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初夏の夜空を「イエローグリーン」に染め上げる「禁煙と受動喫煙防止キャンペーン」とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
世界禁煙デーのイエローグリーン・キャンペーンのライトアップ、イメージ。東京都より

 毎年5月31日は世界禁煙デー(World No Tobacco Day、ワールド・ノー・タバコ・デー)だ。それにともない日本では5月31日から6月6日の1週間が禁煙週間になっている。2024年5月31日の前後には、日本中の夜空がイエローグリーンにライトアップされる予定だ。これは、世界禁煙デーにともなう禁煙と受動喫煙防止のためのキャンペーン。なぜイエローグリーンなのだろうか。

東京都でも初めてライトアップ・キャンペーンが

 がんなどの病気に関する啓発キャンペーンでは、様々な色やリボン運動が策定されている。乳がんはピンク、白血病はオレンジ、腎臓がんはグリーン、肝臓がんはエメラルドグリーン、脳腫瘍はグレー、肺がんはホワイト、前立腺がんはライトブルー、エイズはレッドなどで、その色のリボンを作ってキャンペーンを行っている。

 喫煙や受動喫煙などによるタバコ関連疾患の予防のため、2002年に長崎県佐世保市がイエローグリーンの色を策定し、禁煙と受動喫煙防止のキャンペーンを始めた。その後、紆余曲折がありつつ、日本でのタバコ問題に関する色はイエローグリーンとなり、2015年頃から京都、埼玉、滋賀など各地の代表的な建造物などをイエローグリーンにライトアップするキャンペーンも行われるようになる。

2023年5月28日から6月6日まで香川県高松市の高松シンボルタワー、オリーブタワーがイエローグリーンにライトアップされた。写真撮影筆者
2023年5月28日から6月6日まで香川県高松市の高松シンボルタワー、オリーブタワーがイエローグリーンにライトアップされた。写真撮影筆者

 2024年は、東京都と東京都医師会が初めて禁煙や受動喫煙対策について考えるイエローグリーン・ライトアップ・キャンペーンを実施する予定だ。東京都庁第一本庁舎、東京スカイツリー、隅田川の橋梁などをライトアップする。東京都によると、特に飲食店で受動喫煙を受けた割合が増えているという。

 5月31日から6月6日までの禁煙週間に合わせ、都内各地(競馬・競輪・競艇場を含む)のデジタルサイネージで禁煙啓発動画を配信し、都庁第一本庁舎1階の中央展示ブースでは喫煙の健康被害などを説明したポスターなどの展示を行う。

 また、東京都医師会は、5月31日に禁煙推進企業コンソーシアムと共催で「2024年、世界禁煙デーイベント」を開催する予定だ。日本禁煙学会では、イエローグリーン・キャンペーンのフォト・コンテストも実施している。

東京都のライトアップの場所と期間。東京都サイトより
東京都のライトアップの場所と期間。東京都サイトより

タバコ産業から子どもたちを守る

 世界禁煙デー(World No Tobacco Day)は、WHO(世界保健機関)が1988年から続けているタバコ問題の啓発キャンペーンだ。昨年2023年のテーマは「タバコではなく食べ物を」、2022年のテーマは「タバコは環境への脅威」だった。

 WHOの掲げる2024年のテーマは「タバコ産業から子どもたちを守る」。タバコの健康への害、ニコチン依存症の恐ろしさ、受動喫煙などについて、若い世代にも正しい知識を伝えていく大切さを訴えている。

 タバコ広告と子どもや若い世代の喫煙開始には、強い因果関係がある(※1)。また、タバコの宣伝活動費とタバコ消費量の間には正の相関関係、つまり宣伝が活発化するとタバコの消費量が増え、宣伝活動費が10%増加するとタバコの消費量は0.6%増加する(※2)。

 こうしたことから2024年の世界禁煙デーのテーマは「タバコ産業から子どもたちを守る」ということになった。このタバコ産業とは何だろう。日本の企業ではJT(日本たばこ産業株式会社)、海外ではフィリップ・モリス、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、中国タバコ総公司などがタバコ産業に含まれる。

 キャンペーンでは、タバコ産業によるソーシャルメディアへの広告やインフルエンサーを利用したマーケティングを禁止すべきとしている。加熱式タバコを含むニコチン・デリバリー・システムのスポンサーを受けないよう求め、映画・テレビ・オンライン放送の制作者に対しては、タバコや電子タバコなどを吸っているシーンを描かないよう呼びかけている。

WHOの世界禁煙デー(World No Tobacco Day)サイトより
WHOの世界禁煙デー(World No Tobacco Day)サイトより

 タバコを吸ったことのある人ならわかるだろうが、タバコは最初の頃、苦くて煙くて不味くてとても吸えたものではない。甘い味付けは子どもがタバコを吸いやすくするためのものだし、メンソールはニコチン依存症を強める働きがある。そのため、WHOは子ども向けの味付け、メンソールや甘いフレーバーなどのタバコ製品についても規制するよう求めている。

 タバコ広告と子どもや若い世代の喫煙開始には強い因果関係があるが、タバコの広告と同時に禁煙の広告を見た場合、喫煙に対する否定的な感情が表れてくるという研究もある。この研究によれば、禁煙の広告は、喫煙する仲間に対する否定につながり、タバコを吸う行動を抑制したという(※3)。

 加熱式タバコなどの新型タバコにより、若い世代が気軽に喫煙を始める危険性が高まっている。実際、未成年者の喫煙率上昇を危惧する声も聴かれる。

 タバコ会社は未成年者の喫煙を防止するキャンペーンをすることがあるが、絶対に「タバコを吸うな」とはいわない(※4)。世界禁煙デーのテーマにもあるが、タバコ会社は虎視眈々と新しい喫煙者を増やそうとしているのだ。

※1-1:John P. Pierce, et al., "Tobacco Industry Promotion of Cigarettes and Adolescent Smoking" JAMA, Vol.279(7), 511-515, 1998
※1-2:Joseph R. DiFranza, et al., "Tobacco Promotion and the Initiation of Tobacco Use: Assessing the Evidence for Causality" PEDIATRICS, Vol.117(6), e1237-e1248, 2006
※2:Andrews L. Rick, George R. Franke, "The Determinants of Cigarette Consumption: A Meta-Analysis" Journal of Public Policy & Marketing, Vol.10(1), 81-100, 1991
※3:Cornelia Pechmann, Susan J. Knight, "An Experimental Investigation of the Joint Effects of Advertising and Peers on Adolescents' Beliefs and Intentions about Cigarette Consumption." Journal of Consumer Research, Vol.29, Issue1, 5-19, 2002
※4:Anne Landman, et al., "Tobacco Industry Youth Smoking Prevention Programs: Protecting the Industry and Hurting Tobacco Control." AJPH, Vol.92, No.6, 2002

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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