がん治療の最終兵器「光免疫療法」の開発研究者、小林久隆氏に話を聞く
米国の国立衛生研究所(NIH)の日本人研究者、小林久隆氏によって開発された光免疫療法(アルミノックス治療)は、2011年に学術誌に発表され(※)、2012年には当時のオバマ米元大統領の一般教書演説でも言及された、がんの新しい治療技術だ。この治療法は、抗体と色素を結合させた複合体に対し、近赤外線を照射し、がん腫瘍細胞だけを選択的に破壊し、正常な細胞への悪影響を最小化する。
光免疫療法とは何か
がんの治療法には大きく外科的な手術、抗がん剤、放射線があるが、いずれもがんだけでなく健康な細胞や臓器にも悪影響をおよぼす副作用が出ることが多い。オバマ米元大統領が述べたように、光免疫療法は健康な細胞をほとんど傷つけることなく、がん細胞だけを破壊することができる治療効果の高い治療法だ。
光免疫療法では、2020年9月に使用薬剤(アキャルックス点滴静注250ミリグラム)の製造販売とレーザー光照射装置による頭頸部がんへの治療法が承認され、2021年1月から保険適用が始まっている。この光免疫療法の技術を開発した小林氏に、開発経緯や治療効果、将来像などについて話をうかがった。
──まず最初に小林先生が開発した光免疫療法のメカニズムを簡単にご説明いただけませんか。
小林「私たちの光免疫療法では、近赤外線という光線、そして近赤外線光に反応するIR700という化学物質が重要です。近赤外線はテレビなどのリモコンに使われる安全な光線で、色素のIR700(光感受性物質)は道路標識や新幹線の車体塗料に使われるフタロシアニンという色素を水に溶けるようにしたものです」
──近赤外線とIR700(光感受性物質、色素)がどうやってがんを治療するのでしょうか。
小林「がん細胞の表面には、他の正常な細胞には少ない抗原(がん抗原タンパク質)がありますが、がん抗原と結合する抗体にIR700をくっつけ、それを点滴で患者さんへ投与します。抗体とIR700の結合体ががん細胞に結合しますが、そこへ直径1ミリメートルの光ファイバーによる近赤外線を数分間、照射します。すると、光に反応したIR700が結合している抗体の形を変え、それによってがん細胞の表面に物理的に穴を開けます。こうした現象が、抗体が結合したがん細胞の表面で無数に起き、観察しているリアルタイムで、がん細胞がみるみる破壊されていきます。これが私たちの光免疫療法のメカニズムの簡単な紹介です」
化学好きがこうじて放射線科へ
──小林先生はどのようにして研究者になったのでしょうか。
小林「私はもともと医学より化学のほうに、より興味を持っていた医学生でした。学部に進んでからは病理学の教室へ出入りし、京都大学は核医学も強かったので専攻は放射線科で臨床を経験してから、大学院へ戻って本格的に抗体を用いた標的治療の基礎研究を始めましたが、こうした経歴も化学好きだったからです。研修医時代は放射線科で勉強させてもらいましたが、当時はすでに単にX線で病気を見つけたり患部を観察するような時代から造影剤を使ってCTやMRIを撮るような方法に変わって行く時代になっていました」
──放射線科で臨床を経験されたんですね。
小林「私は化学好きですから、患者さんへ処方する薬剤があれば添付文書を必ず読んでましたし、その薬剤がどんな化学成分なのか、作用機序はどうなっているのかなどを知ることが好きだったんです。京都大学はもともと核医学の研究が盛んでしたが、私も放射性同位元素のついたいろいろな薬剤を作り、その集まりを観察して診断するようなこともやっていました。薬剤は全て化学物質ですから、造影剤を作るためにも化学の知識が必要になります。放射線科では核医学製剤でがんを光らせるようなことをやっていたわけですが、当時から光らせることができるのなら、そこに薬剤を集めたりして治療に使えるんじゃないかということを考えていたんです」
──渡米後はどのようなご研究をされていたんですか。
小林「そうですね、大学院を終えてからすぐに米国へ留学しました。受け入れてもらえたのが、今も所属する米国国立衛生研究所(NIH)の臨床センター(CC)です。当時、抗体にくっつける物質は放射性同位元素が主でしたが、イメージングによる診断はガンマ線で撮ることができました。このガンマ線をアルファ線、ベータ線などに変えれば、がんの放射線治療ができます。放射線の種類によって診断から治療に使うという研究をしたかったので、NIHで先端の放射線核種標的モノクローナル抗体による放射線免疫療法(ラジオ・イムノ・セラピー)の研究をしていた先生の研究室へ入ったんです」
──米国で光免疫療法のヒントを見つけたということでしょうか。
小林「もちろん、米国へ留学した頃から具体的に今のような光免疫療法の技術を思いついていたわけではありません。ただ、できる限りがんだけ観察できる技術があれば、できる限りがんだけを殺せる可能性があるわけです。いかに特異的にがんを見せるのかがイメージングの目標でしたし、そこにたどり着けば先にはもっと可能性があるのではないかということは漠然と考えていました」
──放射線科での経験が生かされたということでしょうか。
小林「はい。例えば、放射性同位元素のヨウ素123でイメージング(画像診断)はできますが、ガンマ線なので治療はできません。けれど、同じ化学合成法を使ってそれをベータ線が出るヨウ素131に変えることによって治療に使えることになります。この発想は、研修医時代に放射線医学、核医学をやってきたから生まれたのだと思います。ただ、当時そうした治療法はヒトでも実際に行われ始めていました。ところが、なかなかうまくいきませんでした」
毒を以て毒を制すではダメ
──放射線による副作用ということですか。
小林「そうですね。放射線に弱いのは骨髄ですから、患者さんへ投与するとがんに集まる前に骨髄へヨウ素131が流れ込んでしまい、患者さんの骨髄がその放射線被曝に耐えられなくなってしまうからです。これが標的放射線治療の限界です。同じように抗体に毒素をくっつける技術がありますが、それも毒素が体外への排出経路である患者さんの腎臓や肝臓で代謝されてそこでダメージをおよぼしてしまうため、肝心のがんまで治療に十分な量が届かないということになってしまいます」
──副作用を防ぐためのご研究を始めたのでしょうか。
小林「大学院の頃、私はこうした治療法のいったい何がダメなのだろうと考えました。ヨウ素131はどうしたってベータ線を常に出すわけで患者さんにとっては毒になります。では、がんにヨウ素131をくっつけた抗体が集まる最初の2日間だけ体内にとどまらせ、その後は腎臓から体外へ排出すればいいのではと考えました。そのため、最初からビタミン(ビオチン)を抗体につけておき、後からアビジンを投与すれば、アビジンはビオチンにピタピタってくっついて肝臓に送られるのですぐさまそこで分解され、離れたヨウ素131は腎臓から尿中に排出させることができます。アビジン投与後の約6時間で患者さんの身体の中からがんに付いたもの以外のヨウ素131は全てなくなり、骨髄への被ばくをおさえることができ、結果的にがんへヨウ素131もより多く集めることができるという方法論をまとめ、学位論文にしたんです」
──大学院でのご研究を米国でも引き続き行ったということでしょうか。
小林「この学位論文をひっさげて米国へ行ったんですが、あまり興味を持たれなかった。なぜかといえば、最初の2日間はどうしても骨髄に放射線が当たってしまいますし、それを抑えたとしてもがんに届く線量が少なすぎてがんを完全にやっつけるには足りません。従来の方法よりはいいかもしれないけれど、がんを完治するのは難しいというわけです。もう一つの理由は、追っかけで投与するアビジンがニワトリの卵由来のタンパク質で、私が米国へ留学した1990年代にはまだニワトリの卵のタンパク質をヒトに投与しても安全にする技術がありませんでした。そんな危ないものはとうていヒトの身体には入れられません。この二つの理由で誰も認めてくれませんでした。実験用マウスを使った実験では、しっかり放射線治療が腫瘍への効果が出ていましたが、ヒトに対してはなかなか難しかった。やはり、どんな薬剤を使ったとしても毒物である以上、どこかで限界が生じるわけです」
──毒を以て毒を制すではダメということですか。
小林「はい。毒を使ったらダメということがわかったので、毒ではない物質を抗体にくっつけ、がんのところでだけで能動的にそれを毒にするような仕組みがないかと考えました。そうすればその薬は毒ではありませんから何度でも使えます。また、アビジンでの失敗があったので、追加の2剤目も使いたくはありませんでした。いろいろ考えた末、薬剤ではなく物理エネルギーならどうだろうか、という発想になりました」
近赤外線とIR700との出会い
──物理エネルギーというとどんなものなのでしょうか。
小林「毒でないものを毒にする化学反応を起こすためには、どんな物理エネルギーがいいのか考え、物理エネルギーの一つである光エネルギーを使うというのが光免疫療法の出発点です。そして使う薬剤は患者さんへ投与する段階では全く毒性を持たず、代謝によって身体への害が全くない状態で排出される物質ですが、光の作用によってその物質が活性化することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤がないかと考えました。そうした物質なら、いくらでも腫瘍に集め、がんを何度でも叩くことができます」
──光をあてる治療法の始まりですね。
小林「そこから光の作用に反応し、活性化する物質探しが始まりました。当てる光が毒になっては意味がありませんから、紫外線より短い波長の光(X線など)は使えません。化学反応を起こすにはエネルギーは高いほうがいいので、紫色から始まる可視光が最も良いわけです。ですが、波長の短い青や紫の光は皮膚のコラーゲンが邪魔をしてあんまり身体の奥に届きません。1ミリメートル程度、届いて2ミリメートルくらいですから、それでは治療に使えないんです。青よりもう少し長い波長の黄色や赤色の光は、ヘモグロビンが吸収してしまいます。血液が吸収したら患部へは届きません」
──そこで近赤外線に行き着いたということですね。
小林「もう少し波長の長い光は、赤色から近赤外の波長ということになります。689ナノメートルの波長は、赤色から近赤外ぎりぎり、物理学的には深赤光(しんせきこう)という光です。この近赤外Ⅰ領域の光は、生体に吸収する物質がありません。もうちょっと長い波長になるとグリルに使う遠赤外線にように水が吸収して熱になってしまいますが、近赤外の波長は水が吸収しません。そうなると、私たちが使える波長は、650ナノメートルから850ナノメートルの範囲に絞られてきますから、この範囲の光を吸収する物質を探すことになりました」
──次は近赤外線の光に反応する物質探しということでしょうか。
小林「そこまでいけば、近赤外線に反応して使える化学物質をある程度、絞ることができます。もちろん、このような理論である程度は選別しましたが、それでも目的の物質にたどり着くまでに200種類くらいの候補物質を試しています。試行錯誤が続きましたが、あるとき、知り合いの化学メーカーの担当者が700ナノメートルの波長の近赤外線を吸収するIR700という物質を売り込んできました。ちょうど日本から留学生で小川美香子さん(現・北海道大学大学院薬学研究院教授)がNIHに来ていて、彼女にIR700の実験を頼みました」
──強力なスタッフが偶然いたのですね。
小林「彼女は信頼できる大変優秀な研究者だったので本当に感謝しています。小川さんは、近赤外線をがんに照射して光る抗体薬剤を探していたんですが、何度やっても暗くしか光らずに細胞が壊れてしまうと報告してきました。私は壊れるということは治療に使えるかもしれないとピンときて、治療応用の研究にIR700を使うことを決めたのが2009年の初めごろでした。IR700は、光るには光りますけれど、あんまり強く光りません。暗くしないとわからないくらいしか光りませんが、顕微鏡で観察するとがん細胞がみるみる物理的に壊れて死んでいたんです」
がん細胞はなぜ破壊されるのか
──がん細胞が破壊されることはわかったというわけですね。
小林「IR700に近赤外線をあてると細胞が壊れて死ぬという現象は確認されましたが、どうして死ぬのか、そのメカニズムを確かめなければなりません。それに2、3年かかりました。光免疫療法のメカニズムは、細胞の自死ではなく、ネクローシス(壊死)かネクロプトーシス(制御されたネクローシス)であり、がん細胞を物理的に壊しています」
──冒頭のご説明では、光に反応したIR700が結合している抗体の形を変え、それによってがん細胞の表面に物理的に穴を開けるとのことですが。
小林「光を当てると、抗体に結合して細胞の外にくっついていた水溶性(親水性)のIR700が光化学反応によって極端な脂溶性(疎水性)になって、抗体が凝集(アグリゲート)して変形します。タンパクの疎水性の部分が疎水性になったIR700に巻き付いて、親水性の部分が外になるような変化が起きるのです。抗体に光をあてると、こうした現象がすぐに起きます。こういう細胞膜の傷が細胞膜上で起こると、がん細胞の細胞膜の機能を物理的に壊し、がん細胞のネクロプトーシスを引き起こすわけです。細胞膜の機能が破壊されるとどんな細胞も生きていけません。ですから、この現象は光化学による化学でもあり、タンパクの物性変化である物理学でもあるんです」
──無数のがん細胞の表面の無数の場所に穴を開けるわけですか。
小林「もちろん抗体が1つだけでは、がん細胞を破壊するような現象は起きにくく、数千個から1万個ほどの数の抗体がくっついて細胞膜のバリア機能を壊すわけです。1つの抗体にIR700をいくつつけるのかも問題で、抗体1つに対して2.2個から2.5個で調整しています。ランダムにつけるので、2個以上つけないとゼロ個の抗体が出てしまい、このIR700がくっついていない抗体は、むしろIR700がくっついた抗体をブロックしてしまうんです。ゼロ個をできるかぎり少なくするためには、たくさんくっつければいいわけですが、多くくっつけ過ぎると今度は生体内での挙動が変わってしまい、身体の中に長く留まることができません。そうなると薬として機能しませんから、せいぜい5個が限度ということになり、ほぼついていないものがないという現状の個数に落ち着きました」
──なぜ、がん細胞の表面にIR700が穴を開けることができるのでしょうか。
小林「光エネルギーがIR700に吸収され、活性化されたIR700のエネルギーが落ち着いてくると周囲の水に反応してIR700の枝部分を繋いでいるシリコンエーテル結合が加水分解されて2つのサイアノール(シリコール)に変わってIR700の枝部分の結合が切断され、水溶性のIR700が不溶性に変わり上記の光化学反応が起こって腫瘍細胞の細胞膜が破壊されるというメカニズムになります。抗体が腫瘍の表面にくっついて、こうした作用を起こしているというわけです。もちろん、生体内のDNAや細胞ではこうした化学反応は多く起きているわけですが、狙った反応を狙った場所だけで人為的に引き起こせたことが重要です。このメカニズムがわかったのは2013年ですが、化学的なスイッチを人為的に生体内で使うという技術はおそらく世界初だと思います」
再発を防ぐことも可能
──現状では頭頸部がんの治療、しかも再発し、従来の治療が難しいケースに限定されています。
小林「光免疫療法の特徴として、ある部位にかたまりのがんがある固形がんが適しているということもあり、患者さんに恩恵が多い領域ということでまずは頭頸部がんでの治療をターゲットにしました。頭頸部がんの患者さんの大きな患部を外科的に取ってしまえば、顔の機能性の喪失はもちろん、QOLも下がりますし、心理的にも悪影響が起きてしまいやすいですから」
──頭頸部がんの治療の実績は現状どのようになっていますか。
小林「2023年までに治療結果の論文はすでに何本か出ていて、再発頭頚部がんの患者さんの19例中18例がCR(Complete response、完全奏功、完全寛解)か30%以上がんが小さくなったPR(Partial response、部分奏功、部分寛解)、1例だけがSD(Stable disease、安定)という報告があります。2018年までの第Ⅱ相試験の米国の症例ではCRとPRが約44%でしたので、かなり良くなってきています。これまで報告されている総合評価でいえば、がんが大きくならず、ほぼ85%以上がCRかPR、SDということになります」
──臨床での治療結果は改善されているんでしょうか。
小林「はい。認可された頃の結果よりもかなり良くなっています。その理由は薬の効果が上がったのではなく、臨床の先生方の光をあてる手技が熟達した結果だと考えています。例えば、大きなサイズの腫瘍であれば、どこに当てるのか、どのへんから再発してくるのかによって結果が変わってきます。頭頸部がんの場合、辺縁部での再発が多く、近赤外線による害はありませんから、患部へ当てる際にちょっと外側まであてておこうか、というような考え方が重要なのでしょう」
──再発を防ぐために効果がある治療法なのでしょうか。
小林「既存のがん治療による細胞死は多くがアポトーシス(生物学的細胞死)なので、がん細胞の中身の核や細胞質などは残っています。光免疫療法で破壊されるがん細胞は細胞膜に穴が開いてネクロプトーシスを引き起こすわけで、細胞の内容物は放出されます。がん細胞が破壊されてこれらの中身が外へ出ると、周辺の免疫細胞がその中からがん細胞の特徴あるタンパク(抗原)を取り込んで免疫情報が免疫システムへ伝わって免疫細胞をさらに活性化させ、患者さん自身の免疫システムががん細胞をより良く攻撃するようになるんです。先ほど治療の実績で述べましたが、患者さんの多くはPRやSDで完治された方はまだ多くない。完治していただき、再発を防ぐためにも、がん細胞も攻撃し、患者さんの免疫細胞も増やし、さらに免疫細胞を活性化して、光免疫療法では壊し損ねたがん細胞や転移がんを攻撃するようにすれば再発を防ぐこともできるんです」
──それは従来のがん治療法にはない機能ですね。
小林「従来の治療法は、がんを攻撃して減らすことはできますが、患者さんの正常な細胞や免疫細胞も減らしてしまいます。オプジーボなどの免疫療法も患者さんの免疫機能を強化することはできても、がんを減らすことはできません。光免疫療法は、がんを攻撃して減らしつつ、患者さんの免疫細胞を増やして免疫機能を高めることができるんです」
将来的には他の部位のがんにも
──保険適用され、治療費用も安価になったのでしょうか。
小林「使うのは簡単な近赤外線レーザーの発生装置ですから、設備的に高額な装置が必要な治療ではありません。入院の環境や医療機関によっても変わりますが、保険適用で30万円を超えることはないと思います。高額療養費制度でカバーすると、安ければ十数万円ですむというお話も耳にしています」
──将来的には、他のがん治療にも応用できるのでしょうか。
小林「私は消化器内視鏡の専門医でもあり、胆膵内視鏡(ERCP)もやっていました。内視鏡を通して光らせるような機器で近赤外線を届けてやれば、直に光を照射できますから内視鏡経由での光免疫療法が可能だろうと考えています。また、非侵襲的な方法では、今はかなり細くなっている光ファイバー光源を血管造影でガイドワイヤーを使うように腫瘍血管内へ入れることも可能です。身体の中の血管を使えば、どんな部位にできたがんでもたどり着けます。他には、前立腺がん、肺腺がん、中皮腫、乳がん、お子さんのリンパ管腫なども将来の良い治療候補になるでしょう」
小林氏は、光免疫療法が今のように臨床で活用され、多くの患者さんを救うようになる過程には、多くの人の支援や協力などがあったという。例えば、NIHで研究をしている時に実験装置を提供してくれたピーター・チョイキ博士らNIHのPI(研究責任者)の先達たち、治験を始める頃に出会った楽天創業者であり光免疫療法によるがん治療のための楽天メディカルを立ち上げた三木谷浩史氏、2018年から研究支援をしているSBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝氏、また記事中にも登場する小川美香子氏や研究室のスタッフ、学部生から大学院までの先生方だ。
光免疫療法は現在、頭頸部がんの限定された治療のみを対象にしている。だが、治療できる医療機関は現在も増え続け、将来的には治療できるがんの種類も増えていくことが期待されている。引き続き、次回以降、光免疫療法の臨床での治療技術や患者さんの治療の実際などについて紹介する。
小林久隆(こばやし・ひさたか)
1961年、兵庫県生まれ。京都大学医学部卒業、医学博士。米国国立衛生研究所(NIH)分子イメージングプログラム主任研究員。関西医科大学光免疫医学研究所所長。第38回日本核医学会学会賞受賞(2000年)、NIH長官賞受賞(2014年)、米国国立がん研究所(NCI)長官個人表彰(2017年)など。
※:Makoto Mitsunaga, et al., "Cancer cell-selective in vivo near infrared photoimmunotherapy targeting specific membrane molecules" nature medicine, 17, 1685-1691, 6, November, 2011