Yahoo!ニュース

“日本の恥”を世界に晒した森氏“女性蔑視発言”の真実 エイズ患者やアメリカ侮辱の過去発言も 米報道

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 世界に大恥を晒した、大会組織委員会会長・森喜朗氏の“女性蔑視発言”。 

 日本人男性の“女性云々発言”を耳にする度に、「いつまでも変わらない日本」とため息をつきたくなる。

 森会長としては、おそらく、“女性蔑視発言”をしているという認識はなかったのだろう。「女性はより多く話すものだ」という固定観念が昔から染みついていたのではないだろうか? 

 しかし、「世界の目」からすれば、あの発言はどこからどう見ても“男尊女卑”としか言いようがない。森会長の発言は、いつまで経っても“男尊女卑文化”から脱することができないという“日本の恥”を世界に晒してしまった。

 今回の件に限らず、海外メディアは、日本で女性差別的な言動や男尊女卑的な言動が問題になるとこぞって取り上げる傾向がある。そしてその度に、“旧態然とした変わらない日本”の姿が世界に露呈されることとなる。日本はその現実をもっと直視すべきではないか。

エイズ患者やアメリカ侮辱発言も

 海外メディアの報道を見ると、米紙ワシントンポストは今回の“女性蔑視発言”だけではなく、森会長の過去の問題発言も掘り起こしている。そこからは、エイズ患者差別やアメリカに対する偏見が見えてくる。

 例えば、2000年1月、森会長はエイズに関するジョークを交えながら1969年に行った同氏の最初の選挙活動を思い出し、こう発言したとしている。「車の中から農夫たちに挨拶すると、彼らはみな家の中に入ってしまった。エイズが来ちゃったみたいに思われた」。エイズ患者を差別する発言だ。

 また、同じ2000年、森会長がY2Kのバグ対策をしているアメリカについて話した際、「停電の時は人殺しがいつも現れる。そんなタイプの社会だ」と言ってアメリカを侮辱したことも紹介している。

 森会長は昨日、“女性蔑視発言”について謝罪したものの、ワシントンポストは、その様子からは「反省の色がはっきりと見えなかった」と酷評した。

女性は男性より多く話すのか?

 ところで、女性の話が長いことに言及した森会長だが、果たして、本当のところ、どうなのか? 

 それについて、いくつかのメディアが様々な研究を参照しながら、男性の方が女性よりもより多く話すと検証していることが興味深い。

 例えば marketwatch.comは、コミュニケーション研究家の話を参照し、会議中は男性の方が女性よりもより頻繁に話し、また、より長い時間話すと指摘している。実際、女性の最も長いコメントは男性の最も短いコメントよりも短かったことが、7つの会議を調査した結果わかっているという。

 また、ブルームバーグが2017年に行った研究で、19年間に行われた電話会議15万5千件を分析したところ、会議の92%の時間を男性が話していたという。

 また、女性が会議で話す時は、女性は男性よりも頻繁に話に割り込まれる傾向があることも指摘されている。1970年以降に行われた、ジェンダーの会話パターンの違いの研究によると、男性の方がより多く人の話に割り込む傾向にあり、男性は女性の話に最も多く割り込んでいるという。

 その例として、昨年10月に行われた副大統領候補討論会で、カマラ・ハリス氏が話していた最中に、ペンス氏が何度も割り込んできた事実をあげている。ハリス氏はその時、賢明にも「私が話しています」と言ってペンス氏をたしなめ、毅然としたその態度は称賛された。

多くの研究が男性の方がより多く話すことを証明

 また、フォーブス誌はスタンフォード大学が行った研究結果を紹介しているが、男性と女性ではどちらがより多く話すかについて行われた56の研究中、34の研究で男性の方が女性よりもより多く話すことが証明されており、女性の方が男性よりもより多く話すことが証明された研究は2つしかなかったという。

 この研究は誰がより多く話すかはジェンダーよりもステイタスと関係があり、より多く話す人は、通常、より高いステイタスにあると結論づけている。仕事では、より高いステイタスにあるのは男性の傾向がある。

 同誌は、女性5人、男性19人のオリンピック委員会の会議では男性の方がステイタスが高いため、より多く話している可能性があるとしている。

 また、森会長の「女性は競争意識が高い」という指摘も間違っているようだ。スタンフォード大学のリサーチによると、男性の方がより競争意識が高く、競争している時に彼らのパフォーマンスが高まるという。

森会長に限った見方ではない

 ところで、女性の方が男性よりもより多く話すというステレオタイプな間違った見方をするのは森会長に限ったことではないようだ。

 同誌によると、教師も間違った見方をしていることを示す研究結果もあるという。授業では、男子生徒の方が女子生徒よりより多く話す傾向があるものの、教師にどちらがより多く話すかと聞くと、女子生徒の方がより多く話していると答えたというのだ。

 女性の方がより多く話すという間違った固定観念が社会の中にあるなら、それを払拭していく必要があるだろう。

 そのためには、男性は女性に発言の機会をより多く与えるよう努めるべきではないか。また、女性の側も、男性が話し過ぎていると感じたり、男性に話に割り込まれたりした時は、ハリス氏のように声をあげて男性にそれに気づかせる姿勢も重要かもしれない。

 男女格差を測る世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数」の日本のランキングを見ると、2018年は110位だったが、2019年、2020年はいずれも153カ国中121位と低ランキングが続いている。菅首相は情けないこの状況にどう対処していくのか?

(女性差別関連の記事)

女性従業員に対する日本の「メガネ禁止令」海外メディアは女性差別にビックリ! アメリカなら訴訟に発展 

世界も見守る新天皇陛下“即位の礼” 「新皇后雅子さまのご参列は許されず」米紙が一石を投じる

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事