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「M−1」2021年の採点を振り返る 上沼恵美子の高得点はどんな影響を与えたのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Splash/アフロ)

「M−1」2021年の最高点は上沼恵美子の98点

『M−1グランプリ2021』は錦鯉が優勝した。

今年は審査員の点数がすこし幅があった。

とくに上沼恵美子は高いほうは「98点」、低いほうは「88点」をつけた。

その差10点差。かなり幅が広い。

昨年2020年での採点は上沼恵美子はすごく狭い点差しかつけず、最高が95点で最低は92点と4点幅で採点していた。

それの反動だったのかもしれない。

「審査員のみなさん、おかしいわ」

今年2021年、上沼恵美子が98点をつけたのはインディアンスとハライチである。

ファーストステージでの順位は、インディアンスは3位だったが、ハライチは9位である。

ハライチの講評のとき、「審査員のみなさん、おかしいわ」と上沼恵美子が言っていたようにかなり他の審査員と点数が違っていた。

ハライチの採点は、松本人志92点、サンドウィッチマン富澤と立川志らく90点、ナイツ塙と中川家礼二が89点、オール巨人88点である。

次点の松本よりも6点も上につけ、上沼恵美子の98点は目立っていた。

「逆張り」すると目立つ

その上沼恵美子が「気を失っていた」と評したランジャタイは(彼女の好みには合わなかったらしい)、上沼恵美子は88点だったが、立川志らくが96点をつけて、これも「逆張り」じみていて目立っていた。

ランジャタイの採点はサンドウィッチマン富澤91、ナイツ塙90、中川家礼二89、松本人志とオール巨人が87であった。合計点では最下位10位。

今年は上沼恵美子と立川志らくの「逆張り」がちょっと目立っていた。

松本人志の採点方法

M−1の審査員の採点には、それぞれの特徴がある。

松本人志は、なるべく違う点数をつけようとする。

今年もオズワルドに96点をつけ、以下、錦鯉94点、インディアンス93点、92点だけ2組あって「ハライチ」と「もも」、以下、ロングコートダディ91点、真空ジェシカ90点、モグライダー89点、ゆにばーす88点、ランジャタイ87点と違う点をつけていた。

オール巨人は、全般に点数が低い。オズワルドの94点が最高で、あとは87点から92点のあいだで点をつけている。

審査員それぞれの採点基準

中川家礼二は、同じ点を何回かつけていく。おそらく「よかった組」と「それほどでもなかった組」に大きく分けているのではないかとおもう。

サンドウィッチマン富澤は「92点」あたりを中心点として、なるべくばらけるように採点する。最高点をつけるのは1組だけ。真ん中から下は同点重複を別に避けていない。

ナイツ塙は年によって違う。今年は「89点から95点」のあいだにぎゅっと詰めて採点していた。2020年以前は、かなり上下に幅を持った採点が多かった。

審査員としての見識

立川志らくと、上沼恵美子は、飛び抜けて高い点をつけることが再々ある。

志らくはあまり低い点はつけないが、上沼恵美子は(2020年をのぞき)低いほうもかなり低くつけることがある。

この二人は、そのとき、心動かされたらとびぬけて高い点をつけているように見える。

それはそれで審査員としてのひとつの見識である。

松本人志のように、きちんと方式を決めてそれを守るのもすごいが、そのタイプばかりで審査をすると偏ってしまう。

審査員はそれぞれの独自の基準で審査して、それを点数に反映しているから、きちんとした評価につながるわけである。

それぞれが選んだ「上位3組」

志らくと上沼恵美子の「とびぬけて高く評価したこと(逆張り)」はどれぐらい影響してくるのだろうか。

各審査員のファーストステージでの採点で、上位3組に選んだのは以下の組み合わせである。

松本人志、オール巨人、ナイツ塙の3人は「オズワルド、錦鯉、インデイアンス」という最終結果と同じ3組を選んでいる。

サンド富澤はオズワルド・錦鯉ともうひとつはモグライダーを選んでいる(いいえ私はさそり座のおんなのネタ)

立川志らくは、オズワルド、もも、ランジャタイとなる。(ももは、そんなん言うたらあかん顔ネタ、ランジャタイはネコ体内侵入ネタ)

中川家礼二は、オズワルド、錦鯉、ロングコートダディである。(ロングコートダディは肉うどん生まれ変わりネタ)

上沼恵美子は、インディアンス、ハライチ、ロングコートダディの3組であった。

3位と4位は6点差だった

1位通過オズワルドは665点。

2位通過の錦鯉とインディアンスは655点だった。

その差10点。7人審査で10点差は大きい。

4位のロングコートダディは649点であった。

「M−1」では3位と4位が決定的な差となる。

3位と4位(今年は同率2位)の点差は6点だった。

僅差ではない。

2021年の最低点は「87点」とレベルが高い

2021年M−1グランプリ採点の最低点は87点である。

M−1のレベル自体が上がっている気がする。

昨年2020年の最低点は85点、2019年は82点、2018年は80点だった。

かなり低かった。

80点台前半を一人でもつけられたら、まずファーストステージを勝ち抜けない。

そういうポイントにおいては、2021年はそんな過酷な採点はなかった。

高いほうは「上沼恵美子の98点が2回」が少し目立つが、残り6人は「最高は96点、最低は87点」とちょうど10点以内で採点していた。

かなり荒っぽかった大胆採点の時代から、文化的洗練を経た上品な採点になっているように見える。でも、たまたま、今年そうだっただけなのだろう。

こんな状況は年ごとに変わるから、来年はまた過酷な点数がつけられる可能性も大いにある。

最高点と最低点を抜いて集計してみる

オリンピックなどの採点競技では「最高点と最低点」を(1つずつ)抜いて、残りの点数で比較する、という方法がある。

今年の採点にそれを適用してみる。

1人とびぬけて高い点や低い点を入れても、それを無効にする方法である。

たとえば、オズワルドの採点は、高いほうから96・96・96・95・95・94・93なので一番高い96点(をひとつ)と一番低い93点を抜いて、96+96+95+95+94で476点。そういうふうに計算していく。

あらためて採点しなおした「2021M−1」の結果

以下並べてみる(カッコ内がもとの7人合計点数)

1位 476点 オズワルド(665点)

2位 469点 錦鯉(655点)

3位 466点 インディアンス(655点)

4位 464点 ロングコートダディ(649点)

5位 459点 もも(645点)

6位 456点 ゆにばーす(638点)

7位 455点 真空ジェシカ(638点)

7位 455点 モグライダー(637点)

9位 450点 ハライチ(636点)

10位 445点 ランジャタイ(628点)

順位はほぼ変わらなかった。

錦鯉は単独2位、インディアンスが単独3位になり、ゆにばーすと真空ジェシカが同点6位だったものが、ゆにばーすが単独6位、真空ジェシカはモグライダーと同点7位という微妙な違いはある。

でも、ほぼ同じである。

少なくとも3位と4位の逆転はなく、ファイナルに進めるメンバーが入れ替わることはない。

一人とびぬけて高い点をつけても影響がない

誰か一人がとびぬけて高い点をつけていたとしても、それが全体には影響していなかった、ということだ。

上沼恵美子や立川志らくの採点も、全体の流れのなかにきれいにおさまっている。

やはりプロの7人が真剣に審査すれば、ほぼ間違いなく、その年の一位を選べているということであろう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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