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家で捨てる食品、5位パン、4位サラダ、3位玉ねぎ、2位野菜、1位は?イタリア・コロナで食品ロス減

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

コロナ禍で、事業者では行き場を失った食品の廃棄が世界各国で問題となっているが、一方、家庭においては減ったという調査結果もある。イタリアでは、2019年に比べて2020年の食品ロスが11%減ったという調査結果が発表された。これは2021年1月18日から21日にIpsos(イプソス)社が実施した調査に基づき、食品と持続可能性に関する国際観測所(ウェイスト・ウォッチャー:Waste Watcher International Observatory on Food and Sustainablity)が発表した報告書による。

イタリア語で発表された内容について、日本在住でイタリア人のRITAさんに取材し、解説してもらった。

イタリア:2020年の家庭における食品ロスは年間一人27kg

イタリアでは、2020年の家庭における食品ロスは、一年間に一人27kg、一週間あたりで529gと発表された。

日本の最新の食品ロス値は、2021年4月27日に発表された、一年間一人あたり47kgである(平成30年度 農林水産省・環境省推計値)が、これは家庭だけでなく、事業系も含んでいる。日本の場合、家庭由来が46%なので、これで換算すると、一人あたり年間21kgとなり、イタリアより少なく見える。が、両国で食品ロスの定義が異なるので、一概に比べることはできない。

Ipsos社の調査を基にWaste Watcherが発表した報告書より
Ipsos社の調査を基にWaste Watcherが発表した報告書より

イタリアの食品ロスは2019年より11%減

イタリア人で食品ロスが減ったのは、2020年春に実施されたロックダウンと、長い冬の間のソーシャルディスタンシングによる。

2020年には、一人当たり27kg(1週間で529g)の食品がロスになっていた。これは2019年に比べて11.78%(3.6kg)少ない値だ。

2020年は、イタリアで廃棄されずに「救われた」食品が22万2,125トンだった。金額に換算すると、一人当たり6ユーロ(約789円)、イタリア全国では3億7,600万ユーロ(約494億5,357万円)が1年間で節約できたことになる。

イタリア国内の食品廃棄物は60億4,300万ユーロ(約7,948億837万円)に相当し、イタリアの食品廃棄物のチェーン全体では100億ユーロ(約1兆3,152億5,463万円)に近い金額となっています。重量に換算すると、2020年には、家庭で166万1,107トン、サプライチェーンでの食品ロスや廃棄を含めると362万4,973トンの食品が無駄になっていることになる(Waste Watcher International/ DISTAL University of Bologna data for Zero Waste campaign and Ipsos surveys)。

捨てるのは…5位パン、4位サラダ、3位玉ねぎ・ニンニク、2位野菜、1位果物

捨てる食べ物のトップ5は次のようになっている。

1位 果物(37%)

2位 野菜(28.1%)

3位 玉ねぎ・ニンニク・塊茎(5%)

4位 サラダ(21%)

5位 焼きたてのパン(21%)

ロックダウンの数週間の間に、イタリア市民は偉大な「パン職人」であることを発見した(家庭でのパン作りに熱中した)が、調査を取り上げた記事では「今ではその情熱は失われている」と書かれている。

Waste Watcher 2021より、捨てられる食べ物トップ5
Waste Watcher 2021より、捨てられる食べ物トップ5

イタリア南部で食品ロスが多く、北部・中部では少ない傾向

イタリアの廃棄物マップを見ると、南部では、平均より15%も多くの食品や残飯が捨てられている(1週間で約602グラム)。小さな町では無駄遣いが多く、イタリア北部(8%減、1週間で約489グラム)や中部(7%減、1週間で約496グラム)では食品の無駄遣いが少ないことがわかる。

Waste Watcher 2021より、2020年のイタリアでの食品ロス
Waste Watcher 2021より、2020年のイタリアでの食品ロス

Ipsos社の科学ディレクター、エンツォ・リッソ氏は、「食品ロスの動態は、イタリア特有で、国内のさまざまな地域や社会階層、都市と村、家族のタイプによって異なる食文化の独特の地図が構築されている」と述べている。

食品ロスの削減に関心の高い地域は、前述の通り、ミラノがある北部であり(489.4g/週、平均529.3g)、低い地域はナポリやローマのある南部(602.3g/週)である。国の社会構造の観点から見ると、廃棄物への関心が低いのは下層階級と労働者階級(平均値と比べてロスは9%増)で、これらの層では卵や乳製品、調理済み食品などの廃棄物が少ない。

子どものいる家庭は平均より15%多く、収入が少ないほど食品の無駄が多い

子どものいる家庭は、より頻繁に食べ物を捨てており、平均より15%多く捨てている(下記イラストの右から2番目)。独身者は、より慎重で、小さな町の市民の方が都市部よりも食品ロスが多い(下記イラストの一番右)。意外なことに、収入が少ないほど無駄遣いが多い。自分のことを「低・中流階級」と表現するイタリア人の38%が、他の回答者より、10〜15%多く食品を捨てている。

Waste Watcher2021より
Waste Watcher2021より

なぜ食品ロスを出してしまう?46%が「うっかり忘れて賞味期限切れになり劣化」

家庭で食品ロスにしてしまう要因については、次の項目が挙げられた。

1位 忘れていて、賞味期限の近い食品が劣化してしまう(46%)

2位 購入した野菜や果物が腐りかけていた(42%)

3位 販売されていた食品がすでに古かった(31%)

4位 買い過ぎ(29%)

5位 必要な食料の量の見積もりを誤った(28%)

Waste Watcher 2021より、家庭で食品ロスになってしまう理由トップ5
Waste Watcher 2021より、家庭で食品ロスになってしまう理由トップ5

イタリアの消費者の食品ロス削減はテクノロジー活用よりアナログ

賞味期限が近い果物や野菜を、アプリなどを使って割引価格で買っているのは3.2%に過ぎない。食品管理や賞味期限の監視のためのアプリを利用しているのも4.2%に過ぎず、全体的に見て、イタリアでは、食品ロス削減に関して、テクノロジーはまだほとんど影響を与えていないようだ。

具体的にはどのような対策をとっているかというと、次のようになる。

1位 生鮮食品をきちんと消費する(89%)

2位 賞味期限を鵜呑みにしない、過ぎてから24時間後でも食べる(87%)

3位 賞味期限の長い食品を定期的に購入する(41%)

4位 食品の賞味期限ごとに冷蔵庫などを整理して置く(39%)

5位 小さな容量の製品を購入する(37%)

6位 毎週の献立に基づき買い物リストをつくる(36%)

85%が「余剰食品を生活困窮者へ寄付することを法律で義務付けるべき」

「Spreco Zero」(ごみゼロ)キャンペーンや「National Day of Food Waste Prevention」(食品ロス防止ナショナルデー)の創設者である、農業経済学者のAndrea Segrè(アンドレア・セグレ)氏は、「数ヶ月間のロックダウンと、ソーシャルディスタンシングの生活から、イタリア人は、未来に向けて行動の再構築を開始している」と説明している。食品ロス問題に対するイタリア人の関心は非常に高く、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックによって生じた貧困の拡大を受け、スーパーマーケットや企業が販売できなくなった食品を、生活困窮者を支援する団体に寄付することを法律で義務付けるべきだとする意見が85%と、高い割合を占めている。

Waste Watcher 2021より、販売できなくなった食品を必要とする人へ寄付することを義務付けるべきと答えた人がイタリアでは85%にのぼった
Waste Watcher 2021より、販売できなくなった食品を必要とする人へ寄付することを義務付けるべきと答えた人がイタリアでは85%にのぼった

食品ロスがもたらす弊害は85%が「家計の無駄遣い」

食品ロスがもたらす弊害としてイタリア人が挙げた上位5位は次の通りだった。

1位 家計(お金)の無駄遣い(85%)

2位 若者や子どもたちにとって悪い手本となってしまう(84%)

3位 モラルに反する(不道徳さ)(83%)

4位 水資源など重要な資源の浪費(80%)

5位 環境への影響や汚染(77%)

Waste Watcher 2021より、食品ロスの廃棄によってもたらされる弊害、上位5位
Waste Watcher 2021より、食品ロスの廃棄によってもたらされる弊害、上位5位

コロナ禍は持続可能性に対し「プラス」51%「ゼロorマイナス」49%

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックは、持続可能性や循環型経済への人々の関心に対し、プラスの影響を与えたか?あるいはマイナスの影響を与えたか?という問いに対し、イタリア人の意見は分かれた。51%は効果があった/非常にあったと答え、49%は効果がなかった/非常になかったと答えた。

ポジティブな効果としては、

旅行・移動の制限や航空交通量の削減(49%)

健康や幸福への関心の高まり(34%)など。

ネガティブな影響としては、

マスクのし過ぎによる廃棄物の増加(57%)

オンラインショッピングの増加による宅配便の過剰な移動や過剰な包装の発生(42%)持続可能性が後回しにされている(37%)

公共交通機関を利用する可能性が低くなった(36%)などが挙げられている。

考察

この調査が発表されるちょうど一年前、2020年2月発表で、イタリアの食品ロスが25%削減されていた。これもWaste Watcherの発表によるものである。2019年初めには毎週、一世帯から出る食品ロスが6.6ユーロ(約837円)だったところ、この一年間で減少し、一世帯毎週出る食品ロスの金額は4.9ユーロ(約621円)まで下がったという。過去10年間で一番少ないデータで、イタリア国内の食品ロスに関する調査の歴史的な出来事だったそうだ。その2019年を、2020年はさらに下回ったわけで、イタリアでは食品ロスがじわじわと減る方向に進んでいる。

日本の食品ロスの推計値は3年前のものが最新として発表される。たとえば2021年4月27日に環境省と農林水産省が発表した値は平成30年度(2018年度)のものだった。コロナ禍にあった2020年の推計値は、2023年4月にならないと発表されない。廃棄物も同様だ。それに比べてイタリアやイギリスなどの国々はタイムリーに推計値を公表しており、コロナ禍による影響を、大きなタイムラグ(時差)なく、把握することができ、市民に啓発できるのはよいことだと考える。

イタリアでは、家庭で最も捨てられるのが「果物」と「野菜」だった。日本の場合、農林水産省の調査(平成26年度)やハウス食品のアンケート調査(2019年、2020年)など、どの調査でも、家庭で最も捨てられることの多い食品は「野菜」という結果になっている。野菜など、生鮮食品の買い方や保存方法、調理方法を工夫することにより、家庭の食品ロスは大きく減らすことができると推察される。

イタリアでも、家庭の食品ロスの要因のトップに賞味期限に関する項目が挙げられており、日本に限らず、どの国でも賞味期限がロスの一因になっていることがわかる。「おいしさのめやす」に過ぎないということは、日本でも引き続き、繰り返し啓発していく必要があるだろう。

参考情報

Waste Watcher 2021

WASTE WATCHER INTERNATIONAL OBSERVATORY. IL RAPPORTO 2021 È DEDICATO ALLO SPRECO ALIMENTARE IN ITALIA E NEL MONDO. L’ITALIA S’È DESTA: NEL 2020 PIÙ VIRTUOSI I SINGLE E I GRANDI CENTRI URBANI, PEGGIO A SUD. LA PANDEMIA HA FATTO EMERGERE LA NUOVA VOCAZIONE NAZIONALE PER L’IMPEGNO SOSTENIBILE(2021.2.3 Food Affairs)

Giornata Nazionale contro lo spreco alimentare(Rai)

Spreco alimentare: Coldiretti, “con la pandemia si è ridotto, il 55% degli italiani porta gli avanzi a tavola” (2021.2.3 Riproduzione Riservata)

Covid, sostenibilità: gli italiani vogliono impegnarsi per ridurre lo spreco alimentare(2021.4.23 Ipsos)

Spreco di cibo, 4 italiani su 10 più attenti nel post-Covid(2021.4.22 Adnkronos)

FRANCIA/ITALIA: SPRECO ALIMENTARE IN TEMPO DI COVID INCONTRO DIGITALE, 15 APRILE 2021(Spreco Zero)

Anche la ristorazione in campo contro lo spreco alimentare(2021.2.5 Food Service)

CIRFOOD E LA LOTTA ALLO SPRECO ALIMENTARE DAL CAMPO ALLA TAVOLA(2021.2.2 Cirfood)

イタリア食品ロス25%減、この10年間で最小:SDGs世界レポ(52)(井出留美、2020.12.31)

コロナ禍の欧州で代替肉やオーツミルクなど植物性食品の需要増?環境配慮の動向:SDGs世界レポ(35)(井出留美、2020.8.21)

イタリア計2,244名の購買行動と食品ロス調査 コロナ禍でどう変わった?SDGs世界レポ(30)(井出留美、2020.7.23)

日本のスタートアップにも役立つ イタリアの食品ロス削減アプリ ベスト10:SDGs世界レポ(22)(井出留美、2020.6.2)

誰かのために善意のおすそわけ スーパーや店で食品を買って託すイタリア発祥「サスペンデッド・コーヒー」(井出留美、2020.5.4)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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