魚がどんどん「縮小」する未来
熱帯魚を飼った人ならわかるかもしれないが、魚が生息するためには水中(海中)に一定の量の溶存酸素(水中に溶けている酸素)が必要だ。変温動物の魚は体温を調節できない。水温が高くなると代謝が高まり、より多くの溶存酸素を必要とするようになる。
水温が高くなると酸素が減る
この溶存酸素の量(二酸化炭素量も同じ)は、水温(飽和量)とpH(富栄養化)とのトレードオフになる。水温が低ければ溶存酸素量は増え、高ければ減る。これは水中に存在できる分子の飽和量と水中微生物の光合成などの活動によるものだ。
泥田のような酸性の水では溶存酸素量は増え、海水のようなアルカリ性の場合は減る。水温とpHの条件でみると、高緯度で低温の湿原地帯などの溶存酸素量は多く、海水温の高い珊瑚礁は溶存酸素量が少なくなることがわかるだろう。
一方、魚は基本的にエラ呼吸をする。エラで水中の酸素を取り出し、二酸化炭素に換えて体外へ出すわけだ。エラの大きさと成長速度は、そのまま魚の大きさと成長速度を決める一つの要素になる。
酸素が減ると魚が小さくなる
将来、魚の大きさがどんどん小さくなっていくだろう、という論文(※1)が先日、米国の環境科学雑誌『Global Change Biology』に出された。エラの大きさは魚が成長するのと同じ比率で大きくなるわけではない、と論文の研究者は言う。幼魚から成長し、体重が増えるにつれ、エラは急速に大きくなるが、成長期が終わるとエラの成長速度も鈍化する。
魚の大きさが倍になってもエラの大きさは約80%しか大きくならない。一方、身体が大きくなれば、必要とする酸素量も増える。つまり、エラと酸素により、魚の大きさが決まってくる、というわけだ。研究者はこの理論を「gill oxygen-limitation theory(エラ酸素制限理論、GOLT)」と名付けている。
エラは水中の酸素を取り出すが、表面積に単位時間あたりどれくらいの水が触れるかによる。マグロなど速く泳ぐ魚の場合、海水中の酸素をより多く取り出せるが、それも消費エネルギーとのトレードオフだ。エラの成長速度は種類によって異なる。サメなどの場合、エラの大きさは体重増加にほぼ比例して大きくなるらしい。
エラの成長速度に制限され、魚の大きさも影響される。地球温暖化で水温が高くなれば、魚の大きさは小さくなる、とする。『Global Change Biology』より。
魚が小さくなれば漁獲量も減る
この研究者は、地球温暖化によって水温が高くなりつつあり、その影響により魚の大きさも小さくならざるを得ない、と主張している。前述したように、水温が高くなれば水中微生物の活動も活発になり、溶存酸素量が少なくなるからだ。酸素量が少なくなれば、エラが取り入れる酸素量も少なくなり、その結果、魚は大きく育つことができなくなる。
魚が小さくなれば、漁獲量も減る。実際、北海の漁獲量を調べた別の研究によれば、この40年間で魚の大きさは小さくなり、そのことで約23%漁獲量が減少したようだ(※2)。冒頭論文の研究者は、気温が1度高くなると約340万トンの漁獲量減少が予想される、と言う。
魚の大きさが全体として小さくなれば、大きな魚が小さな魚を捕食する生態系にも影響するだろう。我々が食べている寿司ネタやツナ缶などのサイズも、これからだんだん小さくなっていくのだろうか。
※1:Daniel Pauly, William W. L. Cheung, "Sound physiological knowledge and principles in modeling shrinking of fishes under climate change." Global Change Biology, DOI: 10.1111/gcb.13831, 21, August, 2017
※2:Alan R. Baudron, et al., "Warming temperatures and smaller body sizes:synchronous changes in growth of North Sea fishes." Global Change Biology, Vol.20, 1023-1031, 2014