Yahoo!ニュース

2018年、トランプ氏が直面する二つの戦争 米朝は“パンドラの箱”を開け、米中は貿易戦争に突入か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
休暇を終えてワシントンに戻ったトランプ大統領を待つ“戦争”という課題。(写真:ロイター/アフロ)

 間もなく、就任一年目を終えようとしているトランプ大統領は、内政、外政とも、様々な課題を抱えている。外政では、2018年、二つの戦争に直面することになるかもしれない。一つは北朝鮮との戦い、もう一つは中国との戦いだ。

“北朝鮮の核”と共存できなければ戦争か

 

 アメリカのメディアの多くは、2018年のトランプ大統領の外交政策の最重要課題として、北朝鮮危機をあげている。焦点は、米朝が軍事行動に踏み切るかどうかだ。金正恩氏は核開発継続の意思を表明し、「核ボタンは常に机の上にある」と挑発した。9日に決まった南北会談が朝鮮半島の緊張緩和に結びつくといいが、非核化ということでは、先の記事北朝鮮の非核化は困難! トランプ大統領に残された北朝鮮危機の解決策とは?で記した通り、金正恩政権が崩壊しない限り、北朝鮮は非核化しない可能性が高い。

 ワシントンDCにあるシンクタンク「センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト」の防衛研究ディレクター、ハリー・カジアニス氏は、政治専門誌「ワシントン・エグザミナー」のインタビューで、

「トランプ政権には二つの選択肢しかありません。北朝鮮を核保有国として受け入れて封じ込めをするか、戦争かのどちらかです」

と明言した上で、

「韓国でオリンピックが開催されるため、トランプ政権は、ここ数ヶ月は、軍事行動を起こさないでしょうが、2018年後半、アメリカは北朝鮮との戦争は避けられないと決断するかもしれません。最終的には、トランプ政権が、アメリカを攻撃する能力がある核兵器を有す北朝鮮と共存できるかどうかにかかっています。トランプ政権が、“北朝鮮の核”とは共存できないと判断すれば、戦争ということになります。その場合は、“パンドラの箱”が開くことになるのです」

と警告している。

 昨年12月、トランプ大統領は、北朝鮮の電磁波攻撃の脅威について報告を受けたという。2018年後半、米朝は戦争への道を突き進むのか?

中国に失望したトランプ大統領

 もう一つ、トランプ大統領が直面している戦いは、中国との“貿易戦争”だ。トランプ大統領は、訪中の際は、中国を「金融操作国」とは名指しせず、習国家主席との蜜月を見せつけたものの、2018年は、莫大な対中貿易赤字を解決すべく、貿易戦争を仕掛けてくる可能性が高い。それを示唆するかのように、昨年末に発表した「国家安全保障戦略」では、中国の不公正な取引慣行を非難した。また、昨年8月には、通商法301条に基づき、中国が不公正な取引慣行を改めない場合は制裁を加える構えも見せた。

 もっとも、トランプ大統領は、北朝鮮の非核化に向けて中国の支援を得るため、中国との貿易不均衡問題には目をつむる考えもあったようだ。しかし、中国が秘密裏に北朝鮮に石油を送り続けていることが発覚。このことについて、トランプ大統領は、12月28日のニューヨークタイムズ紙のインタビューで、失望の念を表明している。

「中国は我々を貿易でひどく傷つけているが、私にとって貿易より重要なのは戦争だから、中国には柔軟に対応してきたんだよ。中国が北朝鮮のことで私を助けてくれるなら、貿易については、しばらくの間はちょっと違う対応もできるし、そうしてきたんだ。しかし、石油は北朝鮮に入っている。嬉しくないね。彼らが北朝鮮のことで我々を助けないなら、我々はやりたいと主張してきたことをやる」

米中貿易戦争は熾烈化する

 中国が北朝鮮を援助し続けていることに失望したトランプ大統領は、貿易不均衡問題に、厳しい措置で臨むだろう。

 注視したいのは、中国の鉄鋼製品のダンピング問題や知的所有権の侵害問題の実態調査をしていた米国通商代表部から、間もなく発表される調査結果だ。結果次第では、中国製品に大きな関税が課される可能性もある。

 ニューヨークタイムズ紙は「アメリカは、通常、調査の後、海外の競合国との問題は、WTO(世界貿易機関)に訴えているが、トランプ政権はWTOの判断を待ちたくないと示唆してきた。アメリカが単独行動を取れば、WTOのルールに違反することになるかもしれない。その場合、中国がWTOの支援を得て、アメリカに貿易制限を与えて報復すれば、世界の二大経済大国の貿易戦争が始まるかもしれない」と警告している。

 中国からは、廉価な太陽電池セルやモジュールなどの太陽電池製品が輸入されていることが問題になっているが、これについて調査をしている米国国際貿易委員会の中には、商品によっては最大35%の関税を課すよう主張している者もいるという。廉価な中国の鉄鋼製品については、輸入制限されてはいるものの、まだ第三国経由でアメリカに流入していることが問題視されており、そういった製品にも制限が加えられるか注目されるところだ。

 米中が貿易戦争に突入した場合、それは熾烈なものになるだろう。ブルッキングス研究所東アジア政策研究センターのミレヤ・ソリス氏は「80年代、日米には貿易不均衡問題があったものの、安全保障面では同盟関係にあった。米中には、日米のような同盟関係がないため、貿易戦争は激化するだろう」と予測している。

 

 対北朝鮮、対中国という二つの戦いに、トランプ大統領はどう対処するのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事