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どんな「笑顔」が好きですか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

生物で「外見」が重要になってくるのは、配偶者を選ぶ性選択のときだろう。もっとも、多くの生物では選ばれるのはオスなので、オスの外見ということになる。また、我々ヒトの外見や表情、振る舞い、態度などについても、心理学や経営学などの観点から多くの研究がなされている。

笑顔だけでも多種多様な研究があり、たとえば非言語的行動学からのアプローチからは、笑顔には「自発的な明るく素直な表現」「前向きではないことを隠す偽りの表現」「泣き笑いの表現」といった三種類に分けられる(※1)という研究がある。また、あまり楽しくない感情をごまかすための作り笑いは、嫌悪感や恐怖、軽蔑、悲しみの感情のときの顔の筋肉と連動していた(※2)とか、顔の筋肉の動きや口の開け方、応答速度、左右対称性など笑顔には122種類ある(※3)などなど、枚挙に暇がない。

CGで作った笑顔で調査

とりわけ、笑顔を含む我々の顔の表情には、目の周囲の筋肉の動き(※)が重要となる。「目は口ほどにものを言う」などと表現されるが、この筋肉をよく観察すれば、相手がどんな感情を抱いているかがわかるのかもしれない。

こうした我々の「笑顔」について先日、興味深い論文が発表された(※5)。

2015年に行われた米国ミネソタ州のイベントで来場者802人に協力を依頼し、下のようなCGイラストで作られた顔の表情27パターンをiPadアプリで見てもらった。この際、過度に飲酒している人は除かれている。

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協力者には、表情の印象について5段階評価(リッカート尺度、※6)してもらい、同時に「怒り」や「悲しみ」など7つの感情にどれが当てはまるか、「正直な笑い」か「ウソ笑い」か、「心地いい笑い」か「不気味な笑い」かについてアプリ上のスライドバーで選択してもらった。また、笑顔を見せる際、タイミングを遅らせて左右非対称にするヴァージョンも加えた。

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大笑いは逆効果

この調査によると、最も好印象だった笑顔は、応答速度が早くも遅くもなく適切で左右対称のものだった。特に、口の開け方と歯の見せ方の微妙なバランスで評価が分かれ、むしろ「ひかえ目な笑い」のほうが好印象で、口を大きく開いて歯をたくさん見せるような笑顔、いわゆる大笑いは、逆に悪い印象を与えることがわかったという。ただ、このCGのパターンをみると、重要とされる目の周囲の筋肉がほとんど大きく動いていないのが気になる。

ヒトの行動を研究する研究者の間では、歯を見せる量に対する評価や左右の対称性の効果に議論があり、この研究は多くの点で示唆的だろう。今後は、驚きや怒り、恐怖、悲しみといった表情でも同様の調査を行うとこの調査をした研究者は言っているが、眼球追跡や脳波記録といった生物学的な知見に対しても有用なデータとなるかもしれない。

※1:Paul Ekman, Wallace V. Friesen, "Felt, false, and miserable smiles." Journal of Nonverbal Behavior, Vol.6, No.4, 238-252, 1982

※2:Ekman, Paul; Friesen, Wallace V.; O'Sullivan, Maureen, "Smiles when lying." Journal of Personality and Social Psychology, Vol.54, 3, 1988

※3:Zara Ambadar, Jeffrey F. CohnLawrence Ian Reed, "All Smiles are Not Created Equal: Morphology and Timing of Smiles Perceived as Amused, Polite, and Embarrassed/Nervous." Journal of Nonverbal Behavior, Vol.33, No.1, 17-34, 2009

※4:目の周囲の筋肉を「Orbicularis oculi(AU6)」と呼ぶ。

※5:Nathaniel E. Helwig, Nick E. Sohre, Mark R. Ruprecht, Stephen J. Guy, SofiaLyford-Pike, "Dynamic properties of successful smiles." PLOS ONE, 12(6), 2017

※6:「Very Bad」「Bad」「Neutral」「Good」「Very Good」の5段階リッカート尺度。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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