Yahoo!ニュース

「世界の公衆衛生よりも金が物言う東京五輪は中止すべき」米NBCで森氏“即時辞任”を求めた専門家に聞く

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 オリンピック精神に反する“女性蔑視発言”が、IOC(国際オリンピック委員会)からも“絶対に不適切”と断罪されてしまった東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長。“女性蔑視発言”に先立ち、同氏がした「私たちはコロナがどういう形であろうと必ずやる」という発言も疑問視されていたが、果たして、東京オリンピックは必ず開催されることになるのだろうか?

 そんな疑問を抱いている筆者の元に、今朝、「オリンピック秘史 120年の覇権と利権」の著者で、オリンピック問題に詳しいオレゴン州のパシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏から、「NBCに寄稿して、森氏の即時辞任を求めた」と伝えるメールが送られてきた。

 ボイコフ氏が2月11日、米NBCの公式サイトに寄稿したのは「東京オリンピックトップの森氏、性差別で大坂なおみなどから非難を受ける。彼は去らなければならない」と題する意見記事だ。この記事の中で、同氏は森氏は辞任すべきだと訴えるとともに、森氏の性差別発言は、性差別が行われてきた長いオリンピックの歴史の中で起きたものだと説明している。東京五輪の放映権を持つ米NBCの公式サイトで、同氏の意見記事が掲載された意味は大きい。

 ボイコフ氏は東京オリンピック開催についてどう考えているのか、先回のインタビュー(「森氏の謝罪は形だけ。オリンピックの創始者も正真正銘の女性差別主義者だった」米五輪専門家に聞く)に続き、同氏に話を伺った。

ーー東京オリンピックはスケジュール通りに行われると思いますか?

 微妙なところではないかと思います。世界的パンデミックの真っ只中にいるからです。しかし、日本のオーガナイザーもIOC(世界オリンピック委員会)も、東京オリンピックを行いたいという強いインセンティブを持っています。東京のオーガナイザーはプライドがかかっているし、それに、当初予定されていた東京オリンピックにかかる費用は4倍以上に膨み、何ビリオンドルものお金が投入されてしまいました。

 また、IOCの側からすれば、夏季オリンピックはドル箱、彼らの最大の資金源です。IOCは収益の73%を放送局から、18%をスポンサー企業から得ています。スポンサー企業もリアルなインセンティブを持っています。スポンサー企業は、少なくとも、テレビで東京オリンピックを放送することができるでしょうから。

 東京オリンピックは、新型コロナ感染を避けたい日本の人々の健康にとって最善の結果にはならないわけですが、IOCの銀行口座を確実に潤わせることにはなるのです。

ーー結局はお金の問題ということですね。

 IOCが東京オリンピックを7月と8月にリスケしたのにも理由があります。その時期は日本の天候がいいからではありません。危険なほど暑いし、湿度も高い。7月、8月が放送局にとってパーフェクトなタイムフレームだからです。他のスポーツの試合があまり行われてない時期ですからね。

 金が物を言っているのです。特に、東京オリンピックの場合、非常に金が物を言っており、公衆衛生に対する人々の懸念がかき消されてしまっている状況があると思います。

ーー現在の新型コロナの感染状況は東京オリンピックにどんな影響を与えると思いますか? 東京オリンピックは中止すべきだと思いますか?

 昨年、新型コロナは信じられないほど恐ろしい脅威であることが証明されました。世界中からアスリートや観戦客が集まるので、東京オリンピックは、ディストピアになるような新型コロナのホットゾーンを生み出すかもしれません。

 “世界の公衆衛生”を考えると、私は、今も、東京オリンピックを中止することが最も賢明な方針だと考えています。東京オリンピックを開催すれば、危険な巨大ペトリ皿(シャーレ)が生まれる可能性があります。“世界の公衆衛生”のためにも、東京オリンピックを中止すべきです。

 中止を主張しているのは私だけではありません。世界や日本の伝染病学者も、新型コロナという状況下でのオリンピック開催に強く疑問の声をあげています。日本の国民も80%が中止か再延期を望んでいますよね。

ーー世界的にワクチンの供給が遅れています。日本はワクチンの接種を始めてさえいません。東京オリンピックへの影響が懸念されます。

 世界の人々がワクチン接種を受けることが、平常に戻る重要な要素です。ワクチンを公平に供給するという理想を実現することは残念ながら難しいですが、たとえそれが実現できたとしても、東京オリンピックまでに世界中の人々にワクチンを接種するのは不可能です。

 日本が夏までにみなにワクチン接種できない状況があるなら、それは良いニュースではありません。東京オリンピックを開催したら、ワクチン接種を受けていないアスリートやスタッフがほぼ確実に出てくることになるでしょう。

ーーアスリートには4日に1回、新型コロナ検査を行うという指針が出されましたが、どう思われますか?

 私にとって大きな疑問は、IOCが、アスリートたちに対し、オリンピック開催中に新型コロナに感染したとても法的手段には出ないという書面に署名させるのかどうか、ということです。

 新型コロナ問題に追い打ちをかけるように、森氏の“女性蔑視発言”問題も起き、暗雲が垂れ込める東京オリンピックは果たして開催されるのか? 開催していいのだろうか?

(関連記事)

「森氏の謝罪は形だけ。オリンピックの創始者も正真正銘の女性差別主義者だった」米五輪専門家に聞く

“日本の恥”を世界に晒した森氏“女性蔑視発言”の真実 エイズ患者やアメリカ侮辱の過去発言も 米報道

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事