たとえ「賞味期限切れ」でも国は災害備蓄食品を有効活用 なぜ民間では使わない? #知り続ける
国は、災害備蓄食品を、食品ロス削減のため、また、生活困窮者支援に有効活用するため、入れ替え時に備蓄の役割を終えたものについて、原則としてフードバンクなどへの寄付に取り組んでいる。農林水産省「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」(1)にリストが掲示されている。その中には、おいしさのめやすである「賞味期限」の過ぎたものも含まれる。
参加府省庁は次の通り。内閣官房、内閣法制局、復興庁、内閣府、宮内庁、公正取引委員会、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
以前は国の行政機関の42%が災害備蓄食品を全て廃棄していた
気候変動の影響もあり、自然災害は毎年のように発生している。それに加え、コロナ禍では食料品の買い占めも起こった。そこで、消費者や事業者は、いざという時のために飲食品を備蓄しているケースが多い。それは内閣府や省庁などの府省庁も同様だ。だが、府省庁の備蓄食品は税金を使って購入した「国の財産」であるとみなされ、賞味期限で処分するという状況が続いていた。
実際、2019年に発表された総務省の調査結果(2)でも、国の行政機関の42%が、備蓄の入れ替え時に全て廃棄している(下記円グラフの紫部分)(3)。
2019年12月、農林水産省が省庁初、備蓄食品をNPOに寄贈
2019年5月に「食品ロス削減推進法」が成立、2019年10月に施行された。2019年12月26日、農林水産省は、省庁として初めて、備蓄食品の寄付をおこなった。賞味期限が1ヶ月後(2020年1月)に迫った備蓄食料のおかゆを、福島県のNPO法人、FUKUSHIMAいのちの水に寄付したのだ(4)。
2019年施行の食品ロス削減推進法に基づき、2020年3月には基本方針が定められた(5)。基本方針には、国や地方自治体が災害備蓄食品の有効活用に努めるべきであることも明記された。農林水産省をはじめとして、消費者庁や財務省が検討を重ねてきた(6)。
2020年12月、農林水産省は「賞味期限」が過ぎた缶詰の備蓄食品を寄贈
2020年12月18日、農林水産省は、備蓄食品を食料支援の団体らに寄付した。コロナ禍で、新たに取り組んだのが、賞味期限が2ヶ月過ぎた果物の缶詰の備蓄食品の寄贈だ(7)。これも省庁としては初めての取り組みだった。
2021年3月、農林水産省に続き、消費者庁も賞味期限の過ぎた食品を寄贈
2021年3月30日、農林水産省に続き、消費者庁も、賞味期限が過ぎた食品を含む備蓄食品をNPOに寄付した(8)。消費者庁は、賞味期限の愛称コンテストを実施しており、最優秀賞に「おいしいめやす」を選んでいる。
2021年7月、消費者庁、賞味期限が過ぎても活用できる「使用期限」提案
消費者庁は、災害備蓄食品のうち、賞味期限が過ぎても安全性が確認でき「食べられる」と判断した食品に「使用期限」を設定し、子ども食堂やフードバンク、社会福祉協議会へ配布するモデル事業を始めた(9)。2021年7月12日に、共同通信が報じた(10)。
2022年1月、農林水産省が賞味期限の過ぎた備蓄食品などNPOに寄付
2022年1月19日、農林水産省が、保管していた備蓄食品の一部を提供し、フードバンク活動をおこなうNPO法人「バラエティクラブ」が受け取った。これら寄贈食品には、賞味期限が過ぎたものも含まれる(11)。
2022年3月公表、環境省「フードドライブ実施の手引き」では提供できない食品に「賞味期限1か月未満のもの」
以上、国が率先して、賞味期限の過ぎた備蓄食品も含めて活用し始めている事例を紹介した。
2022年3月11日、環境省は、「フードドライブ実施の手引き」を公表した(12)。全19ページにわたる詳細なもので、全国の自治体やフードバンクにヒアリング調査を実施した上で、丁寧に作られており、フードドライブ初心者にとっては心強い手引きとなっている(13)。
ただ、「提供できない食品」リストの中に「賞味期限1か月未満のもの」が入っている。
冒頭で述べたように、環境省自身、災害用備蓄食品を有効活用すること、賞味期限が過ぎたものの場合でも有効活用することに賛同し、国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイトの参加府省庁として名を連ねている。
国は率先して賞味期限の過ぎた食品を活用しているのに、なぜ民間のフードドライブでは「提供できない」のだろう?
国が先導するのと同様、市区町村や民間でも賞味期限が過ぎた備蓄食品の活用を推進したい
筆者は14年前の2008年から、当時勤めていた食品企業としてフードバンクへ食品を寄付していた。フードバンクが、寄付食品の条件として「賞味期限が1ヶ月以上残っていること」を挙げているのは、もちろん知っている。
その後、2011年に食品企業を辞めて独立し、3年間はフードバンクの広報を担当しており、当時も「賞味期限1ヶ月残し」は寄付食品の条件として必須だった。
2015年からは、筆者は埼玉県川口市の市会議員やパン屋などと共同で「食品ロス削減検討チーム川口」として毎年フードドライブを行なっている。
全国の自治体やフードバンクを見渡しても、賞味期限が過ぎた食品を受け入れているところは、ほぼ見当たらない。
環境省の「フードドライブ実施の手引き」は、その現状を踏まえて作られたと思うので、致し方ないかもしれない。だが、2020年から国が積極的に「賞味期限切れ」の備蓄食品を食品ロスにせずに活用している現状、そのことについて、3月11日発表のマニュアルでも触れてほしかったのが正直な気持ちだ。
提言:缶詰・アルファ米・飲料水に限定し、賞味期限が過ぎた食品を民間のフードバンクやフードドライブで活用してはどうか
そこで提案したいのが、缶詰・アルファ米・飲料水の3品に限って、賞味期限が過ぎた食品をフードバンクやフードドライブで活用するのはどうだろうか。
缶詰は賞味期限が3年以上と長い。アルファ(化)米は、水分量が非常に少なく、賞味期限が過ぎても品質の劣化がゆるやかである。ペットボトルのミネラルウォーターの賞味期限は、内容量が担保できる期限だ。ガラス容器に入っていれば、賞味期限表示は省略できる。
現状、国が寄贈を進めている災害用備蓄食品も、これら缶詰、アルファ米、水がほとんどのようだ。
まずはこの3品に限定した上で、民間のフードバンクや食料支援、フードドライブで活用してみてはどうだろうか。
世界を見渡すと、日本だけでなく、欧州などの海外でも、賞味期限がおいしさのめやすに過ぎないことを踏まえ、過ぎても活用できるガイドラインなどを発表している。英国WRAPは2020年にガイドラインを改訂して発表しており(14)(15)、イタリアでも同様のガイドラインが出されている。2022年1月には、英国の大学調査の結果を踏まえ、英大手スーパーでは、牛乳の消費期限を賞味期限に変える動きがあった(16)。
どれも、食品が有限の資源であり、持続可能な社会づくりに向けて、活用できる食資源はできる限り使い尽くすことを目的としたものだ。
折りしも、ロシア・ウクライナ情勢を受けて、一部のメディアでは食料危機の可能性を報じている。食料自給率37%の日本も、食料確保においては楽観的な状況にはないはずだ。
国が率先している賞味期限切れ備蓄食品の有効活用を、今後は、ぜひ、民間でも進めていきたい。
関連情報
2)災害備蓄食料の活用の促進に関する調査の結果報告書 食品ロスの削減を中心として(総務省、2019年3月28日)
3)【4.14を前に】国の行政機関42%が災害備蓄食を全廃棄「食品ロス削減」と言いながら食品を捨てている(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/4/11)
4)農林水産省初の試み、賞味期限が迫った備蓄食品を捨てずに寄付、食品ロス削減に繋げる(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/12/26)
5)食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針(閣議決定、2020/3/31)
6)政府の災害時備蓄食品をフードバンク等に提供することになった経緯について(竹谷とし子氏公式ブログ、2021/5/2)
7)「賞味期限切れ」備蓄食料を農水省が寄付 国として初の試み、その意義とは?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/12/21)
8)「おいしいめやす」農林水産省に続き、消費者庁も賞味期限過ぎた備蓄食を寄付(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/4/8)
9)「賞味期限切れ」60〜90日後でも安全なら提供 消費者庁、備蓄活用で食品ロス削減と困窮者支援へ(2021/7/14)
10)食品ロス削減へ新使用期限を設定(共同通信、2021/7/12)
11)「賞味期限切れ」でも飲食可能な備蓄は使い尽くす 農林水産省の継続的な取り組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/1/19)
12)「フードドライブ実施の手引き」の公表について(環境省、2022/3/11)
13)「フードドライブ実施の手引き」(環境省、2022/3/11)
14)巣ごもり消費で疑問「賞味期限切れは捨てた方がいい?」英では賞味期限過ぎても捨てないガイドラインを推奨(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/4/27)
15)「賞味期限」環境先進国で啓発や見直しが進んでいる理由とは?SDGs世界レポ(57)(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/2/10)
16)牛乳の消費期限を賞味期限に 大手スーパーを動かした大学の調査結果とは?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/2/20)