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パン屋のパン、1個ずつ包んで売る方式へ、プラごみ増?【#コロナとどう暮らす

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

7月からレジ袋有料化が始まる。その目的の一つは、プラごみ削減といった環境負荷の低減だ。

他方、オール日本スーパーマーケット協会ほか、12の小売関連団体が5月に発表した小売業の店舗における新型コロナウイルス感染症感染拡大予防ガイドラインには、以下のような文言がある。

「惣菜・ベーカリー等、顧客が自ら取り分ける販売方法についてはパック・袋詰め販売へと変更する」

袋詰めが増えれば、プラごみが増える可能性はある。

実際、筆者が時々行くパン屋では、以前は商品棚に包装なしで置かれていたパンが、5月ごろから、全種類、1個ずつ、ポリ袋に包まれた状態で売られるようになった。あんパンも、ベーグルも、細長いバゲットも、太っちょのフランスパンも、すべてだ。

確かに、お客が自分でパンをトレーに取る方式のパン屋で、年齢の低い子どもがパンに触ろうとしたりして、そのまま買わずに行くのを何度か目にしたことがある。子どもに罪はないけれど、衛生面で気になっていた人は以前からいるだろう。

日本在住のイタリア人「そのまま売るのはありえない」

日本在住のイタリア人、RITA(リータ)さんに聞いたところ、お客が勝手に取る方式のパン屋に「最初、日本に来たとき、びっくりしました」と語った。食品なのに、あまりの無防備さに驚いたという。

イタリアでは、この記事のトップにあげた画像のように、ショーケースの向こう側にパンがあり、お客は指を指して店員にとってもらう方式のパン屋がほとんどだという。確かに、イタリア取材に行ったときもそうだった。

日本でも、百貨店の地下(デパ地下)に入っているパン屋のうち、このように、店員に取ってもらう方式の店がある。

これなら、買ってもらえた分だけ包めばいいし、包装素材に紙を使えば、プラごみは出ない。

6月に入ってから、営業を再開した東京の日本橋・三越の地下へ行ったところ、複数のパン屋さんはショーケーススタイルだった。

デンマークの量り売り店「ロスマーケット」は容器から要る分だけ出す

フランス人がデンマークのコペンハーゲンで開店した量り売りの店、「ロスマーケット」。ここでは、シリアルやドライフルーツ、コーヒー豆、チョコレート、オリーブオイルなどの食料品や、シャンプー・洗剤といった日用品が、すべて量り売りだ。

フランス人のFrederic Hamburger(フレデリック・ハンブルガー)さんが、デンマークで包装ごみが多い事態を知り、それを解決したく、クラウドファンディングで資金を集め、2016年に開店した。

デンマークのロスマーケット(筆者撮影)
デンマークのロスマーケット(筆者撮影)

野菜や果物は、店頭や店内にそのまま置いてある。

デンマーク・ロスマーケットの店先に並べられた野菜(筆者撮影)
デンマーク・ロスマーケットの店先に並べられた野菜(筆者撮影)

前述のイタリアのRITAさんは、「イタリアのスーパーでは、お客は、ビニールの手袋をしないとだめ。素手で野菜や果物は触らない」と語った。

イタリアのスーパーでは、野菜や果物を取り分けるビニール袋は、2018年10月時点で、すでに環境に配慮した生分解性の素材が使われていた。スーパー以外の市場では、パン屋と同じように、ショーケースに入っている食品を指差して、店員にとってもらう方式をよく見かけた。

イタリア・フィレンツェの市場にある肉屋(筆者撮影)
イタリア・フィレンツェの市場にある肉屋(筆者撮影)

衛生面では○でも、プラごみ問題では×では・・・?

5月に12の小売関連団体が発表したコロナ対策のガイドライン。顧客取り分けのくだりには次のように書いてある。

商品陳列等

商品の陳列等の工夫により、局所的な混雑緩和や接触機会を削減するための以下のような取組を行う。

【スーパー・百貨店・コンビニ】

惣菜・ベーカリー等、顧客が自ら取り分ける販売方法についてはパック・袋詰め販売へと変更する。

出典:小売業の店舗における新型コロナウイルス感染症 感染拡大予防ガイドライン

確かに、パック詰めや袋詰めにすれば、感染のリスクは減るだろう。だが、2020年7月1日から始まるレジ袋有料化は、プラごみ削減も目的だったはずだ。一人の顧客が一枚か二枚使うレジ袋を減らしても、一人で3個以上買う食料品のプラスチック包装が増えれば、効果は半減するのではないだろうか。

ガイドラインには、ただ単に「袋詰めやパック詰めへ変更」とするだけでなく、「環境負荷を軽減する素材を使ったパックや袋詰めが望ましい」などの文言があってもよかったのではないだろうか。

7月から始まるレジ袋有料化に関し、一般の方の意見には「プラごみ全体に占めるレジ袋の割合なんてわずかだから、汚いエコバッグ使うよりレジ袋のほうが衛生的」というものや、「レジ袋が一枚2円なら、365日毎日使っても730円。一枚5円でも1,825円。そんな程度ならレジ袋使ったほうがいい」というものもある。

だが、レジ袋にしても食品の個包装にしても、ごみ重量が少ないからいいとか、値段が安いからOK、などといった単純な問題ではなく、レジ袋やポリ袋が軽くて海に漂流しやすいことや、それをシカなどの陸の動物や、海のクジラや魚たちが食べてしまい、健康の害や命を失うなどの事態を引き起こしてしまうことも大きな問題なのではないだろうか。

フィリピンのセブン-イレブンで瓶入り飲料を購入したときの紙袋。フィリピンでは都心の大手ショッピングモールやコンビニでは、プラ袋はもう前から使っていない。「生分解性」の文字が書いてある(筆者撮影)
フィリピンのセブン-イレブンで瓶入り飲料を購入したときの紙袋。フィリピンでは都心の大手ショッピングモールやコンビニでは、プラ袋はもう前から使っていない。「生分解性」の文字が書いてある(筆者撮影)

ポストコロナ、試食は禁止のまま?

もう一つ、前述のガイドラインには、個包装の推奨の他に、「食料品の試食販売を中止する」という文言もある。

コロナ以前を考えても、スーパーでの買い物で、毎日のように試食を出している店は少ないかもしれない。スーパーよりは、デパ地下の方が少し多かっただろうか。

筆者の考えでは、日常の買い物より、毎年、定期的に大々的に開催される、食品の展示会での試食の方が気になっていた。日本では、試食やサンプルですら、売り物と同様、「欠品はご法度」で、必要より多めに準備するのがならわしだ。その結果、毎回、余って捨てている。

小売店対象だけでなく、食品の展示会でのガイドラインも必要ではないかと思う。

海外での例を見てみよう。2020年6月5日付のdelishの記事では、パンデミックによって買い物の仕方が変わった8つのうちの1つとして「食料品の試食」が取り上げられており「最近は無料サンプルの提供は行われていない。サンプルを復活させようとしている店もある(コストコの皆さんに注目しています)」とある。

5月28日付のUSA TODAYの記事では、「コストコは、来月(6月)から、伝説の無料サンプルを復活させる予定」とある。

では6月から始まるのかと思いきや、6月8日付の記事では「食品サンプル復活に向けて、6月中旬からゆっくりとしたロールアウトを開始」とあり、腰がひけている様子が見てとれる。

食品衛生を守ることと、食品ロスを出さないことは、バランスをとる天秤のような関係だと考えている。どちらかに過剰に傾くのでは不具合が起きるが、両立はできると思う。7月1日からレジ袋有料化が始まる。ポストコロナ(コロナ後)では、食品安全を考慮しながら、環境に負荷をかけない容器包装や販売形式を、今まで以上に考えていかなければならない。

参考情報

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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