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あなたはなぜ「禁煙」できないのか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

喫煙率は実は依然として高い。三十代男性で41.9%、四十代と五十代男性ともに約37%、男性平均で約30%となっている(※1)。

そのため「強権的に受動喫煙防止対策を強化するのは乱暴」という意見にも耳を傾ける必要がある。ちなみに、女性の平均喫煙率は7.9%で、日本の喫煙率は女性が引き下げている、という側面もある。

これまで何回かタバコ問題、受動喫煙防止について記事を書いてきた。今回は、喫煙者がタバコを止められないのはなぜか、考えてみたい。

なぜ禁煙に失敗してしまうのか

喫煙をやめたがっている喫煙者は約30%いるが、禁煙の方法や身近な禁煙治療機関の有無がわからない喫煙者も多い。禁煙外来などで治療を受ける喫煙者もまだ少なく、せっかく禁煙治療を受けても禁煙に成功する患者は半数に満たない(※2)。

禁煙外来にかかって禁煙に挑戦したものの、脱落してしまう患者の理由は多種多様だ(※3)。薬剤のチカラを借りても禁煙できない、という喫煙者たち。複雑な事情から、タバコを止めることの難しさがわかる。

● 禁煙治療をあきらめた。

喫煙してしまい、自分は禁煙できないと思い込んでしまう。「禁煙治療をせねば」という気持ちがストレスになった、など。

● 禁煙がうまくいかなかった。

薬剤による効果が認められず、禁煙意欲も失せたため。喫煙が続いており、医師から治療終了といわれた、など。

● 精神疾患等の悪化。

精神科の治療を受けている患者はなかなか禁煙できない。ニコチン離脱症状を強く訴えるケース(うつ症状の悪化)など。

● 喫煙してしまい、通院しにくくなった。

処方を受けても禁煙できなかったので、通院しづらくなった。禁煙できない自己嫌悪感が強くなり、通院中断してしまった、など。

● 禁煙補助剤の副作用。

バレニクリン(ニコチンを含まない代替薬、副作用が指摘されている)内服で嘔気出現、気分不良になった。ニコチンパッチでの皮膚炎が強いケース、など。

● その他。

喫煙本数を減らせて満足してしまった、など。

タバコを吸うことを止められない人は、基本的にニコチン依存症という病気にかかっている。そのため、禁煙外来での治療や禁煙治療薬などで、このニコチン中毒という症状を緩和すれば、タバコを止められる可能性がある。

だが、前述したように、禁煙治療後にタバコを再開してしまう患者も多く、長期的に禁煙するためには心理的なサポートやカウンセリングが必要だ。禁煙治療には、患者自身の精神的心理的な特性ごとのアプローチが重要、ということになる(※4)。

また、治療一般に言えることだが、患者が受診や医師の指示に従い続けることが難しい場合もあるし(※5)、受療行動から脱落した患者に対する介入がなされていないことも多い(※6)。  

タバコを止めるために必要なこと

つまり禁煙希望者には、

● 医療者からの反復的な働きかけ

● 社会環境による喫煙に対する規制強化

● 禁煙外来などでの薬物療法

● 再喫煙防止と長期フォロー

● パンプレット教材などによる情宣

といった複合的な支援が必要ということになる。

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オタワ憲章(1986年)によれば、ヘルスプロモーションとは「人びとが自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」とされる。また、行動変容とは、医師や医療関係者が患者の行動を変えるのではなく、患者自らの考えで患者自身の行動が「変容」することだ。

禁煙サポートの有無によって禁煙成功率は変わる。また、喫煙者が禁煙しようとする行動は、喫煙者自身の考えによる強い「行動変容」の気持ち、そして家族や社会など周囲の環境などの要因に大きく影響される。

喫煙のような生活習慣を変えるためには、禁煙治療を含む喫煙者個々人へのアプローチと同時に「社会通念」による影響や家族、仲間など周囲の環境からの働きかけが重要だ。この二つが個人の喫煙習慣を変えさせる。また、両者は相互に関係し、社会全体の構成員の生活習慣に影響を与えるだろう。

今後の記事では、禁煙サポートのいくつかの事例、問題点などを紹介していきたい。

関連記事:

※1:厚生労働省「平成27年国民健康・栄養調査結果の概要」

※2:診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書

※3:診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書

※4:禁煙外来における禁煙治療の長期的効果に関する疫学的研究─3ヶ月及び1年後のフォローアップー調査結果より─、宮城真理、豊里武彦、小林修平、川口毅、心身健康科学8巻2号、2012年

※5:Gatchel RJ. Baum A. Krantz DS. An introduction to health psychology. McGraw-Hill College, 1989.

※5:本明寛、間宮武(監訳)『健康心理学入門』(金子書房、1992)

※6:中尾睦宏、ハーバード大学医学部心身医学研究所の行動医学的ストレスマネージメントプログラム─教育年数がドロップアウトに与える影響の評価、行動医学研究 2003 ; 9 : 9-15

※2017/05/11:3:10:「薬剤のチカラを借りても禁煙できない、という喫煙者たち。複雑な事情から、タバコを止めることの難しさがわかる。」部分を追加した。

※2017/05/11:18:22:バレニクリンの説明「(ニコチンを含まない代替薬、副作用が指摘されている)」を追加した。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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