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賞味期限切れ食品を寄付してもいい?アンケートで判明した「賞味期限への勘違い」

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(提供:イメージマート)

国(府省庁)は、これまで、備蓄の入れ替え時に、これまで保管していた食品をすべて廃棄していた。税金で買っているものを寄付することもできなかった。しかし、2019年の食品ロス削減推進法に基づき、これまでの手続きを変更することにより、有効活用が可能となった。2019年12月に農林水産省が寄付を始めたのを皮切りに、今ではほとんどの府省庁が賞味期限切れも含めて寄付して活用している。ただ、中には「賞味期限切れを押し付けるな」という意見があるという。「賞味期限切れ」には常に誤解とネガティブなイメージがつきまとうが、賞味期限切れを活用することは悪いことなのだろうか。

賞味期限切れを寄付するのは良い?悪い?

今回、賞味期限切れに関する一般の方々の考え方を調査するため「賞味期限切れ商品を寄付すること」について、616名にアンケートをとった。その回答の集計結果を下記にグラフで示す。

アンケート結果(n=616)を基に筆者作成
アンケート結果(n=616)を基に筆者作成

賞味期限切れ商品の寄付について、

「良いことだと思う」と回答した方が52.3%

「どちらかといえば良いことだと思う」と答えた方が29.9%

2つを合計すると82.2%と、良いと判断する人が8割以上を占めた。

一方、

「どちらかといえば良くないことだと思う」が6.8%

「良くないことだと思う」が2.4%、

良くないと判断した人が合計9.2%で1割以下だった。

その理由については下記の結果となった。

 アンケート(n=616)結果を基に筆者作成
 アンケート(n=616)結果を基に筆者作成

最も多い意見が「食品ロス削減につながるから」、次いで「食料支援につながるから」、3番目が「困っている人を助けられるから」、4番目が「衛生的に問題がないから」だった。

「その他」の意見の中に

ヒトの口はゴミ箱ではない。「食品ロスを減らす」ためという目的達成のためなら手段が間違っていると思う

という意見があった。

賞味期限は品質期限ではなく、おいしさのめやすに過ぎないので、賞味期限が多少過ぎたものは「ゴミ」ではない。あるテレビ局が特集番組のタイトルに「ゴミ」と銘打ったところ、商品を寄贈している食品企業の方から「わたしたちが作っているのはゴミではない」という怒りの声と苦情が届いた。一方、食品を受け取っている方からは「わたしたちが食べているのはゴミではない」との意見があった。

注:なお、廃棄物専門の研究者によれば、「ごみ」は外来語ではないため、特に強調したい場合をのぞき、基本的にはカタカナではなく、ひらがなで「ごみ」と標記してほしいとのこと。

自由意見の中には「賞味期限が切れてからの日数や保管状態、受け取る相手により可・不可が変わってくる」「賞味期限切れだけでは判断がつかない。食品の種類や期限がいつなのかによっても違うと思う」という意見があった。客観的な判断で、その通りだと思う。

また、賞味期限切れは、寄付するより販売する方がいい、という意見も複数あった。問題ない、という意見や、「寄付するのは期限前のものにして、期限切れは自分が食べる」という人もいた。他に、次のような意見があった。

  • (寄付は)賞味期限が切れると食べられないという誤った認識を改めることに繋がる(ので良い)
  • 賞味期限を気にしすぎる風潮がよろしくない
  • 賞味期限切れの食品を食べるかどうかは、食べる本人の自由意志に委ねて良いと思う。
  • 賞味期限切れと言っても切れてからの期間明記があればさらに安心できると思います。
  • 学生時代ロス食品をたくさん貰い助かった
  • だって、食べられるでしょ?
  • 賞味期限は余裕をもって設定されていること、衛生的な問題とは無関係であることより、有効利用する手立ては大事

賞味期限はあくまで目安であり、期限を過ぎても問題なく食べられること等を説明し、支援される方が納得したうえで受け取るなら、そうすべきだと強く思う。実際に期限切れ商品を販売しているお店もある。家庭で期限切れ食品があれば自己判断で食べる人もいるので、寄付もしてはいけないものではないと筆者は考える。

616名対象のアンケート結果から、「良くない」「どちらかといえば良くない」は合わせて9.2%、「良い」「どちらかといえば良い」が合わせて82.2%というデータを得ることにより、主観や自分の思い込みではなく、客観的に判断することができた。

一方、メーカーの方からは、ブランド毀損の懸念も語られた。

良い側面も理解できるが、メーカーとして賞味期限切れの商品が世間に出ることは、現状良しとすることができない。衛生上は全く問題ないが、味も落ちブランドイメージ、商品の品質への誤解を招く恐れがあり、リスクの管理が難しいと感じる。

過去には「値引きはブランド毀損になるのか」という記事も書いた。値引きで売り切っていた商品が、仕入れ先から「値引きはブランド毀損になる」と言われて売れなくなり、大量に捨てているという悩みを聞いたからだ。

賞味期限切れになれば寄付すればいいという流れが固定化するのは好ましくないとも考えるから。本来は期限切れ起こす前に消費できるのが好ましいと考える。また、寄付を受ける人=賞味期限切れの食品を食べているというスティグマが生じないように留意したい。

売り切る努力をすべき、という意見もあった。食品ロスの中には売り物ではない備蓄食品もあるので、すべてが販売できるわけではないが、商品(売り物)に関してはその通りで、売り切るのが基本だと思う。

食料支援の現場の声は

アンケートと並行して、食料支援の現場で働く方にも質問した。

ある方は「賞味期限が切れたものは、受け取る方に必ず確認して、それでいいですよと言われれば、渡している」と答えた。賞味期限が切れたものの取り扱いは、食料支援を運営する側が行うべきで、食べ物そのものに責任があるわけではない、とおっしゃった。

岡山県にあるフードシェアリングジャパンは、賞味期限切れ商品を引き取っている。「賞味期限切れ」と、賞味期限が切れていないものとに分けて、受け取る個人の方の判断にまかされているとのこと。岡山県を拠点にしているスーパー「ハローズ」が実施するハローズモデルで、朝、スーパーの店舗まで商品を引き取りに行き、その足で引き取り団体にご提供している。

生活困窮者支援や食料配布を続けているある組織では、賞味期限切れはお渡ししていない、とのこと。スタッフや自分たちで消費する分には気にしないと思うけど、気になる方もいるだろうから渡していない、と話した。

別の食料支援の団体の方は、通常配布の世帯には賞味期限切れはできるだけ使わないで、賞味期限切れは顔見知りの方のみに配るそうだ。配る場合は、賞味期限切れのステッカーを貼って、受け取る方が受け取るかどうかを選択できるようにしているとのこと。「期限切れをはっきりとアナウンスすれば、ほとんどの方は受け取ります。特に、冷凍品は期限が短いものが多く、期限切れになることもありますが、冷凍品に対しては、ユーザーの期限切れへの忌避感は少ないです」と教えてくださった。

「期限切れであれば信頼できる人に渡すこと」や、「はっきりと期限切れであることがわかるようにシールを貼ること」、「受け取る側に選択権を与えること」というやり方は、もし自分が受け取る側であれば、とてもよいと感じた。

筆者は、食料支援は、「自分が(支援を受ける)当事者」だと考えてやるのがよいと考えている。支援を受ける可能性があるのは「他人」だけではなく「自分」も含まれるという考え方だ。だから、「賞味期限切れをあげるのは受け取る人の自尊心を傷つける」とは思わない。「食品ロスを減らすために」活用したいわけでもない。自分も含めて、食べられる食資源はとことんまで食べ尽くすのがよいと考えている。賞味期限が切れると途端に「ごみ」になるわけではなく、食べられなくなるわけでもない。

食料支援を受ける方の中には「ひとり親」家庭が多くいる。筆者の父は40代で他界し、当時10歳だった弟と筆者はひとり親で育った。母と弟が暮らしている土地から遠く離れた大学に入ったばかりだったので、大学は奨学金を受け取って通った。アルバイトはしていたが、炊いたご飯にきな粉をかけて食べていたこともある。

社会人になってからは、14年5ヶ月勤めた食品企業を2011年に辞めた。2年ぐらい、福島県双葉町の方が避難していた、旧騎西(きさい)高等学校まで炊き出しに通った。双葉町の方は、「津波で家も家族もなにもかも、全部流された」と言っていた。

たとえ今どんな状況にあっても、いつでも自分が支援を受ける側にまわる「当事者」になり得る。今この瞬間に自然災害が起こったり、戦争が起こったりすれば、どんなにお金を持っている人でも、突如として「食料や水が無い人」になる。ウクライナが、今、その状況下にある。そんなとき、賞味期限が切れた飲食物しかなかったとして、それでも食べたり飲んだりしなければ、命をながらえることはできない。

「期限切れをあげるのは失礼だ」と考えて、最初から与えないやり方もある。でも、もし自分が受け取る側だったら、選ばせてもらうやり方のほうがうれしい。受け取る側、特に経済的に困窮していると「選べない悲しさ」がある場合も多い。選ぶ余地がないのだ。選ぶことのできる喜び、「選択権が与えられる幸せ」もあるのではないだろうか。受け取る側に判断をまかされれば、「自分の意志が尊重された」「選ぶ権利が与えられた」と思える。

ただ、そう感じるためには、賞味期限=品質を示すもの、ではない、「賞味期限切れイコール品質期限切れ」ではない、ということ、義務教育(中学校)で履修する内容を、食料支援で活動する大人も含めてしっかり理解しておく必要がある。教育は重要だ。

下記グラフ、緑のたての点線が「賞味期限」。過ぎても急激に品質が劣化しているわけではない。緑の実線はゆるやかに下がっており、安全に食べられる限界を超えるのは、まだずっと先だ。

消費者庁の資料を基に(株)office 3.11が制作
消費者庁の資料を基に(株)office 3.11が制作

炊き出しに並ぶビジネスパーソン、餓死するこども

日本でも、今日食べるものがなくて困っている方はたくさんいる。2年以上続くコロナ禍は、その状況に追い討ちをかけている。経済的な困窮によって食料支援を受ける人の数が増えている。

毎週土曜日に、東京都庁下で食料配布を続けている、自立生活支援サポートセンター・もやいの理事長、大西連さんは、毎回、受け取る方の数とお渡しした食品をSNSで報告している。2022年4月2日には550名の方に食料品をお渡しした。過去2番目に多い人数だったとのこと。

筆者は「おてらおやつクラブ」の監事をつとめている。「おてらおやつクラブ」は、放っておくとだめになってしまうお供えものを、仏さまのおさがりとして、必要な人、特にひとり親家庭のこどもたちに、おやつとしておすそわけする活動を続けている。今では47都道府県、1,798のお寺に活動が広がった(おてらおやつクラブについては拙著『賞味期限のウソ』p172などで解説)。

奈良・安養寺の松島靖朗さんは、2013年に大阪で発生した母子餓死事件がきっかけで、おてらおやつクラブの活動をはじめた。28歳の母親と3歳のこどもがアパートで餓死していた事件だ。母親の書き置きには「最後におなかいっぱい食べさせてあげたかった。ごめんね」と書かれていた。日本で「餓死」はありえない、と思っている人もいるが、餓死する人はゼロではない。

2014年当時、上野公園の炊き出しには400名程度が並んでいた。スーツを着てビジネスバッグを持っている人もいた。ビッグイシュー基金は東京の炊き出し情報をまとめて公開しており、必要な方は、このような情報を見て、各地へ食料や食事を求めて足を運ぶ。首都圏でも、1日一食しか食べていない小学生がいた。親が食事を作らない。お腹がすいて、給食を食べに学校へ来る子がいた。

ある都道府県は、2016年度、コンビニエンスストアから消費期限が迫ったパンや弁当を譲り受け、支援団体やNPOを通して、経済的困窮家庭のこどもたちへ提供する取り組みを始めた。余剰食品と、食料援助が必要な人を結びつける対策に、市民からは意義を認める声が寄せられた。一方、売れ残り食品を寄付することが、こどものプライドを傷つける、いじめられる、差別や偏見につながるといった可能性を危惧する声も聞かれた。

結局、この取り組みはなくなったのだそうだ。食べるのに困っていたこどもたちはどうなったのか。今日食べるものがないこどもに対して、賞味期限切れや期限間近の食品を渡さないという人は、代わりに食べ物を用意してあげられるのだろうか。

賞味期限に対する誤解を解く

弁当に表示されるのは「消費期限」。5日以内の日持ちの食べ物に表示される。時間とともに品質が急激に劣化するので、期限を守ることをお勧めする。弁当やおにぎり、サンドイッチ、刺身、生クリームのケーキなどに表示される。時刻まで印字されているのを見たことがあると思う。

一方、それ以外の多くの加工食品に表示されているのは「賞味期限」。おいしさのめやすだ。品質が切れる日付ではない。多少、風味が落ちたとしても、きちんと保管してあれば、食べることは十分可能だ。

賞味期限と守秘期限のイメージ(消費者庁の情報を基にYahoo!JAPAN制作)
賞味期限と守秘期限のイメージ(消費者庁の情報を基にYahoo!JAPAN制作)

それに加えて、企業は賞味期限設定の際、実際より短めに設定する。「安全係数」という概念によるものだ。たとえば10ヶ月おいしく食べられるカップ麺があったとして、0.8の安全係数を掛け算すると、印字される賞味期限は「8ヶ月」となる。消費者庁は、安全係数として0.8以上を推奨しているが、賞味期限を設定することのある食品分析センターでは0.7〜0.9を使っているところもある。ある冷凍食品メーカーは0.7を使っている。一年以上の賞味期限がある商品を扱うメーカーは0.66を使っている。以前、0.3を使っていたメーカーもあった。賞味期限は、メーカー側のリスクヘッジとして短めに設定されたものであることを知っておく必要がある。

賞味期限と消費期限は、今では中学校の家庭科で履修している。義務教育で習う内容なのだ。とはいえ、ある一定の年齢以上の男性は、家庭科を履修していない。家庭科が男女必修になったのは元号が平成になってからのことだからだ。神奈川県ではこども向けページで賞味期限と消費期限の違いを説明している。教育者の方には「食品ロスを考えよう」も参考になるだろう。

国は賞味期限切れを含めて積極的に活用

冒頭で述べた通り、国も、賞味期限切れ食品の活用に動き始めている。農林水産省は、2020年12月、賞味期限が過ぎた缶詰などを含む備蓄食品を、福島県の団体に寄付した。省庁としては初めての試みだ。

その後、消費者庁が続き、今ではほとんどの府省庁が、備蓄食品の入れ替え時に、今まで保管していた食品や飲用水などを寄付するようになった。農林水産省の公式サイトに「国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト」があり、ここにリスト化されている。

賞味期限が過ぎて活用されたのは缶詰だ。缶詰は、賞味期限が3年間と設定されているが、これは、缶それ自体の品質保持期限が3年間だから。真空調理してあるので、外から穴が開けられるなどの危害が加わらない限り、長期間保存できる。東京農業大学で長年、食品保存の研究をしていた客員教授の徳江千代子先生は、味の濃い缶詰や、フルーツのシロップ漬けの缶詰などは、15年間保存することができたと発言している。また、国内で発見された、70年以上前に製造された赤飯の缶詰を開封したところ、菌はまったく検出されなかった。

府省庁の備蓄は、以前はすべて処分されていた。しかし、2019年に成立・施行した食品ロス削減推進法に基づき、できる限り活用する努力義務がすべての人に課せられ、おいしさのめやすに過ぎない「賞味期限」で処分するのではなく、安全性を確認した上で活用するようになった。その経緯は記事にもまとめてある。

海外の先進事例

欧州では、賞味期限自体の見直しや、表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」と文言を入れるなどの取り組みが広がっている。英国では、2020年のコロナ禍、賞味期限が過ぎてもこの程度は活用できるというガイドラインを発表した。2017年に発表したものを改訂した内容だ。イタリアや米国でも同じようなガイドラインを発表している。

イギリスでは、大学の調査結果により、牛乳は4度以下で保管していれば、消費期限を過ぎても飲むことができることを確認し、大手スーパーが、消費期限よりゆるやかな賞味期限に変更した、ということが2022年1月に発表された。

英国食品基準庁(FSA)は、これまでSNSの公式アカウントで "use by(消費期限) "と "best before(賞味期限)"の日付の違いを説明している。

食品は、賞味期限を過ぎても安全に食べることができる。でも、風味や食感は少し落ちる。賞味期限は、そのめやすとして設定されており、(安全かどうかではなく)あくまで風味、おいしさのめやすなのだ。

デンマークは、食糧庁のお墨付きのもと、賞味期限の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」という文言を、有志企業で入れ始めた。デンマークは、これら複数の取り組みにより、5年間で25%の食品ロスを削減している。このような表示の工夫は、お隣のスウェーデンなどにも広がっている。

スウェーデンの飲むヨーグルト。賞味期限の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」と表示(ぺオ・エクベリさん撮影)
スウェーデンの飲むヨーグルト。賞味期限の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能」と表示(ぺオ・エクベリさん撮影)

「賞味期限切れは食べない」と本当に言えますか?

以上、賞味期限をとりまく状況について見てきた。

賞味期限は、おいしさのめやす。過ぎても、きちんと保管してあれば、飲食可能。逆に、直射日光にあてていた、高温高湿のところに置いておいた、などであれば、たとえ賞味期限内であっても品質が劣化している可能性もある。

拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)に書いた内容を抜粋する。

私がこの本で伝えたかったのは、「他人が決めたことを鵜呑みにする、"ひとごと"で"あなたまかせ”で受け身な姿勢をやめ、自分の頭で考え、自分の心で感じ、自ら行動し、自分の人生を切り開いていく生き方をしよう」ということです。「他人が決めたこと」は、世の中にたくさんあふれています。その一つが、この本で書いた「賞味期限」です。

賞味期限って、過去をさかのぼってずっと前からあっただろうか?この期限が始まったのは1980年代に入ってから。それまでは、製造年月日が表示されていたから、自分の五感で判断するしかなかった。今だって、野菜や果物には賞味期限は書いていない。見た目やにおいで判断している。アイスクリームにもガムにも砂糖にも塩にも一部のアルコール類にも賞味期限は書いていない(ガムは、特定保健用食品=トクホ のガムには賞味期限あり)。なければないで済ませて、わたしたちは生活していないだろうか?

北海道の占冠村(しむかっぷむら)の出身の友人に話を聞いたら、村のお通夜の時には、村の商店街で購入した、賞味期限間近(もしくは一部は切れている)の食品を買い集めたセットが、通夜の参列者に配られたそうだ。商店街は商品を買ってもらってうれしいし、参列者でそれに対して文句を言う人はいない。だから「それが普通だとずっと思ってた」と友人は話していた。

『賞味期限のウソ』を担当した編集長のご縁で、南極観測隊に派遣された方を取材したことがある。南極にはスーパーもコンビニもない。1人1トン、持ってきた食材がすべてだ。あるものでまかなうしかないので、誰も「賞味期限が切れているから食べない」なんてことは言わない、と話していた。

私たちは、いつでも自分が支援される側になりうるのだ、という視点は忘れてはならない。戦争や自然災害が発生し、食料の供給が途絶えてしまえば、お金のある無しにかかわらず、食料支援を受けなければならない。

ロシア・ウクライナ情勢で食品が不足し、食料価格が高騰している。知り合いの飲食店は、食材の価格が3倍以上に値上がりしていると話していた。この状況は、一食250円でまかなっている学校給食の現場でも同様だ。先日も、東北地方で地震があった。突如としてやってくる大災害で物流が遮断された場合、スーパーに行っても食材はない。普段から「自助」として長く保存できる食料品を備えておくのはもちろん、それがなくなれば、民間からの「共助」や行政からの「公助」に頼らざるを得ない。

あるとき、海外からの要請で突如、日本に生まれた「賞味期限」。それまで「賞味期限」は日本の世の中に存在しなかった。先入観や固定観念をとっぱらって、いま一度、賞味期限との向き合い方を考え直してみたい。

*この記事はニュースレター『616名に聞いた 「賞味期限切れ」は悪なのか? パル通信(39)』を編集しました。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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