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「そこには愛があるから」 バイデン氏勝利! 米大統領選の勝敗を分けたものは何だったのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
バイデン氏の勝利に歓喜する人々。(写真:ロイター/アフロ)

 ジョー・バイデン氏が激戦州ペンシルベニア州で勝利し、過半数の選挙人数を獲得、米大統領選を勝ち取った。さらには、ネバダ州でも続けて勝利、11月7日午前11時半現在(米国西海岸時間)、279人の選挙人数を獲得してトランプ氏との差を広げている。

 米国史上最多の1億6,000万人を超える有権者が投票したとされる歴史的大統領選、その勝敗を分けたものは何だったのか?

コロナ禍の郵便投票

 物理的には、コロナ禍、郵便投票が実施されたことが大きな要因だろう。多くの支持者が不在者投票や郵便投票を行い、州の中には、有権者に自動的に投票用紙を送ったところもある。

 この郵便投票に対する姿勢が、トランプ氏とバイデン氏とでは違っていた。バイデン氏は感染予防のために郵便投票を推奨する一方、トランプ氏は投票日に投票所で投票することを推奨した。

 郵便投票を受け取り、票を開票するまでには時間を要する。海外に駐留している米軍の兵士や海外在住者から送られてくる郵便投票もあるため、開票には時間がかかるし、今もまだ開票されていない郵便投票も数多い。そのため、投票所で投票された票から先に、両者の獲得数が判明することになる。

 共和党支持者は元々、投票所に出向いて投票する人々が多かったし、トランプ氏もそれを推奨していた。そのため、開票開始直後は、トランプ氏の票が大きくのび、当初はトランプ氏再選かと思われた。トランプ氏も勝手に時期尚早な「勝利宣言」をして批判を買った。

 しかし、郵便投票が開票され始めると、勝利の女神はじょじょにバイデン氏の方を向き始める。2016年の大統領選でヒラリー・クリントン氏が落とした「ラストベルト」のウィスコンシン州やミシガン州でバイデン氏が逆転勝利したことで、勝敗の潮目が変わった。

 郵便投票をするのは、都市や都市近郊に住む民主党支持者が多い。地域によっては、郵便投票した有権者のうち70〜80%が民主党支持者という郡もある。ペンシルベニア州では、フィラデルフィア郡から来た郵便投票の80%以上をバイデン氏が獲得したことが大逆転につながった。

 民主党を支持する若者たちは投票所に投票に行かない傾向があるという問題も以前から指摘されていた。そのために、マイケル・ムーア監督は民主党を支持する若者たちに向けて「投票所に行こう」と呼びかけていたわけだが、今回、彼らは投票所に行かずとも郵便投票で投票をすることができたわけである。これもまた、バイデン氏の得票に貢献したことは言うまでもない。

 さて、バイデン氏が逆転勝利し始めた状況に慌てたのだろう、トランプ氏は記者会見を開き、何の根拠も示すことなく不正投票が行われていると主張、メディアはそんなトランプ氏にあきれ返った。

 CNNの名キャスター、アンダーソン・クーパー氏は、トランプ氏はアメリカの恥と言わんばかりにこう言い放った。

「彼(トランプ氏のこと)は暑い日差しの中でもがいている“太った亀”のようだ。自分の時代が終わったことがわかったのだろう。しかし、彼はその現実を受け入れていない。そして、この国を含めて、すべての人々を貶めようとしている」

 郵便投票の開票はさらに進んだ。それにより、当初、トランプ氏に何十万票もリードされていたジョージア州やペンシルベニア州でもバイデン氏は逆転勝利、過半数の270票を獲得した。それだけ、郵便投票の力は大きかったのだ。

 しかし、郵便投票という方法を可能にし、有権者を郵便投票へと向かわせたのは新型コロナウイルスの感染拡大である。11月4日、アメリカの新規感染者数は1日10万人を超えた。

経済政策か人格か

 新型コロナウイルスが発生しなければ、おそらくトランプ氏は再選していたのではないかと思う。アメリカ人が投票の決め手にしている最大のファクターは「経済」だからだ。新型コロナウイルス発生までは、アメリカ経済は好調だった。失業率も低かった。

 トランプ氏自身、海外に奪われた雇用を米国内に取り戻すという経済政策を大きな売りにして、2016年の大統領選に当選したが、コロナ禍にあっても、経済優先の立場を取り続けた。

 そんなトランプ氏を支持する人々も、CNNの出口調査によると、60%以上の人々が同氏に投票した理由として「経済問題」と回答していた。圧倒的に多くのトランプ支持者が、同氏の「経済政策」を評価していたのだ。それに対し、「新型コロナウイルス問題」をトランプ氏に投票した理由と回答した人々は5%しかいなかった。

 また、トランプ氏支持者の中で同氏の人格を重視して投票したと回答した人々はわずか15%、大多数が同氏の政策を投票の決め手にしていたのである。その中でも決め手としていたのが「経済政策」だったのだ。

 一方、バイデン氏支持者の場合、同氏に投票した理由として指摘している問題にはばらつきがあった。「人種的平等」が36%、「新型コロナウイルス問題」が27%、「医療問題」が13%、「経済問題」が11%、「犯罪と安全」が6%だった。

 トランプ氏支持者と比べた場合、「経済問題」をバイデン氏に投票した理由としているバイデン氏支持者はわずか11%とトランプ氏支持者の約6分の1しかおらず、反対に、「新型コロナウイルス問題」をバイデン氏に投票した理由と回答したバイデン氏支持者は27%とトランプ氏支持者の5倍以上もいた。

 また、バイデン氏支持者の場合、同氏の人格を重視して投票したと回答した人々は30%とトランプ氏の倍もいた。

 経済政策か人格か? その選択を迫られた米国民は、結果的に後者を選んだということではないか。

 金があるから人が生きられるのか、それとも、人がいるから金が生まれるのか?

 答えは明白だったのかもしれない。

 11月3日の投開票日、ドジャース球場の投票所で、大統領選で初投票したというエルサルバドル人移民のローラさんと出会った。ローラさんの言葉が思い出される。

「トランプ氏は政党の違いや政策の違いを超えた大きな問題を抱えています。それは人間性という問題です。トランプ氏は自分のことしか考えていません。一方、バイデン氏は国民の気持ちを、痛みを、わかってくれています。そこには愛があるから」

 バイデン氏の下、アメリカの新時代が始まる。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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