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女性YouTuberが赤飯おにぎりを早食いして窒息死 「危険だからダメ」では悲劇がまた起きる理由とは

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
赤飯のおにぎり(筆者撮影)

YouTuberの女性が、2019年4月8日のライブ配信中、大きな赤飯のおにぎりを一気に食べ、その後、意識不明になって死亡した。倒れて動かなくなる様子や、その後、視聴者の通報を受けて救急隊員2名が駆けつける様子まで配信され、見ている人に衝撃を与えた。

動画サイトのYouTubeは、危険行為を禁じているものの、実際には、早食いや一気食いなどの動画が多く配信されている。

過去にも同様の死亡事故は起こっている。現在も、同じようなことを動画配信している人がいる以上、将来的に絶対起こらないとは言えないだろう。

「危険だからダメ」からもう一歩踏み込んで心に落とすことが必要

BuzzFeed Newsが、意識不明になったYouTuberの事故をタイムリーにとらえて配信し、その後の顛末まで追跡して記事にし、読者へ警鐘を鳴らしている。

BuzzFeed Newsの取材を受けた救急医療の専門家も、取材に対し、

早食いや一気食いは危険です。基本的にやるべきではありません。とくに一人の場合は窒息死の危険があります

出典:YouTuberが配信中におにぎりの一気食いで窒息、死亡 医師は「早食い」に警鐘(BuzzFeed News)

おにぎりのように噛みきれないもの、塊のものは特に危険です

出典:YouTuberが配信中におにぎりの一気食いで窒息、死亡 医師は「早食い」に警鐘(BuzzFeed News)

と伝えている。

餅をのどに詰まらせて死亡する事故は、毎年、正月に起きて報道されてきた。だが、おにぎりが窒息死の原因になり得ることは、一般の方の認識は、まだ薄いのではないだろうか。

これまでに繰り返し同様の事故が起こっている以上、この報道を受けて、わたしたちは、もう一歩踏み込んで考え、大切なメッセージを心に深く落とす必要がある。

3.11直後、一家4人で1個のおにぎりを分け合って食べていた

おにぎりは、日本人にとって、異国に行っても思い出すくらい根付いた「ソウルフード」とも言えるだろう。

筆者が「おにぎり」と言われて思い出すことの一つに、2011年3月11日に発生した、東日本大震災の直後の出来事がある。

2011年、東日本大震災の翌月も、押しつぶされた車と家が残っていた(筆者撮影)
2011年、東日本大震災の翌月も、押しつぶされた車と家が残っていた(筆者撮影)

食品メーカーに勤めていた筆者は、自社の製品を支援物資として被災地に手配しようと、ガソリンもない、物資の保管場所もない中、連日、農林水産省に電話し、どうにか現地に運ぼうと悪戦苦闘していた。

3月14日の週、すでに被災地に入って支援活動していた知り合いのフードバンクに聞いたのが、「一つのおにぎりを一家4人で分け合って食べている」という話だった。

津波が来たため、支援物資の倉庫自体が流されてしまっている地域もあった。

いつ支援食料が来るかわからない。

一家4人にとって、たとえおにぎり1個であっても、それは命綱だ。

そんな状況で、貴重なおにぎりを、まさか一気食いとか早食いすることは起こりえないだろう。たった一口のおにぎりを、大切に、噛みしめて、味わって食べるのではないだろうか。当面の食べものがそれしかないのだから。

「おむすび食いたい」と書き残して餓死した男性

もう一つ思い出すのが、2007年、福岡県北九州市で餓死した、元タクシー運転手だった52歳男性のことだ。

生活保護申請が受け付けられず、「おむすび食いたい」と書き残して、餓死した。

今どき、日本で餓死などあるのか?と思うかもしれないが、少数でも、餓死者はいる。

「今晩、飯を炊くのにお米が用意できないという家は日本中にはないんですよ」と発言した政治家がいたが、現実には、1日1食、学校給食しか食べるものがない子どもたちも日本にいる。給食のない夏休みが明けると、彼らは痩せている。

児童養護施設でフードバンクが持ってきた食べものを食べる子どもたち(筆者撮影)
児童養護施設でフードバンクが持ってきた食べものを食べる子どもたち(筆者撮影)

農林水産省と環境省が2019年4月12日に発表した食品ロスの推計値(平成28年度)は643万トン。平成27年度が646万トンで、これは国民全員がお茶碗一杯分のご飯(あるいはおにぎり1個分:139g/人日)をごみ箱に捨てている計算になる。

捨てているそのおにぎりがあれば、この男性の命も救われたかもしれない。

誰かが早食いし、一気食いして浪費しているおにぎりは、誰かが食べたくても食べられないおにぎりかもしれない。

それでも、「(動画を)見る人が面白がってアクセスが増えるから」と言って、早食いや一気食いを続けるだろうか。

早食いもバイトテロも根っこは同じ

筆者は、昨今、話題になっていたバイトテロも、今回の早食いも、根っこは同じところにあると思っている。

つまり、

食べものを命と思っていない

ということだ。

モノだと思っている。

いつでもどこでも手に入り、いくらでも湧き出てくるモノだと勘違いしている。

食べもののもとになっている命への敬意や、食べものを作った人への慈しみ、食べられない人もいる日本で食べられる幸せな気持ちなど、まったく、ない。

消費期限の手前に設定されている「販売期限」が来たため商品棚から撤去し、廃棄されるコンビニの食べもの(オーナー提供)
消費期限の手前に設定されている「販売期限」が来たため商品棚から撤去し、廃棄されるコンビニの食べもの(オーナー提供)

見切り販売より捨てる方が本部が儲かる「コンビニ会計」も本質的には同じ

スーパーでは当たり前のようにやっている、消費期限などが接近した食品を値引きして販売する「見切り販売」。

ほとんどのコンビニで行われない背景は、見切り販売すれば、加盟店オーナーの取り分は多くなるものの、捨てた方が儲かる本部の取り分は逆に減ってしまうということだ(コンビニ会計)。

コンビニ会計では廃棄分や万引き分は損益計算書上、なかったことになる。実際には加盟店オーナーが負担し、本部はその15%〜20%程度を負担するケースが多い(辰巳孝太郎議員の公式サイトより)
コンビニ会計では廃棄分や万引き分は損益計算書上、なかったことになる。実際には加盟店オーナーが負担し、本部はその15%〜20%程度を負担するケースが多い(辰巳孝太郎議員の公式サイトより)

2009年6月22日、公正取引委員会の、株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令を受け、コンビニ各社は、加盟店オーナーに対し、見切り販売禁止をすることができなくなった。

公正取引委員会発表文書:

株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について(2009年6月22日 公正取引委員会)

セブン-イレブン・ジャパンの取引上の地位は加盟者(注2)に対して優越している

ところ,セブン-イレブン・ジャパンは,加盟店(注3)で廃棄された商品の原価相当 額の全額が加盟者の負担となる仕組み(注4)の下で,推奨商品(注5)のうちデイリー商 品(注6)に係る見切り販売(注7)(以下「見切り販売」という。)を行おうとし,又は 行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,もって,加盟者 が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担 を軽減する機会を失わせている。

出典:株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について(2009年6月22日 公正取引委員会)

それでも、取材を続けていくと、別の表現方法で、見切り販売をできるだけさせないようにしている大手コンビニ本部の姿勢が見えてくる。

儲けが多くなるためなら食べものを捨てていいという姿勢。そこにも、食べものを命などと思いもしていないことが透けて見えてくる。

「うちの会社は自然災害の時、食料支援したんだ!」と誇っている本部の方がいるらしいが、災害時の食料支援など、食品企業として当然のことだろう。大手ならなおさらだ。「非常時に寄付しといたから毎日捨ててもOK」ではない。

食べものを捨てない取り組みは、食品企業としての責務で、毎日、地道に行われるもののはずだ。

給食で牛乳の飲み残しが多い学校へ牛を連れてきた学校栄養士

学校給食でも、食べ残しや飲み残しは、ここ10年以上、課題となっている。

牛乳の飲み残しが多い小学校で、かつて、牛を一頭、学校へ連れてきた栄養士がいた。

牛(筆者撮影)
牛(筆者撮影)

彼女は、校長先生や先生方に許可をとり、1年生から6年生まで、すべての学年に「食育授業」を行なった。

子どもたちは、牛の温かさに直接触れてみる体験をした。

乳搾りもした。

牛からできているものは何があるか?親が持っているバッグやベルト、自分たちのランドセルなど、牛からできているものを持ち寄った。

牛の血液から牛乳が生まれていることを知るために、栄養士はペットボトル200本を用意した。そこに、赤い絵の具を溶かした水を入れ、子どもたちに見せ、牛の命から牛乳ができることを伝えた。

そうした授業の後、牛乳の飲み残しが激減したそうだ。

子どもたちが、それまで「モノ」と思っていた牛乳が、実は、牛が命を削って生み出しているものであると理解したからだろう。

小学校の給食では紙パックの牛乳が出されることが多い(筆者撮影)
小学校の給食では紙パックの牛乳が出されることが多い(筆者撮影)

食べものは命

今回のYouTuberの報道を耳にした時には、10代くらいの若者だと思っていた。実際には、子どもさんのいる母親だったと知って、ちょっと驚いた。

春に田植えをしたコメは、秋に稲刈りして収穫される(筆者撮影)
春に田植えをしたコメは、秋に稲刈りして収穫される(筆者撮影)

食べものについて、学校で学ぶ機会はあるが、メインで学ぶ家庭科は、受験科目でないため、素通りされてしまっているかもしれない。

でも、人として生きていくために、食べものが命から生まれていることを知り、腹落ちさせることは、とても大切だ。

「食品ロスを減らそう」という表面的なスローガンや「危険だから早食い禁止」と言うことだけではなく、食べものが命であることを体験し、心の底から納得して日々の暮らしで実践できる機会が、これからの子どもたちには必要だと、今回の事件を受けて思う。

早食いや一気食いで人が亡くなり、その人の家族や友達が悲しみ、そのあとの人生で喪失感を味わうようなことは、もう二度と起こらないで欲しい。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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