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恐竜ハンターに学ぶ「化石」の見つけ方

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

 夏休みなので、各地で恐竜に関するイベントが多い。福井などの恐竜博物館以外でも、首都圏では幕張でも横浜でもやっているし、8月11日からは岡山でも開かれる。

 子どもは恐竜が大好きだ。今の世界、どこを見回しても絶対にいない生物だからだろうか。何千万年、何億年も前にこんな生物がいたという事実が強烈だからだろうか。筆者も恐竜は大好きだったが、古いもの、土に埋もれているもの、謎めいているもの全てに興味があったので、歩き回って土器の破片や化石がないか、あちこち掘り返しては叱られていた。

 化石探索に限らず、フィールドワークは宝探しにも通じる。誰にでも大発見ができるわけではないが、中には特別の才能を持つ人間がいて、なぜかその人だけが化石を見つけることができたり、新たな発想を考え出したりする。今日の記事では、そんな恐竜化石の研究者を何人か紹介しよう。

ジャック・ホナー(Jack Horner)

 子育て恐竜「マイアサウラ」の命名者であるジャック・ホナーは、米国モンタナ州ボウズマンにある「ロッキー博物館(The Museum of Rockies)」の研究者だ。映画『ジュラシックパーク』の監修も務め、恐竜は現代の鳥類になったと主張するように、最新の恐竜研究に多大な影響を与えた。2003年にモンタナ州とワイオミング州の州境からティラノザウルスの大腿骨の化石を発見。その中からタンパク質を取り出すプロジェクトにも参加した。恐竜を「よみがえらせる」研究の第一人者だ。

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 筆者がホナーとやり取りした中で「古い生物を研究しているからと言って、最新の技術を使わないのは誤りだ。だが、私自身はネイティブアメリカンのテントの中でフィールドワークをするのが大好きだけどね」とイタズラっぽく笑ったのが印象的だった。

 実際、1990年代半ば当時には珍しいCTスキャナーが研究室にある代わり、彼自身が『ナショナル・ジオグラフィック』誌に取材されたときにはテントを背にして雷雲と雷光を眺めるような姿だったのを覚えている。荒野の中に身を置きつつ先端技術の知識も持つべき、ということだったのかもしれない。

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ホセ・フェルナンド・ボナパルテ(Jose Fernando Bonaparte)

 南米アルゼンチンのスゴ腕の「化石ハンター」。ブエノスアイレス国立自然科学博物館の研究員として、南米各地で多数の恐竜化石を発見し、南米を一躍、恐竜大陸に押し上げた。白亜紀の南アメリカ大陸に君臨していた最大級の竜脚類アルゼンチノサウルス(Argentinosaurus)、目の上に角を生やした獣脚類カルノタウルス(Carnotaurus)といった映画でも活躍する恐竜化石も彼の発見だ。

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 ボナパルテは正式に古生物学を学んだわけではなかった。彼の父親は船乗りだった。だが、小さな頃から化石収集が大好きで博物館へ入り、パタゴニアなどの荒れ地でも熱心に研究を続けた結果、大学から名誉博士号を授与されるまでになった。まさに「好きこそものの上手なれ」である。

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ケネス・カーペンター(Kenneth Carpenter)

 ゴジラの背びれで有名なジュラ紀の草食恐竜ステゴサウルス(Stegosaurus)科の化石発掘でも有名な研究者だ。母親が日本人で日本生まれだが日本語はほとんど話せない。

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 現在は米国ユタ自然史博物館(Natural History Museum of Utah)にいる。ステゴサウルス科の系統分類などの研究には論争がある。スピノサウルスの食性などでも話題になった論争好きのカーペンターだが、筆者のインタビューの際に「小さい頃は映画のゴジラが好きだった。そうした好奇心を持ち続けること、その好奇心を刺激し続けることが大事じゃないか」と言っていた。

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ポール・セレノ(Paul Sereno)

 1990年代末頃から続々と新種化石を発見して一躍、恐竜ハンターに名乗りを上げた人物。米国シカゴ大学の研究者として、南米やアジア、アフリカなど、これまで手つかずだった土地へ出向き、それまでの知見、勘、第六感を駆使して化石を掘り出す。特にアフリカでの成果はめざましく、肉食のメガロサウルス科の獣脚類アフロベナトル(Afrovenator)や掃除機の吸い込み口のような口先をした草食恐竜ニジェールサウルス(Nigersaurus)など、ユニークな恐竜化石を多数発見した。また、白亜紀の獣脚類スピノサウルス(Spinosaurus)の食性について議論を巻き起こした。

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 セレノはTEDで「我々の身の回りの現在の哺乳類のような生物と恐竜を比較し、ナゼだろうという疑問を考えてみること、そして何千万年という時間をさかのぼるために地層や地学の知識はとても重要だ」と言う。また、フィールドワークでは恐竜の化石だけにとらわれず「地層やほかの生物、あらゆるものに興味を示す。化石が見つかる場所は得てして荒野だから、過酷な環境で調査を続けるためにも、いい仲間の存在とチームプレーが必要だ」と主張する。

 彼自身、若い頃は芸術家を目指したように「何かを探ったり見通したり考えたりすることは、絵を描くことと共通だ。学校の成績が悪く数学や物理が苦手な落第者でも『探究心』さえあれば誰もが科学者になれる」と言っていた。

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小林快次(Yoshitsugu Kobayashi)

 最後は日本の古生物学者の小林快次だ。現在、北海道大学総合博物館の准教授だが、中国の新疆ウイグル自治区やモンゴル、韓国、北米などで精力的に研究を続けている。

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 特に、白亜紀のオルニトミモサウルス類(コエルロサウルスの一種)の獣脚類ハルピミムス(Harpymimus)の化石分析は高く評価された。ハルピミムスは羽毛が生え、ダチョウのような外見をしている恐竜だ。

 小林の解剖学的な分析により、従来は肉食と考えられていたハルピミムスに鳥類のような胃石があり、植物や昆虫を食べていたことがわかった。また、2010年には韓国で最初の角竜類の化石を発見し(※1)、最近では北米大陸とユーラシア大陸の恐竜の関係を足跡化石などから研究している(※2)。

 小林が鑑定し、発掘を主導した「むかわ竜」は、まず2003年4月に北海道穂別町の住人が崖の中腹で尻尾の一部、骨化石を発見し、最初は首長竜化石として調査研究、化石のクリーニング作業を始めたが、首長竜研究者が恐竜の化石だと指摘。その後、小林に鑑定を依頼し、これが恐竜化石、おそらくハドロサウルス科(植物食恐竜)のものだろうと確認し、2013年9月、翌年9月と発掘調査を続け、全身骨格化石を掘り出した。

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 白亜紀後期の北海道はまだ海の中だったが、発見された「むかわ竜」は何らかの事情で海へ流され、沖合で海底へ沈み、化石化したのではないか、と考えられている。最初の発見は尾の一部だったが、小林が全身が残っている可能性があると推理し、大規模な発掘調査を提案した。

 小林は、あるテレビ番組で「(化石は)必ずあると信じる」と言っている。また、ポール・セレノと同じように若い頃は勉強が苦手で自分を平凡だと思っていたが、とにかく「少しでも前に進む」ことが大事と考え、一心不乱に研究に没頭し続けたそうだ。

フィールドワークから次世代の恐竜ハンターが

 筆者はかつて取材のため、米国やカナダの恐竜研究者に一緒に約1ヵ月間、フィールドワークに同行したことがある。中西部の自然は厳しく、周囲は本当に何もない荒野だ。米国やカナダは恐竜化石の宝庫でもあり、化石は確かにゴロゴロしていたが、その中から何か意味のあるものを見つけることがいかに大変か少し理解できたような気がした。

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 上の写真に写っているロイヤル・ティレル博物館のフィリップ・カリーも、非常に希有な恐竜ハンターだろう。小林快次とも一緒に研究をしているようだが、とにかくフィールドへ出るのが大好きな研究者だ。

 子どもたちはそろそろ夏休みの自由研究に追われ始める時期だろうか。恐竜博も楽しいが、化石を探しにフィールドワークへ出るのもいいだろう。日本には意外にも多くの恐竜化石が出ている。もしかすると、次世代の恐竜ハンターが今年の夏休みに誕生するかもしれない。

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※1:Yuong-Nam Lee, Michael J. Ryan, Yoshitsugu Kobayashi, "The first ceratopsian Dinosaur from South Korea." Naturwissenschaften, 2011

※2:Anthony R. Fiorillo, Stephen T. Hasiotis, Yoshitsugu Kobayashi, "Herd structure in Late Cretaceous polar dinosaurs: A remarkable new dinosaur tracksite, Denali National Park, Alaska, USA." GeoScienceWorld, 42(8), 2014

※:文中一部敬称略

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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