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部活と漫画でマイナースポーツ「カバディ」に新風

平野貴也スポーツライター
アジア大会に出場したカバディ男子日本代表【筆者撮影】

 部活と漫画。2つの力が、マイナースポーツに大きな力を与え始めている。インドネシアで行われていた第18回アジア大会が2日に閉幕を迎えた。日本は、競泳や陸上競技で多くのメダルを稼ぎ、2020年の東京五輪に向けた収穫を得た。そんな中、非五輪種目のカバディは、メジャーな競技の陰に隠れてはいたが、熱い戦いと着実な進歩を見せていた。カバディでは、アジア大会が最上のタイトル。男子日本代表の主将を務めた下川正將(保険ヴィレッジ)が「五輪にはないけれど、アジア大会では正式種目。この大会でメダルを取るために、4年間ずっと頑張って来た」と話し、高橋弘実コーチも「カバディのワールドカップもあるけど、権威としてはアジア大会が一番」と認める大舞台だった。

インド発祥の競技

 インド発祥のカバディは、アジアで盛んだ。激しいコンタクトを伴う鬼ごっこのような競技。ドッジボールに似たコートで、攻撃側は1人(レイダーと呼ぶ)で敵陣に入り、相手にタッチして自陣に戻ればタッチした選手数分の得点を得られ、守備側(アンティと呼ぶ)は相手を戻らせずに捕まえれば1点を得るというのが、基本的な得点方法だ。1人対複数のコンタクトプレーは、緊迫感と迫力がある。1人に7人がかりで襲いかかってタックルをする場面や、タックルをして来た守備側の選手の頭をつかんだ攻撃側の選手が、跳び箱のように飛び越えて自陣に逃げる場面などがあり、ダイナミックでスリリングだ。

アジア大会で強豪と激闘

アジア大会、地元インドネシアを相手に攻撃者(レイダー)を務める高野(中央)【筆者撮影】
アジア大会、地元インドネシアを相手に攻撃者(レイダー)を務める高野(中央)【筆者撮影】

 日本は、1次リーグで6チームが属するB組に入り、決勝トーナメント進出とメダル獲得が決まる上位2位を目指して5試合に臨んだ。結果は2勝3敗。最終日まで可能性を残したが、B組4位に終わった。イラン、パキスタンといった強豪に敗れたのは仕方がない部分もあるが、地元のインドネシアに接戦の末に敗れたのは痛恨だった。相手の運動能力が高く、アンティ(守備)で相手を捕まえ切れずに敵陣への帰還を許し、得点を奪われた。惜敗を喫した後、高野一裕(マンパワーグループ)は「僕たちは、フィジカルに勝る相手に、苦手意識がある。強い相手と常に戦っていないと『いつもだったら捕まえられるのに、海外だと逃げられてしまう』ということが起きる。日本の課題」と悔しがった。

「高校で競技を始めた」新世代が台頭

 カバディは、1990年の北京大会からアジア大会の正式種目となっており、日本は2010年の広州大会で銅メダルを獲得している。しかし、前回大会は、まさかの全敗。今回もメダル獲得はならなかった。それでも着実な進歩と大きな可能性が見えた。これまでは大学や社会人でプレーを始めた選手ばかりだったが、22歳の真仁田悦輝(日本カバディ協会)、20歳の阿部哲朗(大東文化大)といった高校からプレーしている選手が主力として活躍したのだ。実は、日本のカバディ界には、新たな風が吹き始めている。

「大学から始める競技」の課題

 これまでは、競技発祥の地インドとつながりの深い仏教系の大正大学にある国内唯一のカバディ部だけが、日本の選手が競技を始めるきっかけだった。大学から始めるため、競技歴は短い。日本ではマイナーなため、学生のうちは練習時間を確保しやすいが、社会人になってもプロ契約やスポンサーの獲得ができるわけではなく、練習量の確保が難しくなる課題を抱えている。しかし、近年は問題解決の突破口となる動きが起きている。

高校の部活に「カバディ」採用

 2011年に埼玉県にある自由の森学園高校でカバディ部が発足。生徒がテレビを通じて競技を知り、立ち上げに動いたという。真仁田と阿部は、この新しい部活動が輩出した選手だ。阿部は、姉がマネージャーを務めていたことがきっかけで、高校1年で入部。高校3年次には日本代表候補に選出された。卒業後は、大東文化大で公認サークル「大東ラビッツ」を立ち上げるとともに、代表で主力になり、国際舞台で経験を積んで来た。2歳年上の真仁田は、学年合同授業で当時の部活動の代表者に誘われたのがきっかけ。見学を断り切れず、最初は「ルールも分からない。何やってんだ、こいつらと思った」という未知の競技に出会い、日本代表となり、今では日本カバディ協会に所属するという人生を歩んでいる。

漫画の人気で若い競技者が増加

日本ではマイナー競技のカバディだが、競技人口が急激に増えている【筆者撮影】
日本ではマイナー競技のカバディだが、競技人口が急激に増えている【筆者撮影】

 そして、彼らに続く世代が今、急激に増え始めている。高橋コーチは「今まではテレビなどで(カバディとつぶやき続けながら競技をする面などを誇張して)おもしろスポーツとして知られていたけど『灼熱カバディ』という漫画がかなりリアルに競技を描いてくれていて、そこから新しく興味を持って競技を始めたいという方が増えて、チーム数も増えている。高校などで基本的な知識を身につけてから大学に入るだけで、全然(伸びしろが)違う」と漫画の影響で若手選手が増えていることを明かした。主将の下川も「漫画の影響も大きくて、大学でカバディをやりたい、サークルを作ったという話をよく聞くようになったし、どういう練習をすればいいのかとSNSのダイレクトメッセージが飛んでくることもある。競技をやろうとしている人が急激に増えている実感がある」と語った。競技者の増加は、現役代表のモチベーションを高めているという。

若手は即戦力、競技力向上の期待大

 真仁田は「自由の森学園は中高一貫なので、早ければ中学生からカバディを始められる環境がある。今、自分は高校のOBチームで主将をやっている。競技を続けたいけど難しいという人を拾っていきたい」と話した。マイナースポーツでは、若い世代は貴重。即戦力となる可能性も高い。また、競技人口の増加は、チーム数増加につながり、選手生命も伸ばす。今までは就職と同時に辞める選手が多かったが、OBチームなどでプレーするようになる。

日本カバディ界に強力な追い風

 中学や高校から競技を始めた選手が、社会人になっても競技を続けるようになれば、国内選手の競技歴は格段に長くなり、日本は飛躍的な成長が見込める。もちろん、世界で勝つのは簡単ではないが、阿部は「自分たちや、ほかの大学生の選手も代表候補に入るようになって、フレッシュさが出て来た。今回の経験をさらにつなげていけば、色を変えていけるんじゃないかと思っている」と新時代の旗手としての自負をのぞかせた。4年後の杭州(中国)大会、8年後の名古屋大会に向けて進む日本カバディ界の背中には、部活と漫画が生み出す新たな風が吹いている。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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