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日本カバディ十勇士、13年ぶりのアジア大会メダルなるか

平野貴也スポーツライター
第19回アジア競技大会に出場するカバディ日本代表【筆者撮影】

 中国・杭州市で開催されているアジア競技大会は、アジア版五輪とも呼ばれる総合競技大会だ。陸上競技や水泳競技、サッカー、バスケットボールなど五輪同様に様々な競技が同時に行われている。五輪と違うのは、参加地域がアジアに限定されるだけではなく、五輪では採用されていない競技や種目があるのも特徴だ。その一つに「カバディ」がある。

 90年の正式競技採用以来、競技発祥国のインドが無敵を誇って来たが、前回2018年ジャカルタ大会で韓国に敗れる波乱があり、イランが初優勝。現状、インドとイランが2強を形成している。過去の大会では、パキスタンやバングラデシュ、スリランカといったインドの隣国が上位に入っており、南インド勢が強い。世界選手権の開催が不定期のため、アジア競技大会は、カバディ界最高峰の栄誉を誇る。

強国から脱落した日本、部活と漫画で盛り返し

 日本は、2010年広州大会で銅メダルを獲得。ほかに3度、3位決定戦に進出しており強国の一角に食い込もうとする存在だったが、14年仁川大会では全敗を喫した。以降の日本代表は、国内環境の変化を受けて生まれ変わろうとしている。

 仏教系でインドとのつながりが強い大正大学に発足したカバディ部および、そのOB選手がほとんどだったのが14年以前。その後、2011年に埼玉県の自由の森学園中学・高校に発足したカバディ部でジュニア年代期から競技を経験してきた選手が台頭。前回18年ジャカルタ大会は、グループリーグで敗退したが、自由の森学園OBが主戦力として加わっていた。

 さらに、現在は人気漫画「灼熱カバディ」の影響で競技を始める若者が増えており、3世代が結集したチームが現在の日本代表と言える。次回2026年のアジア競技大会は、愛知・名古屋での開催。この大会を日本でカバディを広めるきっかけとすべく、少しでも注目度を上げていきたいところ。13年ぶりのメダル獲得を目指す今大会は、インド、バングラデシュ、台湾、タイと同組。10月2日の初戦でバングラデシュとの対戦からスタートし、準決勝進出を目指す。

「カバディ、カバディ……」実はほとんど聞こえない

守備は、位置毎に役割がある。中央は、相手を引き込む。両端は帰陣を狙う相手をけん制、取り囲みを狙う。手をつなぐ「チェーン」は、2人組のうち外側が相手を狙い、もう1人が攻撃をかわす合図を送る【筆者撮影】
守備は、位置毎に役割がある。中央は、相手を引き込む。両端は帰陣を狙う相手をけん制、取り囲みを狙う。手をつなぐ「チェーン」は、2人組のうち外側が相手を狙い、もう1人が攻撃をかわす合図を送る【筆者撮影】

 カバディは、ドッジボールに似たコートを使い、最大7対7で行う「コンタクトを伴う、激しい鬼ごっこのような」競技だ。攻撃(レイド)は、1人で敵陣に入り、守備(アンティ)の選手にタッチをして自陣に帰れば、タッチした人数分の得点を得られる。一方、守備はタックルなどで帰陣を阻むことで得点を得るというのが、基本的な得点方法。7人がかりで1人に襲い掛かる場面もあり、迫力がある。攻撃時に「カバディ、カバディ、カバディ……」と言い続けなければならない独特のルールで知られるが、実際にはほぼ聞こえない。

 失点者は一時的にコート外で待機し、味方の得点によってコート内に戻る。互いの人数が変わり続ける。さらに、コート奥に設けられるボーナスラインを攻撃者が越えることによるポイントの有無が変わったり、3人以下の守備で相手を捕まえると通常の1点ではなく2点得られたりと、守備者の人数によって状況が変化するため、戦略にも幅がある。

 7人守備のポジションは、左右両側からコーナー、セカンド、カバー、センターと呼ばれる。相手攻撃者を誘い込むように両端が前方に出るのが基本形。コーナーとカバーは、守備の要。セカンドとセンターには、攻撃役の選手が配置されることが多い。

主将は日本最強のお坊さん、日本カバディ十勇士

左上から右へ背番号順。1.河野、2.真仁田、3.阿部、4.高野、5.畠山、6.下川、7.河手、8.千葉、9.荒竹、10.倉嶋【筆者撮影】
左上から右へ背番号順。1.河野、2.真仁田、3.阿部、4.高野、5.畠山、6.下川、7.河手、8.千葉、9.荒竹、10.倉嶋【筆者撮影】

以下、今大会に参加する10人の選手を紹介する。日本カバディ十勇士と呼べる、少数精鋭のメンバーだ。※年齢は、大会開会の9月23日時点

▽背番号1:河野雅亮(こうの がりょう、30歳)

チームをまとめる主将。前回大会では守備の要となるコーナーを務めたが、今回は司令塔となるため、インサイドのカバーに入る。大正大学出身。天台宗来迎山地蔵院延命寺(埼玉県さいたま市浦和区)の法嗣でもあり「日本最強のお坊さん」とも言える。

▽背番号2:真仁田悦輝(まにた えつき、27歳)

セカンド。スピードのある動きで素早く相手にタッチして得点を奪う、攻撃の主軸。人数が減った場面でも、スーパータックル(守備者3人以下で相手を捕らえて2点を得るプレー)が期待できる。自由の森学園OB。アリさんマークの引越社で働いている。

▽背番号3:阿部哲朗(あべ てつろう、25歳)

コーナーを務める守備のリーダー。初めて参加したインドのプロリーグは、大ケガを負って出場できなかったが、復調してきた。足首をつかんで相手の動きを止める「アンクルキャッチ」は、世界レベルの必殺技。自由の森学園OBで、真仁田と同じく2度目の出場。

▽背番号4:髙野一裕(たかの かずひろ、37歳)

セカンド。大正大学OBの長身レイダー(攻撃者)。相手守備者が5人以上の場合、敵陣奥に設けられたボーナスラインを越えれば、相手にタッチしなくても得点できるのだが、相手をけん制してボーナスを得るのが巧み。5度目の出場で精神的支柱でもあるベテラン戦士。

▽背番号5:畠山大喜(はたけやま まさき、26歳)

センターもしくはセカンドに入る、攻撃役。攻撃で無得点のまま自陣に帰ることが許されるのは連続2回まで。「ドゥー・オア・ダイ(生きるか死ぬか)」と呼ばれるサードレイドは、得点できなければ失点となる。精神力が強く、この場面で攻撃を託されることが多い。

▽背番号6:下川正將(しもかわ まさゆき、34歳)

両コーナー以外すべてのポジションをこなす、オールラウンダー。大正大学OBで日本代表主将も経験。インドのプロリーグでプレーした経験も持つベテランだ。体格は小柄だが、駆け引きに優れる。選手では、髙野と下川だけが2010年銅メダルの経験者だ。

▽背番号7:河手佑天(かわて ゆうてん、26歳)

カバー。守備を得意とするチームの潤滑油。味方が相手を捕まえに行った際のフォローの速さなど、気の利いたプレーが特長。早稲田大学の授業でカバディを知り、大会出場で単位をもらえると聞いたものの、あまりの激しさに気持ちが引いたというが、代表入りまで飛躍した。東邦高サッカー部出身。

▽背番号8:千葉央人(ちば ひろと、24歳)

セカンドがメインポジションだが、コーナーでの起用も可能。攻守両面で活躍するアウトサイドのオールラウンダーだ。攻撃ではスピードを生かしたランニングタッチが得意。1月に前十字じん帯を手術したため、復調具合が気がかり。

▽背番号9:荒竹大輝(あらたけ だいき、24歳)

両コーナーでプレー可能、早稲田大学を卒業したばかりの期待株。フィジカルが強く、相手とのコンタクトを前提にパワーで帰陣する攻撃プレーも可能。試合の流れを変えるゲームチェンジャーとしての起用が予想される。

▽背番号10:倉嶋彪真(くらしま ひゅうま、24歳)

漫画「灼熱カバディ」をきっかけに競技を始めた新世代。守備でコーナーから積極的に相手の背後を狙う特攻隊長だ。相手をコート外に弾き飛ばして帰陣を阻む強烈なタックルが最大の魅力。守備でも得点を狙える貴重な戦力だ。

▼日本カバディ協会公式YouTube「カバディTV」

第19回杭州アジア競技大会 カバディ日本代表選手インタビュー

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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