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郵便投票の消印が改ざんされた?=宣誓供述書 トランプ、内部告発者を「勇敢な愛国者」と賞賛 米大統領選

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
不正を内部告発した「勇敢な愛国者」を讃えたトランプ氏の大統領選は今も続いている。(写真:ロイター/アフロ)

 「不正投票」が行われたと訴え続けるトランプ氏。同氏の中では、大統領選は今も終わっていない。

 11月10日には、こんなツイートをした。

「勇敢な愛国者だ。ますます多くの人々が選挙の不正を暴露しようと名乗りをあげている」

 トランプ氏が「勇敢な愛国者」と讃えたのは、郵便局で働く、元海軍兵のリチャード・ホプキンス氏(上の動画の男性)だ。ホプキンス氏は、5日、同氏が働くペンシルベニア州エリーの郵便局で不正が行われていたと、プロジェクト・ヴェリタスというグループを通じて告発していた。

 プロジェクト・ヴェリタスはメディアの偏見報道や腐敗を明るみに出そうとしている極右活動家グループだが、彼らは誤情報拡散活動を行っている可能性があるとも指摘されている。

消印が改ざんされたと主張

 さて、そのホプキンス氏は「郵便局長のロバート・ワイゼンバッハ氏がスーパーバイザーの1人に、11月3日午後8時の締め切り以降に届いた郵便投票にも投票日の消印を押したと話すのを聞いた」と訴えている。

 ペンシルベニア州では投票日11月3日の午後8時以降の消印の郵便投票は無効としているので、もしホプキンス氏の訴えが事実なら、郵便局は違法行為をしていたことになる。

 ホプキンス氏は11月6日、プロジェクト・ヴェリタスを通じて宣誓供述書を公表したが、それには主に2つの主張がされている。

・11月5日、ホプキンス氏が郵便配達の準備をしていた時、郵便局長がスーパーバイザーに、11月4日に届いた郵便投票を、1つを除いて、11月3日の消印にしたと話していた。郵便局長は、郵便投票(11月4日に届いたものだった)の1つは11月3日の消印にする必要があったのに、間違えて11月4日の消印にしてしまったと話していた。

・ワインバッハ氏と彼のアシスタントは、私と私の同僚に、11月3日の締め切り時刻以降の消印がついている郵便投票も11月6日までピックアップし、それらを渡すよう命じた。消印を有効な日時に改ざんするためではないか。

 これに対し、ワイゼンバッハ氏は、フェイスブックで、ホプキンス氏の訴えは「100%誤りだ」と否定。

 しかし、共和党側は、宣誓供述書のホプキンス氏の訴えは信頼にたるものだと考えており、トランプ陣営は、宣誓供述書を上院司法委員会のリンジー・グラハム委員長に渡し、8日、グラハム氏は司法省とFBIに調査を始めるよう依頼した。

訴えの撤回を否定

 ところが、10日になって、ホプキンス氏が訴えを撤回したとの報道が流れた。

 ホプキンス氏は郵便局監察総監室の調査員の尋問を受けたが、その際に、ホプキンス氏が自身の訴えを撤回したと下院監視・政府改革委員会が報告、米紙ワシントン・ポストがそのことを報じたのだ。

 しかし、この報道に対し、ホプキンス氏の方は訴えを「撤回していない」とツイッター動画で反論。

「私は、今、この瞬間、ワシントン・ポストの記事を見ている。記事は、私が票の改ざん疑惑をでっち上げたとしている。私はここで言いたい。私は訴えを撤回しなかった。ワシントン・ポストは記事を撤回してほしい」

 ホプキンス氏が訴えを撤回していないのなら、いったい何が起きたのか?

 プロジェクト・ヴェリタスによると、3時間以上に及んだ尋問の中で、調査員がホプキンス氏に訴えを撤回する供述書に署名するよう強要したという。また、同氏は、尋問される際に、弁護士を同席させることが許されず、署名した供述書のコピーも渡されなかったという。11日には、調査員がホプキンス氏に尋問する音声も公表された。

 実名で内部告発したホプキンス氏はトランプ支持者から「アメリカのヒーロー」と讃えられており、ホプキンス氏の名前で作られたクラウド・ファンディング「ゴー・ファンド・ミー」のページには10日夜時点までに13万6,000ドル以上の寄付が集まった。しかし、撤回報道が出ると、「ゴー・ファンド・ミー」側によりページは削除された。

 プロジェクト・ヴェリタスは、ペンシルベニア州での不正選挙に関する一次情報に対して2万5千ドルの報奨金をオファーしており、ホプキンス氏のような告発者探しに躍起になっている。トランプ氏が言うところの「勇敢な愛国者」が今後も内部告発に乗り出すのか。

 しかし、投票日以降に届いた郵便投票をすべて無効としたところで、バイデン氏との票差を覆すことはできないという指摘もある。

 ペンシルベニア州では、投票締め切りの11月3日午後8時から6日の夕方まで、約1万の郵便投票が届いたが、それを全部無効化したところで、4万7,000票以上もあいたバイデン氏との票差を縮めることができないからだ。

 選挙の不正を告発する「勇敢な愛国者」を頼みの綱にしているトランプ氏。勝利奪還のための闘いはこれからも続く。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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