やはり「青カビ」が原因か「紅麹」サプリメント事件に新たな知見。国立医薬品食品衛生研究所などの研究
小林製薬が製造販売した機能性表示食品、紅麹サプリメントを摂取した人が腎臓障害などの健康被害を起こした事件に新たな知見が出た。国立医薬品食品衛生研究所などが発表した論文によれば、工場から検出された青カビが紅麹サプリメントのモナコリンKを変化させて2つの化合物が生じた可能性があるという。
モナコリンKが変化して化合物が
この論文は、国立医薬品食品衛生研究所、小林製薬中央研究所、関西大学薬学部の研究グループによるもので、投稿受理されたのが2024年3月31日、アクセプトされたのが同年6月3日という約2カ月で出版されている(※)。今回の事件の主体である小林製薬の研究者が執筆者に入っているが、利益相反はないという宣言はある。
紅麹にはモナコリンK(ロバスタチン)という機能性成分が入っているとされ、血中コレステロールを下げる効果があるということになっている。これまでの検査により、問題を起こした製品には青カビ由来と考えられるプベルル酸が検出されているが、プベルル酸の腎毒性は確認されているものの、プベルル酸以外の成分はまだよくわかっていなかった。
同研究グループは、問題のなかった製造ロットと問題を生じた製造ロットを、各種クロマトグラフィーで分析し、比較した。その結果、問題を生じたロットから問題のなかったロットにはない2つの化合物が新たに見つかった。
次いでこの2つの化合物が、過去の原料サンプルにあったかどうかを調べたところ、特定の約半年の間に製造された7つの原料サンプルに、2つ、あるいはどちらかが検出された。また、プベルル酸が確認されたサンプルでは、この2つの化合物の両方が検出された。
この2つの化合物を分析したところ、紅麹の機能成分であるモナコリンKに類似した構造があることがわかり、同研究グループは次にモナコリンKと2つの化合物を比較した。その結果、2つの化合物にはアセチル基がつくことで変化した部分がわかり、化学式を読み解くことで1つ目の化合物が変化して2つ目の化合物が生じたと考えられた。
2つの化合物の再現実験も
これらの知見は、すでに厚生労働省が発表している内容を論文にしたものだが、1つ目の化合物は紅麹菌がモナコリンKを産生する過程で青カビが介在することで生じたと推定されている。同研究グループは、1つ目の化合物が変化することで2つ目の化合物が生成されたのではないかと考えている。
なぜ、紅麹サプリメントから腎臓障害を起こすような健康被害が生じたのかといえば、製造段階で青カビが混入し、プベルル酸を作り出し、同時に青カビが紅麹菌との作用でモナコリンKを変化させ、まず1つ目の化合物を生成し、次いで2つ目の化合物を作り出した。1つ目の化合物は青カビ単独では作り出せず、紅麹菌が作り出すモナコリンKが元になって生成されるのだという。
厚生労働省、健康・生活衛生局、食品監視安全課のコメントによれば、モナコリンKは抗菌作用を持つが、混入した青カビがモナコリンKによる抗菌作用を無力化しようとしたために一つ目の化合物が生じたのではないかと考えられるという。
プベルル酸には腎機能障害が確認されているが、今回の2つの化合物についてヒトへの健康への影響はまだよくわかっていない。ただ、実験動物のラットによる腎障害を起こすことがわかっている。
同研究グループは今後、汚染経路の解明と平行し、モナコリンKから2つの化合物を生成する再現実験を行い、より詳細な健康への影響は動物実験などにより調べていくという。
また厚生労働省は、青カビだけでは生成しないけれど紅麹菌と同じ製造環境にあると未知の化合物ができることがわかったことから、同様の製品製造工程について規格基準を策定するなどの措置を講じるとしている。
※:Seiji Tanaka, et al., "Novel compounds isolated from health food products containing beni-koji (red yeast rice) with adverse event reports" Journal of Natural Medicine, doi.org/10.1007/s11418-024-01827-w, 4, June, 2024