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二宮和也新ドラマ『ONE DAY 聖夜のから騒ぎ』あきらかになった前作『VIVANT』との決定的な差

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:REX/アフロ)

クリスマスイブ1日の出来事を描く物語

ドラマ『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』が始まった。

いろいろ仕掛けのあるドラマのようだ。

2023年12月24日日曜日、この1日に起こった出来事を描く物語だという。

「から騒ぎ」という言葉がタイトルに入っているのだから、つまり、シェイクスピア喜劇のように「最後はおさまるべきところに収束する物語」ということなのだろう。個人的にはそう理解している。

主演三人で登場人物が多い

登場人物が多い。

主演が三人だ。

二宮和也。中谷美紀。大沢たかお。

この三人のクリスマスの物語らしい。

これ以外にもドラマ主演クラスの役者がつぎつぎと出てきてめまぐるしい。

江口洋介に、佐藤浩市、それに中川大志が出てくる。

ぼんやり見ていると、(私はいつも何の情報も知らずに見るので、ぼんやりしか見られないのだが)あまりに一挙にいろんな人が出てきて、驚く。

松本若菜、中村アン、桜井ユキ、福本莉子も出てくる。

どれも何かしら主演で見たことがある人ばかりだ。

みなテンポ良く出てきた。

ドラマが動きだす前に、この人たちが出そろったのだ。

流れるような展開だ。

生き急いでるとも言える。

1分21秒で主演三人がそろう

だいたいどれぐらいの早さでこの人たちが出てきたのか。

ドラマは、2018年のクリスマスイブ(月曜日、天皇誕生日の振替休日)の回想らしいシーンから始まる。(このへんもテンポ良すぎて少しわかりにくい)

それぞれの役者がいつ登場したのか、ドラマ開始からの時刻であらわしていく。

0分57秒に二宮和也(勝呂寺)登場

1分07秒に中谷美紀(倉内)登場

1分21秒に大沢たかお(立葵)登場

三人は知り合いではないので、別々に現れる。それでも81秒で三人が出てくる。

めちゃくちゃ早い。

もちろん、見てるほうは、何の意味も関係性もわからない。

サンタクロース姿の佐藤浩市が最初に登場した

ちなみにサンタクロースの格好をした佐藤浩市は二宮和也より前、開始45秒で登場している。

全身サンタクロースの姿で風船を持っている男を見るとドラマ『眠れる森』の犯人を反射的におもいだしてしまう、というあたりが、われながら記憶の引き出しがずいぶんと古いとはおもう。

二宮和也の勝呂寺誠司が「逃亡者」、大沢たかおの立葵時生が「シェフ」、中谷美紀の倉内桔梗が「キャスター」の文字が出るのが(つまりそれぞれの役割を簡潔に示したのが)それぞれ、3分49秒、5分54秒、6分45秒である。

13分30秒でメインの10人の役者を登場させる

そのあと、8分48秒に福本莉子(立葵シェフの娘)の顔が大きくうつしだされ、9分22秒に中村アン(謎の女)、9分29秒に松本若菜(刑事の狩宮)、9分39秒に江口洋介(怪しげな刑事の蜜谷)もつづいて登場する。

12分24秒に中川大志(ダークサイドの人間・笛花)、13分30秒には桜井ユキ(ソムリエールの竹本)が出てきて、これでもう10人である。

コマーシャルをひとつもはさまず13分30秒までで10人を登場させている。すさまじい早さである。

わけがわからなくてもどきどきする

こんなに早いからほぼ説明がない。

だから意味がわからないし、全貌も把握できない。

そのぶん、あ、あのドラマに出ていた人だ、という強い顔付けがなされてるようにおもう。

あ、こんな人も、あんな人も、と、ビズリーチな感じで見続けているうちにドラマが進んでいく。

わかってないのに、なんかどきどきする。

そこは成功しているとおもう。

これはこれで、ドラマの始まりとしては、ありだろう。

親切ではないがどきどきする、というのは、クリスマスイブに向かうドラマとして、いい滑り出しだったとおもう。

『VIVANT』との違い

ふつう、ドラマではこんなふうな登場をさせない。

真逆の例を挙げるのなら、前クールに二宮和也の出ていた『VIVANT』。

第一話は正味118分の長さで、2話分を超えた長さだったのだが、主人公役の堺雅人(乃木)だけが冒頭に出ている(顔が判明するのはドラマ開始して0分33秒あたり)。

地球上に彼一人だけ、というような冒頭シーンから始まり、そのあとメインキャラはずっと登場しない。

阿部寛の野崎が銃を片手に飛び込んでくるのが開始41分16秒後、そのときの爆発で驚いた二階堂ふみ(柚木)が顔を出すのが41分55秒後である。

残りの2人、役所広司(ベキ)が顔を出したのが103分50秒後で、二宮和也(ノコル)の登場は103分55秒後だった。

これはこれでひっぱりすぎだけれども、でも、超大作らしい「もったいのつけかた」だったともいえる。

まあ、このあたりが「もったいをつけた大物の登場」としては連続ドラマらしいタイムスケジュールだろう。

『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』の登場時刻表

『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』はすさまじく急いでいる。

そのテンポいい登場をもう一度、わかりやすく並べ直しておく。

0分57秒 二宮和也(勝呂寺)登場(逃亡者と出るのが3分10秒)

1分07秒 中谷美紀(倉内)登場(キャスターと出るのが6分06秒)

1分21秒 大沢たかお(立葵)登場(シェフと出るのが5分15秒)

3分31秒 佐藤浩市(真礼)登場(サンタ姿登場は0分45秒)

8分48秒 福本莉子(立葵娘)登場

9分22秒 中村アン(八幡)登場

9分29秒 松本若菜(狩宮)登場

9分39秒 江口洋介(蜜谷)登場

12分24秒 中川大志(笛花)登場

12分30秒 桜井ユキ(竹本)登場

21分17秒 最初のCMが入る

並べて見てもなんか感心する。

パルクールな二宮和也がもたらす浮遊感

テンポの良さは、二宮和也は身体でもあらわしていて、そのしなやかな動きが見事であった。

パルクールな動きの連続で、見ているほうも、身体がふわっと浮いた気分になる。爽快である。気持ちいい。

それを真似ようとした大沢たかおがまったく出来ずに大失敗というのが、両者のキャラの違いをわかりやすく示していて、楽しかった。

二宮和也は浮遊しつづけ、大沢たかおはずっと地に足つけて、這いまわるのだろう。

シェフ大沢たかおは、どうやら、レストラン内の密室喜劇を担当するようだ。『王様のレストラン』のような展開が期待できそうで、楽しみである。

すべてが「から騒ぎ」

大沢たかお以外の二人、つまり逃亡者(二宮和也)とキャスター(中谷美紀)の動きは犯罪がらみとなる。

中谷美紀のほうは事件を追う報道クルーだが、でも事件周辺にいる。

二宮和也は事件の渦中にあって逃亡している。

でも考えてみれば、舞台は一日しか展開しないドラマだから、逃亡ったって地球をまたいだ大逃亡ではなく、一日だけ動きまわるにすぎない。

たぶん、そのあたりをさして、すべて「から騒ぎ」、ということになるのではないだろうか。

主役級役者を惜しみなく登場させるということ

主役級役者を惜しみなくどんどん登場させるということは、すべて前がかりで見せていくということで、あけっぴろげにいきましょうという意図なのだろう。

祝祭感に満ちている。

「クリスマスイブに向けて“いけいけどんどん”な空気を作りたい」

そういう1990年代的な空気がどことなく漂っている。

そもそも、中谷美紀、江口洋介、佐藤浩市というラインが、まるっきり1990年代ドラマのメンバーでもあるからね。

「いけいけどんどん」でドラマを乗り切ろうとしている

二宮和也の勝呂寺は暗い役なのに、くるくる動いて宙を飛ぶという祝祭空間のトリックスター感でいっぱいだし、また警察が逃亡者を一方向からしか追わないところなどは、喜劇感に満ち満ちている。それも「吉本新喜劇的な祝祭感」である。

全体から、景気よくいこうじゃないか、というメッセージを感じる。やや、から元気なところもあるのだが、とにかく前のめりのドライブ感「いけいけどんどん」でドラマを乗り切ろうとしているようだ。

止まらず最後まで何とかつっぱしってもらいたいものだ、と願っている。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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