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「トークショーしてるの? それとも真面目な話?」プーチン氏、インタビューにきた米・元看板司会者を蔑む

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
プーチン氏に単独インタビューするタッカー・カールソン氏。(写真:ロイター/アフロ)

 西側メディアのインタビューを滅多に受けないプーチン氏が、2月6日、ウクライナ侵攻後初めて米メディアのインタビューを受け、注目されている。モスクワを訪問して2時間以上にわたる単独インタビューを行ったのは、FOXニュースの元看板司会者タッカー・カールソン氏。カールソン氏は昨年4月、Foxニュースをクビになった後、” タッカー・カールソン・ネットワーク”というウェブサイトを立ち上げてニュースを発信している。

一方通行だったインタビュー

 放送前から注目されていたカールソン氏のインタビューは、2月8日に米国で公開されたが、その内容について、米メディアや識者は辛辣に批判している。それはまるで、プーチン氏がウクライナ侵攻の正当性を含め、自身の主張を展開することに終始する退屈な内容だったからだ。「インタビューは一方通行だった。カールソン氏が与えたテーマについて、プーチン氏が話すものだった」とロシア文化と戦争プロパガンダを研究している歴史家のイアン・ガーナー氏は話している。

 実際、そのインタビューは、最初の約30分は、プーチン氏がウクライナ侵攻に至るまでのロシアの歴史を事実というよりも自身の視点から説き、カールソン氏がそれをまるで大学の講義でも受けているかのように熱心に聞き続けるというものだった。

 NBCテレビ系列のケーブル放送MSNBCのコラムニストのフランク・フィグリウージ氏は「カールソン氏はプーチン大統領がまさに望んでいるものを与えた」という皮肉なタイトルで、「プーチン氏は元KGBだ。望んでいる結果を得るために、イベントを操作したり搾取したりする達人だ」と、カールソン氏はプーチン氏からうまいように操作されたと批判している。

 また、フィグリウージ氏は「本物のジャーナリストは権力者に厳しい質問をするものだ。ミスリードされたり間違った情報が言及されたりたら、意を唱えるものだ」とカールソン氏がプーチン氏の話す内容に対しておかしいとチャレンジしなかったことも非難している。

カールソン氏は“役に立つバカ”?

 そもそも、プーチン氏はなぜ、カールソン氏のインタビューを受け入れたのか? ロシア側はその理由について同氏が「西側諸国とは違う立ち位置にいる」と述べている。確かに、カールソン氏は、西側諸国の多くのメディアと違い、ロシア寄りの姿勢を示し、バイデン政権はウクライナに武器や弾薬を供与し続けてウクライナ侵攻を引きのばしていると批判してきた。

 しかし、前述のフィグリウージ氏は、プーチン氏がインタビューを受けたのにはまた別の理由があると以下のような見方を示している。

「プーチン氏はカールソン氏をジャーナリストとして認識していないから、カールソン氏を(インタビュワーに)選んだのだ。 彼は“役に立つバカ(useful idiot)”だ。これは簡単に操作されたり搾取されたりしやすい人々を表現するのによく使われるフレーズだ」

 ちなみに、“役に立つバカ”とは政治用語で、“良い活動をしていると無邪気に信じて実際にはそれと気付かずに悪事に荷担している者、プロパガンダに利用されている者をさす言葉。軽蔑表現”とweblioでは説明されている。

  つまり、プーチン氏は元トークショーの司会者だったカールソン氏をジャーナリストとはみなしておらず、自分の主張をそのまま米国民に伝えるよう操作可能な、プロパガンダのために利用できる人物だとみなしたから、インタビューを受けたのではないかというのである。同様の見方を、ヒラリー・クリントン氏も同じMSNBCでしている。ベテランジャーナリストのクリス・ウォレス氏に至っては、インタビュー中のカールソン氏はまるで「子犬」のように振る舞っていたと述べ、「彼を“役に立つバカ”と呼ぶには“役に立つバカ”に対して不公平だ」とまで断罪した。

 確かに、プーチン氏はカールソン氏を“役に立つバカ”と見なしていたのかもしれない。インタビューの冒頭、そう感じさせる一幕があった。プーチン氏はカールソン氏に「我々はトークショーをしてるの? それとも真面目な話?」と冗談を飛ばしてみせたからだ。これは、「米国が北大西洋条約機構(NATO)を通じてロシアに“奇襲攻撃”を開始する可能性があると思うとなぜ以前述べたのか?」というカールソン氏の質問に対して「そんなことは言っていない」と否定した後に続けた発言だが、この一言には、フィグリウージ氏が指摘したように、プーチン氏がカールソン氏をリアルなジャーナリストとは見なしていない軽視が表れているように見える。実際、この発言について、“プーチン氏はカールソン氏を蔑んだ”と報じるメディアもある。

プーチン氏とトランプ氏の主張は一致

 同時に、プーチン氏はカールソン氏の背後に、ロシア寄りの姿勢を示してきたトランプ氏の存在を見たのかもしれない。カールソン氏は昨年11月、トランプ氏から「副大統領候補として検討する」と言われたほどトランプ氏とは近い関係からだ。カールソン氏のインタビューを受けた理由として、ウクライナに軍事支援し続けている米の政策や今回の大統領選に影響を与えたいとするプーチン氏の思惑が垣間見える。

 実際、プーチン氏とトランプ氏の主張は一致しているという見方もある。インタビューの中でプーチン氏は「米国がウクライナへの武器供与を止めれば、戦争は数週間で終結する」と述べたが、政治アナリストのマリア・ゾルキナ氏はフェイスブックへの投稿で「ロシアへの譲歩によって戦争は終結する可能性があるという(プーチン氏の)主張は、トランプ氏の主張とぴったり一致する」と述べている。トランプ氏も米国がウクライナを軍事支援し続けることに反対しているからだ。プーチン氏としては、ウクライナ対応で同じ方向を向いているトランプ氏に大統領に返り咲いて欲しいところだろう。

 カールソン氏のインタビューにも狙いがあると思われる。保守系公共政策シンクタンクのフーバー研究所特別研究員のセルゲイ・サノヴィッチ氏はそれについて、CBC Newsでこう指摘している。

「カールソン氏がインタビューした動機は明らかだ。彼はトランプ氏がホワイトハウスに返り咲く準備をしているのだ」

 カールソン氏による“プーチン氏のプロパガンダを伝えるインタビュー”は、プーチン氏とトランプ氏の共通の目的に資する“提灯インタビュー”以外の何ものでもなかったようだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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