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恵方巻、89社が予約販売に応じた2023年、45店舗の調査結果はどうだったのか

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
2023年2月4日0:13、76本が売れ残っていた恵方巻(関係者撮影)

筆者は2016年2月3日、フランスで世界初の食品廃棄禁止法が成立した時から、恵方巻の廃棄に注目している。その日がちょうど節分だったからだ。2019年からは、夜間の売れ残り量を毎年調査している。

なぜ、恵方巻の廃棄が問題視されるのか。「他にも捨てている食品はたくさんあるじゃないか」という声を聞く。日本は年間522万トン以上の食品ロスを出している。だが、その中には、日持ちが長く、値引き販売や寄付など、活用できる食品もある。しかし恵方巻は、基本的に、節分当日にしか販売できない。原材料である海苔や魚介類、卵は、資源の枯渇と値上げが報じられている。筆者が2019年におこなった売れ残り調査では、全国で16億円以上の経済損失があると推計された。ここ最近、減少傾向にあるが、2022年におこなった売れ残り調査でも、相変わらず10億円以上の損失があると推計された。経済損失、環境への負荷、そして食べ物が必要な人がいる一方でこれだけの廃棄を出すという、

1.経済

2.環境 

3.社会

の3つの側面から見ても大きな課題である。

2019年は特に恵方巻と食品ロスが大きく報じられた(G-Searchのデータを基にYahoo!JAPAN制作)
2019年は特に恵方巻と食品ロスが大きく報じられた(G-Searchのデータを基にYahoo!JAPAN制作)

今回は、食品リサイクルセンターに納入された恵方巻の量について、2019年からの推移と、45店舗をまわった売れ残り本数の調査結果と、農林水産省に「予約販売する」と宣言した事業者の実態、ほぼ廃棄ゼロで売り切ったスーパーの廃棄率などについて紹介したい。

リサイクル量は2022年対比で微減

売れ残り食品などを食品事業者から受け入れ、豚の飼料へとリサイクルをおこなっている、株式会社日本フードエコロジーセンター(1)の高橋巧一社長より、3企業(A社・B社・C社)の節分当日の受け入れ量のデータを提供いただいた。まずは3社の合計量を見てみる。

2019年から2023年にかけて、節分当日の恵方巻売れ残り納入量(日本フードエコロジーセンター提供)
2019年から2023年にかけて、節分当日の恵方巻売れ残り納入量(日本フードエコロジーセンター提供)

2022年と比べて、2023年は若干減っている。だが、リサイクルセンターに依頼されるのは、日本全国で処分される恵方巻のうち、一部に過ぎない。大部分は資源としてリサイクルされずに焼却処分されている。リサイクル量が減ったからといって、全体の処分量も同じように減ったとは限らない。

では、A社・B社・C社の合計量を、企業ごとに見てみるとどうなるか。

2019年から2023年にかけて、節分当日の恵方巻売れ残り納入量(日本フードエコロジーセンター提供)
2019年から2023年にかけて、節分当日の恵方巻売れ残り納入量(日本フードエコロジーセンター提供)

A社、B社は、2022年より減少しているものの、C社は、むしろ増えている。

2023年2月に納入された恵方巻(日本フードエコロジーセンター提供)
2023年2月に納入された恵方巻(日本フードエコロジーセンター提供)

日本フードエコロジーセンターに納入された恵方巻の写真を見ても、今年もかなりの量であることが推察される。海苔と具材と米飯がバラバラになっているものがあるが、これは、おそらく納品しようとスタンバイしていたものの、恵方巻として巻く前に必要なくなったものだ。

食品業界では、小売業は基本的に欠品(品切れ)を許容しない。売れた分の売上をその分だけ失うし、顧客を他の店に取られてしまうからだ。筆者の取材経験から見ても、欠品を許容する小売業は、全国的に見ても数少ない。足りなくなるのは御法度。食品製造業(食品メーカー)は、小売業が失った売上を補填させられる、もしくは、「取引停止ですよ」と言われる可能性がある。だから、メーカーは、足りなくなるより余る方向へ舵を切らざるを得ない。売り先を失うからだ。特に全国展開しているショッピングモールやコンビニであれば、そのバイイングパワー(販売力)たるや、すさまじい。だから、作り手より売り手の方が上というヒエラルキー(上下関係)が生じる。

日付が変わって2月4日になっても70本以上の売れ残りがある最大手コンビニ

では、節分当日の夜、実際の店舗ではどうなっていたか。2023年2月3日の夜、19時30分以降、2月4日0時13分ごろまで、大学生インターンおよび社会人ボランティアに協力いただいて、首都圏および西日本の1都4県、合計45店舗の大手コンビニ加盟店およびスーパーの売れ残り本数を調査した。その結果、

合計の売れ残り本数は1,464本

1店舗あたりの平均売れ残り本数は32本

完売店舗率は17%

だった。

最大手コンビニ加盟店で目立った売れ残りの多さ

特に最大手コンビニ加盟店での売れ残りの多さが目立った。下の表、5店舗のうち、22:13に調べた76本は大手5社コンビニの1店舗だったが、それ以外はすべて最大手コンビニ加盟店だった。この4店舗だけでも、合計302本が売れ残っている。

2023年2月3日当日の調査時刻および大手コンビニで売れ残っていた恵方巻の数(筆者調査に基づき制作)
2023年2月3日当日の調査時刻および大手コンビニで売れ残っていた恵方巻の数(筆者調査に基づき制作)

表の下から2番目の店舗は、すでに日付が変わる直前(23:59)で64本、一番下の店舗では2月4日の夜中0:13で76本残っている。

2023年2月3日23:59、64本残っていた最大手コンビニ(関係者撮影)
2023年2月3日23:59、64本残っていた最大手コンビニ(関係者撮影)

食品業界の商慣習である「3分の1ルール」による販売期限は、消費期限の手前に設定されている。消費期限ギリギリまで売らず、販売期限が来た時点で商品棚から撤去されるので、これらは撤去され、処分されると予測される。

3分の1ルール(実際のルールに基づきYahoo!JAPAN制作)
3分の1ルール(実際のルールに基づきYahoo!JAPAN制作)

ただ、断っておきたいのは、この企業のすべての店舗が同じように売れ残りを出していたわけではない、ということだ。売れ残りゼロ、売り場に売った痕跡すらない店舗もあった。加盟店オーナーの意向で、恵方巻を全面に打ち出しての販売はしていなかったようだ。それは、他の大手コンビニ加盟店も同様だった。売れ残りを出すか出さないかは、オーナーの裁量にも大きく関わっていると考える。

大手コンビニ3社の調査結果

大手コンビニ3社、合計32店舗の調査結果を表にまとめてみた。セブン-イレブンが1店舗あたりの平均売れ残り本数44本と最も多く、ファミリーマートが18本、ローソン11本と続いた。

大手コンビニ3社の結果に基づき筆者制作
大手コンビニ3社の結果に基づき筆者制作

前述の通り、n数(調査数)が少ないというデメリットはあるが、実際の店舗がどうなっていたかという意味ではリアルな現状を示している。どの企業も完売店舗があったにもかかわらず、そうでない店舗では100本前後の売れ残りがあったため、総合的に見ると多くなってしまっているのが非常に残念である。

2023年2月4日0:13、最大手コンビニでは70本以上が売れ残っていた(関係者撮影)
2023年2月4日0:13、最大手コンビニでは70本以上が売れ残っていた(関係者撮影)

スーパーは積極的に値引き販売し、完売傾向

農林水産省が呼びかけた「予約販売」に対し、コンビニもスーパーも同様に応えていた。だが、大きな違いは早い段階での「値引き販売」の有無だ。スーパーも、夕方から一定時間は、かなりの量の恵方巻を商品棚に積んでいた。「こんなに入れて、本当に売り切れるの?」と疑問に思ったほどだ。だが、23時から23時50分にかけて、つまり閉店前の時間帯に再びまわってみると、大幅に値引きをしているので、それを選んで買い物カゴに入れるお客さんも目立った。この値引きを待っていたのでは、と思われる客もあった。したがって、24時近くには、商品棚がすっかり空になっている、もしくは数個残っているだけの店舗がほとんどだった。

2023年2月3日、完売したスーパー店頭(筆者撮影)
2023年2月3日、完売したスーパー店頭(筆者撮影)

ただ、別の地域のスーパーでは、閉店15分前に、半額に値引きしたにもかかわらず、160本もの恵方巻が残っている店舗もあった。

2023年2月3日、閉店15分前に160本残っていたスーパー(関係者撮影)
2023年2月3日、閉店15分前に160本残っていたスーパー(関係者撮影)

単価の高いおせち料理やクリスマスケーキでは予約販売が効果的だが、単価の低い恵方巻の場合、予約販売の効果は限定的ではないだろうか。農林水産省の公式サイトで「予約販売しています」と掲示してもらうことが、ある意味、免罪符かパフォーマンスのようになっていて、結果的には、夜中の店頭で大量に売れ残っていることになっている。大手コンビニ3社に関しては、それは否めない。

積極的な値引き販売で売り切るスーパー

岡山県を拠点に、中国・四国地方で101店舗のスーパーを展開する、株式会社ハローズ(2)の商品管理室長、太田光一氏に伺った。

2023年2月3日の恵方巻の販売では、全店舗で合計31万本、合計1億7千万円を売り上げた。1店舗あたり3,000本の恵方巻を販売したことになる。これだけ売っていながら廃棄率は非常に低く、0.00004%と、ほぼゼロになったとのこと。ちなみに2022年には廃棄率0.16%だった。

廃棄金額は次の通り。

2023年 全店(101店舗) 6,664円

2022年 全店(96店舗) 159,184円

では、通常のスーパーの廃棄率はどのくらいなのか。

2019年の調査で、大学生インターンが大手スーパー営業部長に取材した際、「例年だと、恵方巻の廃棄率は20%から30%くらい。他の惣菜に比べて特に多いわけではない。すぐに売り切れる量しか置かないと、売り切れたときにお客様に申し訳ないし、機会ロスが発生する。少し多めに置くのがスーパーマーケット業界の鉄則」と答えていた。

おそらく、この廃棄率は、実際に廃棄したパーセンテージではなく、売上予算と実際の売上との差を示しているのではないかと思われる(全量を定価で売り切ることができた場合の売上予算と、廃棄せずに値引きして売った売上との差を指している。たとえば全体の半分を定価で売り、残り半分を半額で売った場合、実際の売上高は75%、ロス率は25%となる)。

恵方巻の食品ロスが及ぼす経済・環境・社会への負の影響

食品ロスは、経済的な損失、環境への負荷、社会への負の影響を及ぼす。特に恵方巻のように日持ちせず、その日にしか販売できないものは保管も再利用もできず、損失も大きい。

では、具体的にどの程度の影響があるのか、推測してみた。

<経済面>

2023年の恵方巻による経済損失は約12億円相当

日本全国のコンビニ店舗数は、2022年12月現在、55,838店舗ある(3)。スーパーマーケットの店舗数は、2022年12月現在、23,028店舗(4)。したがって、コンビニとスーパーの合計店舗数は78,866店舗となる。

今回の調査対象店舗と同程度の売れ残りが全国で発生していたと仮定すると、売れ残り本数は256万5,773本となる。売れ残った恵方巻の価格帯は345円から1,718円だったが、最も多かった価格帯は500円前後だったので、暫定的に「500円」と仮定し、今回の調査結果の売れ残り本数に掛け算すると、およそ12億8,288万円となる。

2019年に経済学者が推計した際には、10億2,816万円だった(5)。筆者が同じ年に調査した際には16億円程度(6)と試算した。2022年の筆者の調査時には10億円程度だった(7)。2023年は、2022年より少し増えた計算になる。いずれにせよ、全国で10億円+α程度が経済損失となっているのではないかと推計される。

2023年2月、売れ残り恵方巻の納入(日本フードエコロジーセンター提供)
2023年2月、売れ残り恵方巻の納入(日本フードエコロジーセンター提供)

<環境面>

プール570杯分もの水資源を浪費し、135人分の年間二酸化炭素排出量を出す

環境省の食品ロスダイアリー(8)を用いて、恵方巻の食品ロスが生じたことによる二酸化炭素の排出量と、捨てられた恵方巻を作るために使われた水の合計量を推計した。

恵方巻の重さは、便宜上、スーパーで販売されていた、合計219g(内訳:米飯155g、卵29g、魚介類35g)のものを使った。これを計算式にあてはめたところ、1本の恵方巻が捨てられた場合、排出される二酸化炭素の量は528g。1本の恵方巻を作るために使われる水の量は120リットル。これに、前述の256万5,773本を掛け算すると、二酸化炭素の排出量は1,354トン(13億5,472万8,144g)。この恵方巻を作るまでに使われた水の量は合計で3億789万2,760リットルにもなる。25メートルプールの水の量は、およそ54万リットルなので(9)、25メートルプール570杯分もの水資源を浪費した計算になる。また、日本の1人あたりの二酸化炭素排出量は9トンから10トンなので(10)、135人が一年間に排出する二酸化炭素を排出したことになる。大量の食品ロスを出すことは、膨大な水資源を浪費し、とてつもない量の二酸化炭素を排出することになる。ただでさえ、日本はごみ焼却率が、OECD加盟国の中で80%近くとダントツに高い。

日本はOECD加盟国の中でも最もごみ焼却率が高い(OECDデータを基にYahoo!JAPAN制作)
日本はOECD加盟国の中でも最もごみ焼却率が高い(OECDデータを基にYahoo!JAPAN制作)

<社会面>

256万人が1本ずつ食べられたはずだった

恵方巻256万5,773本が残った場合、1人1本ずつ配れば、256万人以上が食べることができたはずだった。

日本の人口(11)に、2018年の相対的貧困率15.7%(12)(新基準)を乗じると、1,935万7,238人が相対的貧困層ということになる。つまり、年収127万円より少ない金額で暮らしている人が6人に1人いるということだ。2018年以降、コロナ禍に加えてロシアによるウクライナ侵攻の問題が重なり、食料を求める人は減るどころか増える一方だ。

東京都内をはじめとした全国各地で食料配布や食事支援がおこなわれている。毎週土曜日14時から食料配布を続けている「もやい」の大西連さんは、ここ最近、列に並ぶ人数が600名を超えていると報告している。

筆者が取材した2022年6月には500名台だった(13)が、ここ最近、増えてきている。一方で満足に食べられない人がいるのに、他方では膨大な食品を捨てているというのは、倫理的・道徳的にどうなのか。

考察

1.予約販売では恵方巻の食品ロス削減対策として不十分

予約販売は、恵方巻の食品ロス削減に一定の効果を示すだろう。確かに、予約販売しかやらないと宣言しているコンビニのポプラのようなやり方であれば効果的だ。だが、予約販売「も」やるけど、当日売りもやるよ、という姿勢では、ロス削減は難しい。大手コンビニ3社はすべて、農林水産省の「予約販売をしましょう」という呼びかけに応え、農林水産省の公式サイトに名を連ねている(14)。だが、現状では、2月4日に日付が変わった後も、二桁の数、売れ残っている店舗もある。これでは、ただのパフォーマンス、「やってますよ」という免罪符とアピールに過ぎない。

2.スーパーはコンビニに比べて売れ残り数が少ない

これは次のような理由があると推察される。

1)積極的に値引き販売をしている

コンビニも、値引きをやっていないことはないが、スーパーに比べてその実施店舗数は極端に少ない。また、消費期限の迫った食品100円あたりに対して5円分のポイントをつけるという対策をしているコンビニもあり、これも効果がゼロではないようだが、100円で5円引きというのはスーパーで見たことがない。20%引き、30%引き、半額、というのが通常だろう。早い段階から売変(売価変更)して売り切ろうとするスーパーとコンビニとでは差が大きい。値引きの有無が、スーパーとコンビニとの大きな差になっている。

2)恵方巻を買うための来客数が多い

したがって、恵方巻を安価に買おうとする人は、コンビニには行かず、スーパーへ行く。値引きする時間帯めがけていく客もいる。したがって、スーパーはますます売り切れ、コンビニは売れ残る傾向は否めない。恵方巻に限らず、コンビニはスーパーと比べて食料品価格が高いため、倹約している人や、値段に敏感な人は、そもそも普段から食料品をコンビニで購入していない。

3)店内で調整可能

スーパーの場合、店内にキッチンを併設している店舗があり、その場合、売れ行きや在庫数を見ながら量を調整することができる。しかし、コンビニにそれはできづらい(15)。キッチンを併設しているコンビニもあるが、少数だ。

3.食品リサイクル工場への納入量は2021年が最も少なく、2019年が最も多い

首都圏で食品事業者から余剰食品を受け入れている日本フードエコロジーセンターへの、節分当日の恵方巻納入量を見てみると、2022年より、2023年の方が納入量は少ない傾向にあった。2019年からの5年間の推移を見てみると、2019年が最も多く、2021年にはコロナ禍による時短営業により、最も少なかった。徐々に改善しているのはよい傾向である。

ただし、日本の食品ロスを含めた生ごみのほとんどは焼却処分されており、リサイクルされる量自体が少ないため、リサイクル工場への納入量だけで判断するのは難しい。

2019年は、ここ5年間で最も多いが、2019年以前はもっと廃棄が多かった(調査結果を基にYahoo!JAPAN制作)
2019年は、ここ5年間で最も多いが、2019年以前はもっと廃棄が多かった(調査結果を基にYahoo!JAPAN制作)

4.2019年からは改善傾向にあるものの、まだ不十分

2016年、筆者と国会議員は、都内7カ所を食品ロス講演巡業でまわった、そのことがきっかけで、「法案を作ろう」ということになり、2019年10月1日に食品ロス削減推進法が推進された。2019年の節分は、まだこの法律が施行されていなかったが、2020年以降は、法律の施行や売り切り方式、予約制の導入などによって、ずいぶん改善してきた。とはいえ、同じ企業でも、店舗によってかなりの差があることがわかった。

2023年2月、恵方巻の売れ残り納入量(日本フードエコロジーセンター)
2023年2月、恵方巻の売れ残り納入量(日本フードエコロジーセンター)

提言

この調査結果を踏まえて、提言を述べたい。

<行政>

予約販売を呼びかけるだけでなく、日頃から食品廃棄量の公開を義務化し、企業にペナルティを科す

農林水産省は、2019年以降、小売企業に対して「需要に見合った数を売る」ことを呼びかけ、ここ数年は予約販売を呼びかけている。それ自体はよいことだが、内情を見てみると、小売企業は、予約販売「も」やるけど、当日売りもバンバンやりまっせ、ということになっている。「うちは食品ロス削減対策していますよ」的なパフォーマンスになっている企業もある。やっているふり、アピールになってしまっている企業もある。コンビニのポプラのように、予約販売だけなら、ロスは最小限にできるでしょう。また、当日売りも、本気でロス削減を目指す企業なら「売り切りごめん」方式にするでしょう。ですが、実態はそうはなってはいません。

2009年度(平成21年度)より、農林水産省は、食品廃棄物の発生量が100トンを超える事業者に対し、毎年、発生量や再生利用(リサイクル)の状況を報告することを義務付けている。2020年度にも結果が公表されてはいる(16)ものの、どの企業がどれくらいの量、廃棄したのかわからない。

コロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ侵攻により、食料安全保障の重要性が問われる昨今、食品を捨てたら損をする、最後まで使い尽くしたら得をする(損をしない)、当たり前の社会に変えていく必要がある。現状では、捨てようが、企業には利益が残る構造になってしまっている(特に大手コンビニ本部のコンビニ会計)。だから、捨てても赤字にならず、企業経営が成り立つ仕組みになってしまっている。

フランスが世界で初めて施行した法律では、ある一定面積以上のスーパーが売れ残り食品を廃棄すれば、ペナルティが科せられる。一方、イタリアの法律では、事業者が食品ロスを防いだ場合、税制優遇などのインセンティブを受けることができる。しかし、日本の法律は、そのどちらでもない。したがって、倫理観に欠ける食品事業者のロスは、いつまで経っても減ることがない。彼らにとって重要なのは売上や利益率であり、廃棄率ではないからだ。

2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピック2020では、ボランティア向けの弁当が30万食も処分された。これはTBS系列「報道特集」の試算(13万食=1億1,600万円相当)に基づけば、2億6,769万円にもなる。無観客が決定したにもかかわらず、有観客の前提で弁当を作ったからである。だから、当然、大量に余り、処分せざるを得なくなった。五輪大会組織委員会のスポークスパーソンは「廃棄していない。リサイクルした」と答えていたが、十分に食べられる弁当をそのままリサイクルするのは、環境配慮の原則である「3R」に照らし合わせれば、優先順位の3番目で、愚の骨頂だ。捨てても損しない、作れば儲かるとなれば、誰も数の調整などするわけがない。

2021年7月に放映されたTBS報道特集では弁当の廃棄がスクープされた(TBS報道特集より筆者スクリーンショット)
2021年7月に放映されたTBS報道特集では弁当の廃棄がスクープされた(TBS報道特集より筆者スクリーンショット)

2023年2月3日、野村農林水産大臣が記者会見をした際、毎日新聞の町野幸記者が、恵方巻の廃棄について、「農林水産省は予約販売を推奨しているが、昨年までの民間の調査だと、まだまだ廃棄が多く、特に大手コンビニで顕著である」と述べ、廃棄量の把握や現状について問うている。それに対し、大臣は「(廃棄の)数字の把握は難しい」などと答えている(2023年2月3日の記者会見、2分43秒から6分38秒までの間)。

農林水産省による予約の呼びかけで、2023年1月の中間報告では66事業者が予約販売に応じ、記者会見によれば、2023年2月2日までの間に89事業者が予約販売に応じたとしている。だが前述の通り、いくら予約販売「も」やったからといって、当日、需要数をはるかに超えた数を売っていれば、捨てる量が減るわけはないだろう。予約販売は効果的かもしれないが、予約販売だけでは不十分ということだ。そもそも大臣自身は予約して恵方巻を買っているのか。筆者は恵方巻の予約などしたことがない。単価の高いおせち料理やクリスマスケーキなら予約の動機が働くだろうが、300円台で売っている恵方巻を予約するだろうか。今年は万単位の恵方巻も売り出されたが、予約を呼びかけても、予約がゼロだった恵方巻もあった(筆者出演のAbemaPRIMEによる)。

大臣の会見では「数を把握するのは難しい」とのことだが、節分当日の夜のコンビニに行けば、ある程度の状況はつかめるはずだ。筆者は2019年から2023年まで毎年、調査をおこなっている。不可能ではないはずだ。

<小売>

予約販売に加えて売り切りごめんで

予約販売「も」やるだけではなく、当日売りは、必ず売り切る「売り切りごめん」で販売してほしい。海苔も魚介類も卵も、今、資源が枯渇し、価格が高騰している。それら食材もコメも、貴重な食資源である。

<消費者>

売り切る努力をしている店で「一票を投じる」買い物を

いつ行っても、どこに行っても、なんでもある店がよいのではない。

貴重な食資源を大切にし、その日にしか売れないものはその日じゅうに売り尽くし、食べ尽くす、そのような努力をしている店こそ、応援すべき店である。

買い物は、個人的な行為と思われがちだが、「買い物は投票」と言われる。中学校の家庭科の教科書にも書いてある。一票を投じる気持ちで買う。買われない店や商品は徐々に廃れていくが、未来に残したい店や商品を選んで、応援の気持ちで、一票を投じることだ。

恵方巻は、命と食資源の結集だ。

寿司は、2月3日だけに食べるものではない。

すべての食べ物に愛情と敬意を抱いて食べ尽くすことこそ、「福を呼ぶ」行為のはずだ。

食料価格が高騰している今こそ、「恵方巻の廃棄」をはじめとした食品ロスは、本気で見直したい社会課題である。

謝辞

お世話になったみなさまに感謝申し上げます。

<社会人ボランティア>岩田和音様

<大学生ボランティア>

清泉女子大学 文学部 地球市民学科 今仲友来様

<大学生インターン>

南山大学国際教養学部 小坂井美星様

千葉大学国際教養学部 鈴木はるか様

慶應義塾大学総合政策学部 関根奈央様

参考資料

1)株式会社日本フードエコロジーセンター

https://www.japan-fec.co.jp

2)スーパーマーケット ハローズ

https://www.halows.com

3)コンビニエンスストア統計データ(日本フランチャイズチェーン協会)https://www.jfa-fc.or.jp/particle/320.html

4)統計・データで見るスーパーマーケット(一般社団法人全国スーパーマーケット協会)

http://www.j-sosm.jp/tenpo/index.html

5)宮本勝浩 関西大学名誉教授が推定 恵方巻きの販売高と廃棄処分による損失額 廃棄分の金額は、約10億2,816万円(関西大学プレスリリース、2019年2月1日)

https://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/pressrelease/2018/No86.pdf

6)「売れ残り試算16億円?」節分夜35店舗の恵方巻、閉店前で272本 税金投入され大部分が焼却処分(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019年2月4日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20190204-00113564

7)恵方巻売れ残りの損失額は10億円?2022年、85店舗調査で探る経済・環境・社会への影響(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022年2月7日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20220207-00280797

8)食品ロスダイアリー(環境省

https://www.env.go.jp/recycle/diary1.pdf

9)モアイライフ

https://toushitsu-off8.com/25m-pool-t/

10)日本の一人当たりのCO2排出量はどれくらいですか?(国立研究開発法人 国立環境研究所)

https://www.nies.go.jp/gio/faq/faq5.html

11)日本の人口  123,294,513人(2023年)

https://www.populationpyramid.net/ja/日本/2023/

12)貧困率の状況(厚生労働省、2018年)

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20_21_r021222_seigo_g.pdf

13)緊急事態が日常化 世界をおおう食料高騰と貧困の波(井出留美、朝日新聞SDGsACTION!、2022年7月23日)

https://www.asahi.com/sdgs/article/14676830

14)令和5年 恵方巻ロス削減取組事業者の中間公表について(農林水産省、2023年1月)

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/ehoumaki2023.html

15)コンビニ恵方巻「大量廃棄」問題の解決が難しい事情(井出留美、ダイヤモンドオンライン、2017年2月3日)

https://diamond.jp/articles/-/116585  

16)令和2年度食品リサイクル法に基づく定期報告の取りまとめ結果の概要(農林水産省)

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syokuhin/s_houkoku/kekka/attach/pdf/gaiyou-113.pdf

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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