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キングオブコント2023 松本人志が審査員のなかで一人だけ選び抜いたもの

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Splash/アフロ)

サルゴリラの圧勝だったキングオブコント2023

キングオブコント2023は、サルゴリラが優勝した。

採点からみれば圧勝である。

ファーストステージ+ファイナルステージの得点はこうだった。

優勝:サルゴリラ 482点+482点で964点

2位:カゲヤマ 469点+476点で945点

3位:ニッポンの社長 468点+466点で934点

きれいに1位、2位、3位に分かれている。

一目瞭然の差がある。

サルゴリラの圧勝だった。

キングオブコントは最初に1位通過すれば優勝しやすい

キングオブコントはM−1と違い、2つ見せるネタの合計点で優勝を決めるので、1本目でぶっちぎると圧倒的に有利になる。

今年も、点差を見ていれば2本目でよほどのことがないかぎり(2015年のロッチのようなことがなければ)1位通過が優勝するはずとおもってみていた。

そのとおりになった。

去年も一昨年もそうだった。

わかりやすい。M−1ほどのスリリングさがないが、これはこれでいいのだろう。

方向性の違いが審査員を悩ませたか

採点者はかなり悩んでいたようだった。

おそらく、それぞれのおもしろさの方向が違ったからだ。

わかりやすく比べるなら、カゲヤマの「お尻を見せるコント」と、ファイヤーサンダーの「喋りを中心に見せるコント」はかなり別方向の笑いである。

松本人志は、おそらくすべての芸をフラットにみようという意識が強い。

動きや「お尻」を使ったのかどうかは勘案せず、どれだけ客を引き込めるのか、途中で何度も大笑いを起こして最後まで引っ張ったか、そこをポイントに評価していたように見えた。

「お尻謝罪」のカゲヤマの採点

最初に出てきたカゲヤマの「お尻謝罪」の採点はこうであった。

95点:かまいたち山内

95点:ロバート秋山

92点:バイきんぐ小峠

92点:東京03飯塚

95点:ダウンタウン松本

95点と92点にきれいに分かれている。

小峠と飯塚は、あまり評価していない。

92点採点というのはファイナルステージに進むほどではない、という判断である。

山内、秋山、松本は高評価であった。

「サッカー日本代表ものまね芸人」ネタ採点

いっぽうファイヤーサンダー「サッカー日本代表ものまね芸人」ネタは、動きで見せるコントではなく、言葉と意外な展開で見せたコントであった。

こっちの採点はこう。

94点:山内

94点:秋山

91点:小峠

95点:飯塚

92点:松本

評価が低いのが小峠と松本。

高評価なのが山内、秋山、飯塚である。

東京03の飯塚がこういうコントに95点をつけるのはとてもよくわかる。

ファイヤーサンダーは2点差で4位となり、ファイナルに進めなかった。

サルゴリラの出順が9番目だったこと

そういうなかでサルゴリラは万遍なく支持された。

山内と松本が97、残り3人が96だった。

この1本目の採点でほぼ優勝が確定していた。

出順が9番めというのもあっただろう。

このへんで誰かが抜け出ないと、トップに出てきたお尻の印象で最後まで行ってしまう(まあそれもしかたがないが)と審査員が感じていたタイミングで、強いネタが出てきた。それで高評価したようにも見える。

この日のファーストステージでの採点最高点は97点で、山内と松本の出したこれだけである。

それで決まった。

強い芸人を見極める松本人志

サルゴリラのネタは、冬の筑波山カードや、靴下にんじん、ペンチピーチなどという小物に意識が取られると、評価がぶれるとおもう。

モノボケを見てる気分になると、おもしろさを見失ってしまうが、それを出す存在(右のほうの児玉)とその流れがただおもしろい、と感じれば評価が変わってくる。

客の気持ちを離さないことを評価軸の中心にあれば、小物の奇妙さとは関係なく、おもしろさを評価する。

どんな手立てを使おうが、最後まで客を引っ張れれば、それは強い芸人である。

審査はその強さ弱さを測っているのだ。

どの審査員もたぶん同じだが、松本人志にはその意志をとくに強く感じる。

ここ3年の採点幅の変化

今年が例年と違ったところは、ここ3年の採点の幅を見るとわかる。

以下、ファーストステージで、それぞれの点数をつけた合計の回数を並べてみる。

点数 2023年―2022年―2021年の順で並べる。

98点 0―1―1

97点 2―1―6

96点 4―5―5

95点 4―6―4

94点10―5―7

93点11―10―5

92点10―9―5

91点 6―6―5

90点 3―5―8

89点 0―2―5

(すべてファーストステージぶんのみ)

ちなみに優勝は、サルゴリラ・ビスケットブラザーズ・空気階段。

6段階でしか評価していない2人の審査員

今年採点しながら「もうちょっと刻めれば」と審査員が言っていたけれど、それは自分たちで採点幅を狭くしていたからでもある。

2022年と2021年は89点から98点までの10段階評価だったが、2023年は98点と89点採点が存在せず、広くても8段階評価になっていた。

しかも「ファーストステージ」で97点を使ったのは松本と山内だけ、90点を使ったのも小峠と山内だけなので、飯塚と秋山は6段階で評価していたのだ。

(あくまでファーストステージ審査のときの話)

それは狭いと感じるはずである。

まあ、そういう点数をつける流れだったのだろう。

前後で隔絶した力量差を感じることがほぼなかったということだ。

採点がしづらかった2023年

採点のボリュームゾーンも今年2023年は94点10回、93点11回、92点10回と固まっている。みんな狭いところで争って狭いところで採点していた。

94点は優勝の可能性を残した採点で、それが10回というのは異様に多い。

昨年2022年は93点の10回をピークにその前後にばらけていた。

2年前の2021年は90点の8回がもっとも多く、あと、94点7回、97点6回と、頂点が複数あった。

この空気階段優勝年は、出来上がりに大きな差があったわかりやすい大会だったということだろう。

(3年とも、ファーストステージ採点だけでの比較の話)

これらを比べておもうのは、今年2023年は実力伯仲というより、「採点がしづらかった大会」だと言えるのだろう。

松本人志の採点

今年の松本人志の採点順は以下のとおり。

1位97点:サルゴリラ

2位96点:ニッポンの社長

3位95点:カゲヤマ

4位同94点:蛙亭

4位同94点:隣人

6位同93点:や団

6位同93点:ジグザグジギー

6位同93点:ラブレターズ

9位同92点:ファイヤーサンダー

9位同92点:ゼンモンキー

松本人志が審査員のなかで一人だけ選び抜いたもの

松本本人が、今年は同点が多いと自分で解説していたが、たしかに例年と比べると多い。

ただ、それは4位以下での同点である。

上位3組はきちんと順番をつけて選んでいる。

そのへんの審査への意識はきわめて高い。

松本が選んだ上位3組は、ファイナルに進出した3組である。

そういう採点をしていたのは松本だけである。

秋山竜次も、1位サルゴリラ、2位カゲヤマを選んだが、でも3位94点を同点で4組並べているので、3組選抜しているわけではない(いちおうその同率にニッポンの社長は入ってはいるが)。

残りの審査員3人はニッポンの社長かカゲヤマを上位3組には入れていない。

ファーストステージの採点順位が、つまり3組選別が、ファイナル進出3組と合致していたのは、松本人志だけであった。

松本人志の選別眼はいまだ衰えず、ということだろう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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