Yahoo!ニュース

なぜ日本では食料支援が民間任せにされるのか コロナと物価高で「破綻危機」と報じられるフードバンク

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

2023年2月16日付の産経新聞で、コロナと物価高により生活困窮者が急増し、食品ロスなどを活用して食料支援をおこなうフードバンクが破綻危機だと報じられた(1)。筆者も記事に対してコメントを書いた。

フードバンクにおける活動資金と人手不足は以前から問題とされており、筆者も2018年にそれをテーマにした取材記事を書いた(2)。だが、最近では、資金不足と人手不足が深刻化しているという。専門家は、産経新聞の取材に対し、「国や自治体が、資金面や運営面で、さらに踏み込んだ支援をする必要がある」と語っている。

なぜ、日本では国による生活困窮者への食料支援が進みづらく民間任せにさせられやすいのか、その要因を見てみたい。

1、日本は47カ国中「国は最も貧困状態にある人を援助すべき」が15%と最低

古いデータで恐縮だが、米国のシンクタンクであるPew Global Attitudes Projectの調査(2007年10月発表)によると、「政府(国)は、最も貧困状態にある人を援助すべきである(State Should Take Care of the Very Poor)」という質問に対し、「完全に同意する(Completely agree)」と回答した人の割合が、調査対象47カ国中、最も低かったのが日本(15%)という結果になっている(3)。「ほとんど同意(Mostly agree)」の割合も日本が最低(59%)である。日本は、「働かざる者食うべからず」といった考え方が根底にあるのではないか。

2、「生活保護でお金をもらっているから不要」

筆者自身、2008年当時は勤めていた食品メーカーとして、フードバンクに食品を寄付しており、2011年から3年間はフードバンクの職員としてフードバンク事業に携わった。その中で耳にしてきたのが「生活困窮者は生活保護をもらっているんだから、それ以上の支援は要らない」という声だ。生活保護は、申請してすぐにお金をもらえるわけではない。また、車や貯蓄の保有などにより、申請が却下される場合もある。さらに、筆者の関わったケースでは、精神疾患などにより、困窮状態にあるものの、申請しない場合もあった。困窮している人が100%全員、生活保護を受け取っているわけではない。たとえ申請で認可されるにしても、それまでには数週間かかる。

3、食料寄付に際する免責制度がない

食品ロスを活用するフードバンク活動の盛んな国では、食料を寄付した場合、万が一の食品事故が起きた場合でも、それが善意による行為であれば寄付者に責任を問わない免責制度がある。フードバンク発祥の国は米国で、1967年に始まったが、米国では当初、その法律は、聖書からの言葉を引用して「善きサマリア人(びと)の法」と呼ばれた。ニュージーランドでも、以前は食品工場やスーパーが食品事故を懸念して寄付を躊躇していたが、免責制度ができてからは、その懸念なく、寄付が集まるようになった。コロナ禍で、そのような制度は、先進諸国でいかんなく発揮されている(4)。

4、食品寄付者に対する税制優遇が限定的

米国をはじめ、イタリアなどでは、食品寄付を実施した事業者に対し、税金を安くする税制優遇制度がある。日本でも、国税庁と農林水産省が、2018年12月、寄付食品の全額損金算入を認可した(5)。もちろん、これは喜ばしいことだ。が、食品企業からしてみれば、フードバンクに寄付した食品を課税対象にしない方法は、たとえば「サンプル」扱いにするなど、いくつかある。諸外国では、もっと多額の税制優遇がある国もあり、事業者が寄付するインセンティブが大きく、だから寄付が集まるという構造がある。

5、おいしさのめやすに過ぎない賞味期限を「品質期限」のように重視している

賞味期限は、品質が切れる期限ではなく、おいしさのめやすに過ぎない。だが、日本では、あたかも品質が切れる期限のようにとらえられているケースが目立つ。以前、テレビ番組で、賞味期限切れになった食品ロスを商品として扱うスーパーが特集され、50名への街頭インタビューで「あなたは賞味期限が切れた食品を買いますか?」と質問したところ、50名中、過半数の26名が「買わない」と答え、その理由として「お腹をこわすから」と答えた人がいた。

消費者庁の情報を基にYahoo!JAPAN制作
消費者庁の情報を基にYahoo!JAPAN制作

食料配布しているフードバンクには、食料品を受け取る個人の方に、賞味期限が過ぎていても大丈夫か、と確認、了承をとった上で、そのような食品を渡している団体も複数ある。だが、一方で、「期限が切れたものをあげるのは失礼だ」とする団体もある。筆者が、国は賞味期限切れの備蓄も活用しており、民間も活用してはと問いかける記事を書いた(6)際、いくつかの生活困窮者支援団体は「受益者に失礼だ」というコメントを投稿していた。賞味期限に対する正しい理解が得られていないことを残念に思う。今では中学校の家庭科で、消費期限との違いを学んでいるはずだが、きちんと習得されていない。英国では、コロナ禍で、賞味期限が過ぎてもここまでは活用できるとするガイドラインをWRAPが発表した(7)。これは、賞味期限が「おいしさのめやす」に過ぎないからできることだ。

以上、まとめてみると、日本は、生活困窮者に対して国が支援すべきではないと考え、賞味期限も「品質」期限だから切れたものをあげるのは失礼だと考え、食品を寄付してくれる企業に対する免責制度や税制優遇などのインセンティブも、先進諸国に比べると薄く、寄付が集まりづらい。食品ロスになる手前にある余剰食品の活用もされづらい。理解も薄い。食料支援は国が率先するのではなく、民間やNPOまかせ。しかもコロナに加えてロシアによるウクライナ侵攻で、生活困窮者はますます急増している。これで、日頃から資金不足に悩まされている食料支援団体が行き詰まらない方が不思議だ。

フードバンク発祥の国、米国では寄付企業への税制優遇や免責制度が充実

たとえば米国では、食品ロスになる運命にある余剰食品を国が買い上げ、必要な人へ配る制度がある。2013年には、乳製品がだぶついており、それを米国政府が買い上げ、国内210あるフードバンクに無償で配布していた。米国では、企業に対する免責制度や税制優遇もある。筆者が14年5ヶ月勤めていた食品企業の本社は米国にあるが、このようなインセンティブがあるので、毎年10億円以上に相当する食料品をフードバンクに定期的に寄付していた。企業にとってもメリットがあるからだ。しかも、余っている食品に限らず、わざわざフードバンク向けに製造していた食品もあった。

日本は、国民が必要とする食料の過半数を海外に依存し、先進諸国の数倍にあたるほどフードマイレージは高い。(フードマイレージ=運ぶ食品の重さと運ぶ距離をかけた値。トンキロメートルで表される)。それでいながら、恵方巻は毎年10億円以上を処分し(8)、オリパラでは2億6,000万円以上に相当する弁当を処分し(9)、コンビニでは1店舗あたり年間468万円(中央値、公正取引委員会2020年9月調査)を廃棄している(10)。今こそ食品ロスを有効活用し、必要なところへと活用すべきではないだろうか。国や自治体は、緊急事態が常態化した今を支えるため、資金や運営面で支援を強化してほしい。

参考情報

1)コロナと物価高で生活困窮者が急増 食料支援の「フードバンク」破綻危機(産経新聞、2023/2/16)

https://www.sankei.com/article/20230216-F3S2LVNSCVOPZP75TUBXEKJMHY/

1’)コロナと物価高で生活困窮者が急増 食料支援の「フードバンク」破綻危機(産経新聞掲載のものをYahoo!ニュース転載、2023/2/19)

https://news.yahoo.co.jp/articles/5b5342bafe246c4dbc11f81b7a5342667ee7d165

2)食品ロスと貧困を救う「フードバンク」は資金不足 持続可能なあり方とは(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/2/28)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20180228-00081872

3)Continued Support for a Safety Net(Pew Research Center、2007/10/4)

https://www.pewresearch.org/global/2007/10/04/chapter-1-views-of-global-change/

4)コロナ禍の困窮者へ食品を 世界の食品寄付の法律や政策が地図で一目でわかるサイト(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/7/26)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20210726-00249055

5)「寄付より廃棄」の選択肢が変わる 国税庁・農林水産省がフードバンク等への寄贈食品の全額損金算入を認可(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/1/22)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20190122-00111935

6)たとえ「賞味期限切れ」でも国は災害備蓄食品を有効活用 なぜ民間では使わない?#知り続ける(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/3/14)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20220314-00286410

7)巣ごもり消費で疑問「賞味期限切れは捨てた方がいい?」英では賞味期限過ぎても捨てないガイドラインを推奨(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/4/27)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20200427-00175492

8)恵方巻、89社が予約販売に応じた2023年、45店舗の調査結果はどうだったのか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2023/2/9)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20230209-00336274

9)結局、東京五輪の食品ロスはどうだったのか?弁当13万食1億1600万円分以外には?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/11/24)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20211124-00269458

10)コンビニは「無料のごみ箱」「無料トイレ」「無料駐車場」年468万円食品を捨てるコンビニの嘆き(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2023/1/7)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20230107-00331780

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事