮説のうち、科学者の多くは約8000万年前にオーストラリアとジーランディアが分かれた際に沈没したプレート説を考えている。だが、今回の調査に参加した研究者は、もっと劇的な出来事がその後に起きた可能性が高い、と言う。これはインド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかり、ヒマラヤ山脈を形成したのと同じくらいの地球規模の大イベントだったようだ。

 また、このイベントが起きたのは約6000万年前と想定される。つまり、恐竜絶滅の後と考えられることから、大規模な火山活動がその前後に起きたとすれば、恐竜絶滅との関係もあるかもしれない。

 また、これから海底から採取された資料を調べていけば、当時の動植物の進化の過程もわかってくるはずだ。同様にジーランディアの海底掘削調査を予定している日本の「ちきゅう」(海洋研究開発機構、JAMSTEC)はジョイデス・レゾリューションに先を越された形だが、きっとさらに大きな成果を持ち帰ってくれることだろう。

※1:ユーラシア、北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、オーストラリア、南極。もしくはユーラシア大陸をアジア州とヨーロッパ州に分け、南極を入れない6大陸の区分もある。

※2:Nick Mortimer1, Hamish J. Campbell2, Andy J. Tulloch1, Peter R. King2, Vaughan M. Stagpoole2, Ray A. Wood2, Mark S. Rattenbury2, Rupert Sutherland3, Chris J. Adams1, Julien Collot4, Maria Seton "Zealandia: Earth’s Hidden Continent." The Geological Society of America, Vol.27, Issue.3, 2017

※3:Gaina, C., et al., "Evolution and Dynamics of the Australian Plate." Geological Society of Australia Special Publication v. 22, p. 405-416, 2003

※4:地殻の厚さは、陸地で30キロメートルから60キロメートル以上であり、海洋地帯で10キロメートル以下。ジーランディアという大陸があったにしては地殻の厚さが薄い。

※5:N. Mortimer, P. B. Gans, S. Meffre, C. E. Martin, M. Seton, S. Williams, R. E. Turnbull, P. G. Quilty, S. Micklethwaite, C. Timm, R. Sutherland, F. Bache, J. Collot, P. Maurizot, P. Rouillard and N. Rollet, "Regional volcanism of northern Zealandia: post-Gondwana break-up magmatism on an extended, submerged continent." Geomechanics and Geology, 463, 16 August 2017, https://doi.org/10.1144/SP463.9

※6:Condie, K.C., "Earth as an Evolving Planetary System, 3rd edition." Amsterdam, Elsevier, 350 p, 2015

※7:国際深海科学掘削計画(International Ocean Discovery Program、IODP)は2013年から始まった。前身は統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program、IODP、2003年から2012年)で、そのまた前身は1985年から2002年までの国際共同研究プロジェクトである国際深海掘削計画(Ocean Drilling Program、ODP)。IODPの主要スポンサーは、米国の国立科学財団(National Science Foudation、NSF)、日本の文部科学省、EUの欧州海洋研究訓練コンソーシアム(ECORD)で資金調達パートナーが追加され、中国の科学技術省(MOST)、韓国の地球鉱物資源研究所(KIGAM)、オーストラリアとニュージーランドのIODPコンソーシアム(ANZIC)、インドの地球科学省(MoES)、ブラジルの高等教育人材(CAPES)がある。参加国は27ヶ国。日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査(掘削)船「ちきゅう」、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船により深海底を掘削し、気候変動、海洋変動、生命圏フロンティアなどの解明を目的とした研究を行っている。日本の「ちきゅう」も近いうちにジーランディアの調査を始める予定だ。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事