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「スプーンもフォークも箸もおしぼりもトイレも無料でしょ?」コンビニが客の代わりに払ってます プラ新法

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

環境省は、コンビニが無料で提供している使い捨てのプラスチック製のフォークやスプーンの提供を規制することを盛り込んだ「プラスチック新法案」をまとめた。これらの有料化も検討されている。

2021年3月9日に閣議決定された、この「プラスチック新法案」では、使い捨てプラスチックを大量に無償で提供する事業者に対し、削減の義務を課すことが盛り込まれた。違反した場合は50万円以下の罰金が科される。

テレビ朝日が報じ、Yahoo!ニュースが転載した「プラスチック新法案まとまる スプーン有料化も検討」の記事には9,000件以上のコメントが書かれている(2021年3月10日7:38 am現在)。筆者もオーサーコメントを書き、7,356件の「参考になった」が押されている(2021年3月10日7:38 am現在)。が、弁護士の方が書いた「事業者の自由や消費者の利便性に大きな影響を及ぼす」という反対意見の方に、より多くの賛同が集まっている。

Yahoo!ニュースが実施しているアンケートでは、使い捨てのフォークやスプーンの有料化に対し、11,290票中、76%が「反対」となっている。

世界の潮流は「使い捨てプラ禁止」日本は周回遅れ

オーサーコメントにも書いたが、世界的には、使い捨てのプラスチックは禁止の方向で動いている。

EUは、2021年までに、使い捨てプラスチック製品の流通を禁止する。フランスも、この件に関する法整備が早かった。

米国はEUほどではないが、カリフォルニア州やニューヨーク州など、使い捨てプラスチック袋を規制する州が出てきており、カナダも使い捨てプラスチック製品を2021年までに禁止する。

インドも2022年までに使い捨てプラスチック製品を禁止するし、中国も使い捨てプラ袋を2022年までに禁止する。

タイは、主要商店における使い捨てのプラスチック袋の使用禁止を2020年に発表、2021年に全国的に禁止する(BBC)。

インドネシアの首都ジャカルタは、使い捨てプラ袋を2020年6月までに禁止、バリ島で

も、使い捨てのプラスチック製品禁止。

フィリピンも、ショッピングモールやコンビニでは、2015年ごろからプラ袋を使わなくなっている。

この分野の専門家が日本の周回遅れを嘆くのも無理はない。

スプーンもフォークも箸もおしぼりもトイレットペーパーもコンビニがコストを負担している

コンビニで提供される使い捨てのスプーンやフォーク、割り箸やおしぼり、トイレのトイレットペーパーなどは、すべて無料だと誤解されている。これらのコストはコンビニが負担している(注:企業により条件が異なる。大手3社のうち、ファミリーマートとローソンは全額加盟店持ち。セブン-イレブンはトイレットペーパーやトイレ洗剤は全額加盟店持ち。スプーンやフォーク、割り箸やおしぼりは本部と加盟店とで契約内容によって50%ずつなど按分)

『コンビニの闇』の著者、木村義和先生が引用している、経済産業省の「コンビニのあり方検討会」のコンビニオーナーヒアリングの資料を見てみる。

参考資料:

コンビニオーナーヒアリング(第12回)令和元年9月17日(火)14:00~16:00

7ページ目に、コンビニオーナーの意見(7)として、次の記述がある。

サービス文化の勘違い。トイレ、ゴミ箱のマナーの悪さ。箸、スプーン、フォー ク、紙おしぼりのサービスは無料だと思われています。これでは生活文化の衰退につながります。確かに民度が低下していると言えば、そうなのかもしれません。けど、それに対する対応策がないんです。そこを考えていただきたい。皆さんおっしゃっているようにフランチャイズ本部のビジネスモデルも成立しなくなって来ています。利益配分、もちろん見直し必要です。と同時に、サービスの有料化ですね。来年の4月からゴミ袋有料化されます。しかし、箸、スプーン、フォーク、紙おしぼり、今の方は気が利かないと、何でそんなことできねえんだ」って平気でクレームになります。例えばサンドイッチ買って、「どうしておしぼり付いてないの?」っていうお客様が多い。「おしぼりください」じゃないんです。「スパゲッティ、お箸、フォーク、どちらお付けしますか?」「両方」なんです。ただでもらえるから、両方なんです。有料化すべきなんです。

2019年9月時点でこのような意見が出されている。

トイレットペーパー代もトイレ掃除もコンビニ負担

あるコンビニオーナーが終日、トイレ使用者が買い物するかどうかを調査した。トイレを使った人のうち、97%以上が買い物をまったくしなかったそうだ。

だが、このトイレで客が使うトイレットペーパー代もトイレ洗剤も掃除の労力も、大手3社では全額、コンビニ加盟店の負担だ。

下記も、前述のコンビニオーナーヒアリングで出された意見である。

本部ばっかり儲かって加盟店に不利益になるようシステムは是正が必要だと思っております。

売れ残った食品についても、本部ではなく、加盟店がそのコストの80%以上を負担している「コンビニ会計」についても意見が出ている。

コンビニ特有の会計システム「コンビニ会計」があるために、コンビニ一店舗が廃棄する食品の金額は平均468万円/年(公正取引委員会、2020年9月調査)。雇用労働者の平均年収441万円(国税庁、H30)以上の金額の食品を捨てており、売れ残り食品のコストも80%以上加盟店持ちだ。

コンビニ会計と呼ばれる特殊会計のことと、時短営業についてのお話をしたいなと思います。コンビニ会計というのは、一般的に使われる会計とは違ったコンビニ特有の会計のことなんですけれども、簡単に言うと、廃棄原価を売上原価ではなく営業費で処理し、ロイヤリティの算定基準が売上総利益なので、廃棄原価の相当額を加盟店に全て負担させるという会計のことです。これがちょっと問題じゃないかということで、ちょっと話し ておこうかなと思っています。極端に言ったら、廃棄の方の損失は本部の収益には影響しないということになるんです。これを踏まえた意図的と思われる経営指導の多くは拡大均衡とかいう言葉を使いながら、とんでもない数の発注を要求したりとか、提案されたりとか、というのが数多くあります

中学校で習う「消費者の8つの権利と5つの責任」に消費者の環境配慮の責任

1982年に国際消費者機構(CI)が提唱した、「消費者の8つの権利と5つの責任」というのがある。

参考:

「消費者の8つの権利と5つの責任」

消費者の5つの責任で挙げられているうちに、「環境に与える影響を自覚し、配慮する責任」や「社会的関心、社会的弱者への配慮をする責任」がある。

利便性のために誰かが我慢し続けるのはSDGsの「誰ひとり取り残さない」に反する

使い捨てのプラスチックは少なくしていくこと、自分のために誰かが代わりにコスト負担や労働力を提供させられることは、少なくしていく必要がある。つまり、コンビニで、無料でもらえるからといって、使い捨てプラスチックのスプーンやフォークなどを好き放題もらうことは、これらにも反するのはもちろん、2015年9月に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の理念である「誰ひとり取り残さない」にも反するのだ。

弁護士の方が、コメントで「消費者の利便性に影響を及ぼす」と書いていたが、じゃあ、加盟店オーナーが、未来永劫、客の代わりにコストを負担し続けるのを良しとするのだろうか。弁護士とは、社会的弱者の味方ではなかったか。

環境先進国で、2020年のSDGs世界ランキング一位のスウェーデンの方が、日本の状況をたびたび憂いている理由がよくわかる。日本の多くの大人は、このような消費者責任や環境配慮に関して、小学生どころか、赤ちゃん並みなのだ。「ぼく(わたし)のために、なんでも無料で与えてくれるんでしょう?」といって、口を開けて待っているような状況。で、無料でもらえないと「なんでー」と言って泣き叫ぶ。

2020年7月のレジ袋有料化も、長年、話はあったものの、コンビニ業界からの強い反発があって進まなかったと、取材を受けたメディアから聞いた。一部の政治家は、バイイングパワーや金のある業界におもねる、ということだろう。

サービスを享受する人がサービス代金を払うのは当然のこと

コンビニのスプーンやフォーク、割り箸、おしぼりは、無料ではない。加盟店がコストを払っている。また、その裏には、それらを製造し、お店まで運んで納めている企業がいる。その人たちも、適正な利益を得るべきだ。

そして、そのコストを払うべきは、本来、コンビニではなく、スプーンやフォークや割り箸やおしぼりを使う消費者自身であると考える。

プラスチックそのものが悪いのではなく、「使い捨て」にしてしまうプラスチックを減らすべきなのだ。そのことが、映画『プラスチックの海』を観るとよくわかる。プラスチックも食べ物も、命から生まれてきた。それが、捨てることで、別の命をおびやかしてしまう。

この機会に、ぜひ、周りの人とも議論してほしい。

参考情報:

「プラスチックを取り巻く国内外の状況」中央環境審議会循環型社会部会プラスチック資源循環小委員会、 産業構造審議会産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会

 2020年7月21日

追記:(2021年3月10日10:38am)

大手3社のうち、

ファミリーマートはスプーンやフォークなどに関して全額加盟店負担とのこと。

セブン-イレブン・ジャパンは、トイレットペーパーやトイレ洗剤は全額、加盟店負担。スプーン、フォーク、箸に関して「原価算入」方式を採用しており、仕入原価が算入され、荒利分配前の売上総利益がその分減るため、月間のチャージ比率によって、本部と加盟店が50:50など、按分して負担したことになるとのこと。たとえば、割り箸100膳で250円で、店の契約がチャージ50%なら、125円が加盟店の負担となる。その旨を本文に反映させた。

追記:(2021年3月10日14:29am )

ローソンも、ファミリーマート同様、全額加盟店負担であることが確認された。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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