レジ袋有料化に効果はあったのか?プラスチック新法に引き継がれた課題
2022年4月1日にはプラスチック資源循環促進法(以下、プラ新法)が施行された。世界的なプラスチック削減・再利用の流れを受けて、2021年6月に成立していた法律だ。この記事では2020年7月に導入された「レジ袋有料化」の効果と「プラ新法の概要と課題」について分析していきたい。
プラ新法の概要と要点
プラ新法については、すでにさまざまなメディアが解説している。環境省の公式サイトには、パワーポイント一枚で、この法律の概要がまとめられている(1)。
1.事業者は、製品を開発する段階で、プラ使用量の削減や、長持ちする・リサイクルしやすくするなどの努力が求められる。これまで使っていたプラスチックに代わり、再生プラスチックやバイオプラスチックへの転換、あるいは木や紙など、代替素材への変更も推奨されている。作ってからどうにかするのでなく、事前に対処しよう、というものだ。
2.特定の使い捨てプラスチック12品目(フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、くし、かみそり、シャワーキャップ、歯ブラシ、ハンガー、衣類用カバー)については、事業者ごとに、有料化など提供方法の見直しが義務づけられた。コンビニやスーパー、ホテルやクリーニング店などで、これまで無料で提供されてきたもの。ただし、対象者は、前年度にこれらの提供量が5トン以上だった事業者のみ。もし取組みが不十分となれば、国から勧告・公表・命令・罰則を受けることになる(2)。
3.プラスチックの回収やリサイクルが求められる。全国の自治体によっては、これまでプラスチックは可燃ごみ(「燃えるごみ」「燃やせるごみ」)と一緒くたにして回収していたが、今後は分別回収が求められる。
生活や事業にどのような影響があるのか?
前述の通り、消費者としては、これまでごみとして捨てる際に分別していなかった場合、プラスチックを分別する努力が求められるようになる。また、コンビニやホテルなどで、無料でもらっていたプラ製品は、必要な場合だけ受け取る、あるいは場合によってはお金を払って購入する、ということになる。
今回のプラ新法について、事業者はどう考えているだろうか。
京都市のGOOD NATURE HOTEL KYOTO(3)は、2020年8月、環境や健康に配慮した建物が認定されるWELL認証「WELL Building Standard TM」をゴールドランクで取得した。ホテル全体でサステナブルな取り組みを継続している(4)。このホテルでは、プラ新法施行以前から、プラスチック製の歯ブラシやカミソリなどは提供していない。2021年7月、取材で宿泊した際、このホテルの記事を書いた(5)。
当時はまだプラ新法施行前だったが、お客さまの中には「お金払ってるのに歯ブラシやカミソリがないなんて、ホテルじゃない」などと言う人もいる、と伺った。今回のプラ新法施行により、渡さない方がデフォルト(初期設定)になる。
そこで、GOOD NATURE HOTEL KYOTO 総支配人の松井美佐子様に、アメニティの有料化への葛藤や取り組みについて伺った。
松井様によれば、この4月以降、有料化の取り組みについて、「ニュースでみました」と資源循環促進法について言及してくださる人や、趣旨をしっかり理解する方が想像以上に多くいらっしゃる印象を受けているそうだ。
松井様からは、あるシンクタンクによる、ホテルのアメニティに関する調査結果も教えていただいた。610名の回答によると、低価格帯のホテルをよく利用するユーザーの半数以上は、ほぼ全てのアメニティに対して「なくてもいい」と答えた。ただ、歯ブラシの削減には反対意見が多く見られた。 一方、高価格帯のホテルによく泊まるユーザーは、アメニティをなくすことに対して、半数以上が反対したそうだ。海外のホテルには歯ブラシやかみそりなどは置いてないのが通常。日本では、歯ブラシでもかみそりでもなんでも、無料でもらえることに慣れてしまっており、常態化しているのではないだろうか。
では、コンビニはどうだろう。ある大手コンビニオーナーは「プラ新法を機会に有料化すべき」と語っている。なぜなら、これまでプラスチック製のスプーンやフォークは、コンビニ本部が支払うのではなく、すべて加盟店が支払ってきたからだ(6)。オーナーさんは「これを機会に有料化すべき。そうすれば、買わない選択肢が増え、プラ削減は目に見えている」と語っている。
スプーンもフォークも、加盟店が1本1円以上の負担をしている。たいしたことがなさそうに見えるかもしれないが、コンビニの来客店人数は、2022年2月の1ヶ月だけで、11億1,974万6,000人(日本フランチャイズチェーン協会による)(7)。仮に全員に1本ずつ配れば11億1,974万円、全国の加盟店が負担していることになる。大手コンビニ本部が加盟店に販売する箸に至っては2円以上(四捨五入すれば3円)。本来、使う人(=客)が払うものではないだろうか。
2019年9月17日に開催されたコンビニオーナーヒアリング(第12回)では、オーナーから次のような発言があった。
ホテルに歯ブラシがない、コンビニでスプーンが無料でついてこないとき、あなたならどうするだろうか。歯ブラシを家から持参する、あるいはマイ箸を携帯して対応する人もいるのでは。プラ新法施行に伴って、消費者には行動変容が求められている。
プラ新法が話題となった2021年3月、Yahoo!ニュースが実施したアンケートによれば、プラスチック製スプーンやフォークの有料化に対し、71%が「反対」と答えている(8)。行動変容を要求されていることを消費者が自覚しているとは言い難い数字だ。この社会的な認識のギャップを、今後は埋めていく必要があるのではないか。
プラ新法で見込まれる成果
このプラ新法が施行されたことにより、見込まれる成果は何だろうか。
使い捨てプラスチックを、製造段階から規制することにより、環境配慮の原則「3R(スリーアール)」で最優先の「Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)」につながる。
現状、世界と日本とでは、プラスチック削減に対する意識に大きな差がある。イプソス(IPSOS)がPlastic Free Julyと共に実施した「使い捨てプラスチックに関する意識調査」によると、28か国の調査対象者のうち、4分の3が、使い捨てプラスチックをできるだけ早く禁止すべきだと考えていた(9)。
この調査によれば、日本は複数の調査項目で28か国中、最も低いという結果が出た。たとえばプラスチック汚染対策のための国際条約が必要不可欠、非常に重要と考える人の割合は、日本は最下位の70%。また「プラスチック包装の使用ができるだけ少ない製品を好む」かという問いに対しても、日本は最も低い56%。今回のプラ新法によって、環境負荷を減らそうという意識が少しでも高まることが期待される。
プラ新法の課題
プラ新法施行は一歩前進である一方で、課題も多くある。国際環境NGOのグリーンピース・ジャパンは、次の5つが課題であると述べている(10)。
目標が明確ではない・低い
リサイクルに頼りすぎている
スプーンやフォークだけでは足りない
有料化や禁止にはならない
紙やバイオマスでも結局は使い捨て
Business Insider Japanが、環境省の担当者に、今回のプラ新法について取材して記事を書いている(11)。とてもわかりやすい記事だが、環境省の方の発言で、「あれ?」と思う点があった。
たとえばこの記事の最後で環境省の方が
と答えている。これを読んだ瞬間、「『作っておしまい』の法律なんてあるの?」と、思わずツッコミを入れてしまった。法律は、社会の改革や物事の改善を目指して作るもので、プラ新法に限らず、どんな法律も、作ることがゴールでなく、作ってからがスタートなんじゃないの?と。
レジ袋有料化により流通量は2019年比で半減
レジ袋有料化は、一般の方から批判されたが、環境省の方によれば、
だそうだ。正確には、2019年の19万7200トンから、2021年には10万400トンと、ほぼ半減とのこと(時事通信 2022/3/27「レジ袋、有料化で半減 プラごみ抑制へ効果 環境省」)(12)。
10万トンも減った!だったら、もっと声を大きくしてその成果を粘り強く伝え続けてほしい(公式サイトで発表したくらいでは情報は浸透しない)。
環境省によれば
とのこと。
この根拠となるデータが記事には示されていないので、元データがわからないが、もしそうであれば、筆者がレジ袋の記事(13)を書いた時に「万引が増えるじゃないか」「ごみ袋買うなら意味ない」と批判された内容が、すべてくつがえされることになる。事実であれば、もっと声を大にして、広く多くの人に伝えていただきたい。
記事では、
「減らして」について、消費者は何をすればいいのでしょうか?
という取材者の問いに対し、環境省は、
と答えている。えっ、ただ分別して出すだけ?「リサイクル」が目指すところなの?と、ここでもつっこみたくなった。
このへんのところが、グリーンピース・ジャパンも批判する、「リサイクルに頼りすぎている」点だろう。本来なら、3Rの最優先である「リデュース(減らす)」を率先してやっていかなければならない。消費者であれば、ワンウェイ(使い捨て)プラスチックの使用量をリデュース(減らす)する、ということだ。
環境省によれば、プラごみなどを焼却して出る熱を活用する「熱回収」は、これまで「サーマルリサイクル」などと呼ばれてきたが、「リサイクルではなく、サーマルリカバリーと呼んでいる」そう。ただ、どういう呼ばれ方であろうと、「熱回収」が焼却処分の逃げ道になっているように感じる。
本気で使い捨てプラを削減するには、消費者がキーとなる。どんな事業者の人でも、生活者であり、消費者だからだ。具体的に、ライフスタイルを変えていかなければならない。
プラ削減に向けた提言
それでは、持続可能なレベルまでプラスチックを削減するために何をすればいいのだろうか。
省庁に対して
省庁に対しては、「リサイクルにとどまらず、リデュースを目指してほしい」と提言したい。なぜなら、リデュースこそ、最もコストとエネルギーを節約できるから、つまり、最も持続可能な取り組みだからである。
事業者に対して
事業者に対しては、他の素材に変えたり、一部の素材を変えたりしただけで「プラ削減やっています」とアピールしないでほしい、あくまでこれは第一歩に過ぎず、さらに進めていただきたい。
大手コンビニを見てみると、セブン-イレブン・ジャパンは、スプーンやフォークに植物由来(バイオマス)の素材を30%配合したそうで、これを「環境配慮型カトラリー」と呼び、2022年4月1日(金)から全国のセブン‐イレブンに順次導入しているそうだ(14)。グリーンピース・ジャパンが批判している通り、環境配慮に尽力している人からすれば、「30%入れただけでやっているつもりなのか」という印象だろう。
ファミリーマートは、100%植物由来の原料を使用した生分解性プラスチックを使用したカトラリーの導入拡大、などとうたっている(15)。
ローソンは、プラスチック製穴あきスプーン・フォークと、木製スプーン・フォークの導入(16)。
大手コンビニ3社、いずれも一歩は踏み出したものの、まだ「やっているつもり」パフォーマンスにとどまっているような印象をどうしても受けてしまう。レジ袋同様、有料化に踏み込んでもいいのではないだろうか。大きく負担しているのは本部ではなく、加盟店なのだから。
消費者に対して
消費者に対しては、具体的に「今日からできること」リストを提案し、できることからやっていきましょうと呼びかけたい。
たとえば・・・・
食品トレーや牛乳パックは、使用後に洗って乾かし、行きつけのスーパーに持っていく
個人商店の肉屋や魚屋で買い物する
スーパーや百貨店に入っている肉屋や魚屋で、できるだけプラスチックトレーのないものを選ぶ、トレーの不要な買い方をする
マイカトラリーやマイ箸、マイストローなどを持ち歩く
行きつけの飲食店でテイクアウトするときは、容器を持参してそこに入れてもらう
ペットボトル飲料を毎日買っていた人は、買う回数を減らす
カフェにはマイボトルを持っていく(20円〜50円引きになる)
ホテルに泊まる時には歯ブラシやかみそりを持っていく
使い捨てレジ袋の代わりに風呂敷や布製エコバッグを使う
炭酸水を作る機械(1万円台)を買う
不織布マスクの必要がない時には布製マスクを使う(不織布マスクにもプラスチックが使われています)
衣料品はパタゴニアなど資源を有効活用するブランドを選ぶ
・・・
など。
たとえば拙著『食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』(PHP新書)には、食品ロス削減や使い捨てプラ削減を含めて、具体的に行動するリスト100を載せている。できるところからやっていきたい。
*この記事はニュースレター「プラスチック新法、生活への影響は?その成果と課題 パル通信(40)」を編集したものです。
参考情報
1)プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案の概要(環境省)
2)プラ包装は食品ロスを増やすのか 4月1日施行のプラスチック資源循環法 SDGs世界レポート(77)(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/4/1)
3)Good Nature Hotel Kyoto 公式サイト
4)“GOOD NATURE”への取り組み(Good Nature Hotel Kyoto)
5)世界初のホテル版WELL認証を取得したホテルに宿泊 パル通信(20)
6)「スプーンもフォークも箸もおしぼりもトイレも無料でしょ?」コンビニが客の代わりに払ってます プラ新法(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/3/10)
7)コンビニエンスストア統計データ(日本フランチャイズチェーン協会)
8)使い捨てのフォークやスプーンの有料化、どう思う?(Yahoo!JAPAN みんなの意見)
9)4分の3が使い捨てプラスチックの禁止を希望ー世界調査(イプソス社、2022年7月)
10)【プラスチック新法とは?】内容と5つの問題点をわかりやすく解説(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン、2022/3/30)
11)プラスチック資源循環法とは? 「生活」はどう変わる? 環境省室長に聞く(Business Insider JAPAN、湯田陽子 and 三ツ村 崇志、2022/3/31)
12)レジ袋、有料化で半減 プラごみ抑制へ効果―環境省(時事通信、2022/3/27)
13)レジ袋は燃やせば済む?レジ袋有料化の現在 パル通信(10)
14)お客さまとともに「プラスチック対策」(セブン-イレブン・ジャパン)
15)プラスチック資源循環促進法にともなうプラスチック削減の取り組みについて(ファミリーマート、2022/3/9)
16)「プラスチック製穴開きスプーン・フォーク」の採用とスプーンの「木製」との選択制を導入(ローソン、2022/2/7)