なぜ「美味しさの目安」に過ぎない賞味期限の一年も手前で備蓄食料を捨てなければならないのか

(写真:ロイター/アフロ)

2018年1月11日、東日本大震災の発生から6年10ヶ月が経過した。2018年1月11日付の朝日新聞1面で「災害用備蓄食料 震災後に急増」の記事が特集されている。朝日新聞が47都道府県と20政令指定都市を対象に調査したところ、水で戻して食べるアルファ化米やパン、クラッカーなどの備蓄食料が、2011年3月11日に発生した東日本大震災直後の2011年度から2017年度までの間に、40都道府県で1.8倍、20政令指定都市では1.6倍に増えているという。2016年度は賞味期限が近づいた備蓄食料の廃棄が44万9千食に及んだ。最も多かったのが東京都(20万食)、次いで大阪市(7万7千食)、滋賀県(7万1千食)の順だった。

毎日新聞が過去に実施した調査によれば、全国47都道府県と20政令都市にアンケートしたところ、62自治体のうち、3割近い17自治体が、賞味期限を迎える備蓄食品の引き取り手を見つけられず、廃棄処分していたことが判明している。2016年3月25日の毎日新聞の報道によれば、2010年から2014年までの5年間の総廃棄量は、全備蓄量の4分の1にあたる176万3,600食に及んでいる。

東日本大震災の翌月、石巻専修大学で支援食料を積み降ろす筆者(知人撮影)
東日本大震災の翌月、石巻専修大学で支援食料を積み降ろす筆者(知人撮影)

同じく1月11日付朝日新聞2面には、「備蓄食料 ジレンマ」と題し、期限切れ前にフードバンクに寄付をする動きもあるが、仕組み化されていない、受け手のニーズに必ずしも合っていない、などの課題に言及されている。

なぜ「美味しさの目安」に過ぎない賞味期限の一年も手前で備蓄食料を捨てないといけないのか

2018年1月10日、東洋大学白山キャンパスで、「日本と世界のフードロス(食品ロス)」と題し、経済学部国際経済学科と国際地域学部の2~4年生150名に講義を行なった。

質疑応答で、ある学生が「賞味期限が過ぎても食べられるのに、なぜ捨てるのか。フランスやイタリアでは、食品の廃棄を減らすための法整備ができているのに、日本はできないのか」という趣旨の質問をしてくれた。この問いは、私も常々感じているところである。

国は、知っていますか?食品の期限表示という告知ツールの中で「食品を無駄にせず、環境に配慮した食生活が大切です!賞味期限が切れた食品がすぐに食べられなくなる訳ではありません。 廃棄による社会的なコストも考慮しながら、買い物や保存を行っていただくことは、環境配慮の観点等からも望ましいことです。」と声を大にして語っている。

一方で、賞味期限のずっと手前、一年も手前で備蓄食料の入れ替えや廃棄をするのは、矛盾しているのではないだろうか。

東日本大震災の翌月、支援物資の仕分け作業を行なう筆者(知人撮影)
東日本大震災の翌月、支援物資の仕分け作業を行なう筆者(知人撮影)

備蓄の処分に困って泣きつく行政関係者

2017年11月下旬、備蓄食料数十万食以上が「もうすぐ賞味期限が切れてしまう」ということで、ある行政関係者が、ある大学へ「イベントなどで配れないだろうか」と打診してきた。中身は乾パンである。あと1ヶ月か2ヶ月で賞味期限切れとなってしまい、福祉施設で希望を募ったものの、乾パンの希望はなく、困っているという。ただ、大学側でも、すでに文化祭の準備は済んでしまっており、大量の乾パンをタイムリーに配布するのは難しい、という話になった。それでも、駆け込みのお願いをすることで、少しは配布できたようだった。なんだか複雑な思いだった。

フードバンクにも賞味期限の一年近く前に大量備蓄の寄付

筆者が広報責任者として勤めていたフードバンクにも、大量のケース単位で備蓄の寄付があった。東日本大震災の後は、特に増えた。食品がなくて困っている場合、食品を受け取る人ごとに、状況や調理が可能かどうか、嗜好などが異なる。日本初のフードバンクであるセカンドハーベスト・ジャパンでは、ただ右から左へ届いた食品を受け流すのではなく、どの方にはどの食品が合うかを検討してから、より適切な方に渡していた。例えば、児童養護施設では、栄養士の方が栄養計算して三食提供されるので、子どもの喜ぶ菓子や甘みのついた飲料、アイスクリームなどが好まれる。電気・ガス・水道などのライフラインが止まってしまった方は、調理ができないので、開けてすぐに食べることができる缶詰や、熱を加えなくても食べることのできるレトルト食品などが役立つ。インディカ米などは、日本人よりは、在日の外国籍の方に喜ばれる。乾パンは、ホームレスの方に差し上げることが多かった。とはいえ、乾パンばかりが何十、何百ケースと届いても、その受け手になる適切な方がいない場合がある。フードバンクでは、多くは寄付金を使って運営しており、寄付金で借りた倉庫に食料を保管する。だが倉庫のスペースを大幅に上回る備蓄食料が届くと、受け入れようがない。

エコプロダクツ展で食品ロス削減についてプレゼンする筆者(知人撮影)
エコプロダクツ展で食品ロス削減についてプレゼンする筆者(知人撮影)

提言1:入れたら出す仕組みを作る

災害対策基本法は、全国の自治体に物資の備蓄を義務付けている。例えば東京都は、2013年4月の「帰宅困難者対策条例」で、都内の事業者に対し、最低でも3日間過ごせるだけの水と食料の備蓄を努力義務として示している。ある全国紙では、東京の六本木ヒルズで働く人のための備蓄食料のコストは「年間2,000万円」と報じられていた。これを、賞味期限が来るたびに、毎回、入れ替えては捨てていたら、2,000万円が無駄になる。もちろん社員に配布するなどの対策は取られているところもあるが、まだ充分ではない。

期限が近づいたらどうするのか。備蓄食料を「入れる」義務だけではなく、「出す」ところまでをセットして仕組み化する必要があるのではないか。

参考記事:防災食「入れたら出す」仕組みで無駄なく活用

提言2:普段使いしやすい備蓄食料を採用する

ある大手企業勤務の男性が「今の備蓄食料は、昔に比べてすごく美味しくなりました。味もいいし、これなら普段の夜食にも使えるから、夕飯を食べる余裕がないとき、活用しています」とおっしゃっていた。確かに、バラエティ豊かになっている。とはいえ、特に行政からは、備蓄食料に割くことのできる予算が限られており、「できる限り最小限で」という要望が出ている。その中で、「味」や「食べやすさ」より「低コスト」が重視されてしまうのは致し方がない。

栃木県の食品メーカー、株式会社パン・アキモト。2017年12月、環境省が開催した第5回グッドライフアワードでは、153件もの応募の中から、パン・アキモトが取り組む「救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクト」が最優秀賞に選ばれた。

救缶鳥プロジェクトは、37ヶ月間の賞味期限を持つ備蓄用パンの缶詰を、賞味期限が残り1年になった時点で、買い手の方が再度購入する場合、パン・アキモトが下取りし、紛争地域などの戦地や被災地に無償で提供する。

パン・アキモトのパンの缶詰は、開けると、ふんわりとして柔らかく、咀嚼(そしゃく)力の衰えてきた年配の方でも食べやすい。提言1で述べた「備蓄を入れたら出す仕組み」も実現できている。

参考記事:

「9・9・9」(スリーナイン)に始めた 9(救)缶鳥プロジェクト

備蓄用パンの缶詰で被災地支援、環境大臣賞最優秀賞

パン・アキモトの缶詰を受け取り喜ぶフィリピンの子どもたち(写真:株式会社パン・アキモト提供)
パン・アキモトの缶詰を受け取り喜ぶフィリピンの子どもたち(写真:株式会社パン・アキモト提供)

提言3:賞味期限の長いものに関しては一定期間過ぎても使えるルールをつくる

農林水産省の「全国フードバンク調査」によれば、海外の先進国では、賞味期限が過ぎても食べられるものについては、受取り先に説明した上で、提供している。例えばフランスのフードバンクでは、ビスケットなど、賞味期限が過ぎても食べられるものについては、提供先に説明して渡しているという(前述のフードバンク調査報告書、p98参照)。とはいえ、品質管理も怠ってはいない。海外では、食品企業と同程度の食品衛生法をフードバンクが遵守しており、ポーランドでは、食品衛生のHACCPの手法をフードバンクが用いていたり、フードバンク連盟がISO9001-2000を取得していたり、フランスではフードバンク向け食品衛生ガイドラインをHACCPに基づいて作成しているという。日本でも、2017年11月から2018年1月にかけて、農林水産省の主導の元、全国各地でフードバンク向けのHACCPの講習会が開催されている。

現実問題、今、災害が発生して、賞味期限が若干過ぎた加工食品しかない場合、五感で判断して食べるしか、すべがないのではないだろうか。

以上、提言を3点まとめた。他にも、行政だけに頼らず、基本は各家庭や個人で備蓄を行なう、ということも言える。東日本大震災でもそうだったように、交通が遮断されたり、備蓄倉庫が被災したりした場合、たとえ備蓄を行なっていたとしても、各個人に届けることが叶わないからだ。

日本は災害から逃れることができない。災害に備えての備蓄は不可欠だ。だからこそ、備蓄したものを、どう循環させ、無駄にしないで活用するかは大切な課題だと考える。